6
**
「裏手はどこも反応ありません!」
部室棟の裏側から出てきた博人に、玲奈が階段から身を乗り出す。
「2階も反応はない」
「下ももう一度見てみたけど、反応はないわ」
階段の真下の飛鳥が首をふる。
「あと、あるとしたら、プールですか?」
博人の問いかけに応じるように、玲奈がグラウンドに視線を向けた。その奥にプールはある。
「鍵がないと入れないな」
階段を降りながら、玲奈は首をふる。
「そうだわ! 私の高浜先生に頼めばいいのよ!」
飛鳥が、声高らかに告げる。
「高浜先生が協力してくれますか?」
博人の素朴な疑問に、飛鳥が目を見開く。
「私の夫になる人だもの。協力してくれるわ!」
「恵が閉じ込められているって状況なら、協力してくれるだろうけど」
飛鳥の言葉をないことにした玲奈が腕を組む。
「高浜先生に鍵を管理する権限ってありますか?」
博人の疑問に玲奈も頷く。
「私の夫が蔑ろにされるわけないわ。我が家がどれだけこの学園に寄付してると思うの?」
「古市先輩、それは関係ないと思います」
冷たく言い放った玲奈がプールから視線を戻そうとした瞬間、1つの建物に目を止める。
「体育倉庫?」
「でも、あそこは今日、実行委員会が管理してるから」
博人は首を振る。だからこそ、選択肢に出なかった場所だ。
造作した正門ゲートは大きいため、例年体育倉庫に置いてあり、当日の管理は実行委員会だ。つまり、鍵は実行委員長である恵が管理していることになる。
玲奈が疑問形になったのも、そのせいだろう。
「灯台下暗しって可能性もある」
「行きます!」
玲奈の声に反射するように博人が走り出す。飛鳥と玲奈も後を追って走り出した。
辿り着いた博人が体育倉庫の扉を開けようとするが、扉はガタリと音を鳴らすだけ。鍵が掛かっていた。
「姉ちゃん! いるのか?!」
ドンドンと博人が扉を叩く。だが返答はない。
「残るは、プールか」
追いついた玲奈と飛鳥に首をふると、玲奈が腕を組む。
「じゃあ、私の高浜先生に頼んでくるわ!」
飛鳥の声を合図にしたように、内側から扉を叩く音がする。
「姉ちゃん?!」
「遅い」
くぐもった恵の声に、3人は安堵のため息を漏らす。
「姉ちゃん、何があったんだよ」
「何でだろうね」
「何でだろう、じゃないよ。心当たりは?」
「さあ」
どうでも良さそうな恵に、がっくりと博人が項垂れる。
「恵、大丈夫か?」
「鍵開けてくれる?」
心配そうな玲奈とは対象的に、恵の声はのんびりしている。
「鍵はないの?」
博人が扉に向かって問いかける。
「職員室に戻してくれるって言うから、高浜先生に渡した。落としたら困るし」
博人と玲奈は思案顔で視線を交わす。
「鍵を高浜先生が……」
「私の高浜先生が持ってるなら話は早いわ!」
玲奈の声を遮った飛鳥が、止める間もなく走り出す。
「古市先輩だけ行かせていいんですか?」
ソワソワした博人に玲奈がハッとする。
「危ないかもしれない」
「行きます!」
走り出した博人は、スマホが震えているのに気づく。
無視しようと思ったが、バイブは一向に止まらない。
「誰だよ」
ポケットからスマホを取り出した博人が見たのは、玲奈の名前だった。
「先輩。どうしたんですか?」
『とりあえず今の情報をまとめようかと思ってな』
固い玲奈の声に、博人は唾を飲んだ。
「姉ちゃんを閉じ込めた犯人ですね?」
『そうだ。今、鍵を持っている可能性があるのは、高浜先生だ』
「だから、犯人は高浜先生しかいないです!」
『だが、理由は?』
「理由……そんなのわからないですよ。でも、証拠が揃ってるから!」
『証拠って?』
「高浜先生が、姉ちゃんが打ち合わせに来なかったって言ってたじゃないですか」
『言ってたな』
「でも、姉ちゃんは、高浜先生と会ってるんですよ? 話がおかしくないですか?」
『ちょっと待て。恵にいつ鍵を渡したのか聞く……開会式の後だそうだ』
「ほら、やっぱり!」
『じゃあ、そこまでして高浜先生が守りたかったものって、なんだ?』
「知るわけないですよ!」
博人には、恵を閉じ込めた犯人への憤りしかない。
『博人君、恵が高浜先生を連れてきて欲しいと』
どうして、という問いかけは、恵には届きそうもない。




