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「裏手はどこも反応ありません!」


 部室棟の裏側から出てきた博人に、玲奈が階段から身を乗り出す。


「2階も反応はない」

「下ももう一度見てみたけど、反応はないわ」


 階段の真下の飛鳥が首をふる。


「あと、あるとしたら、プールですか?」


 博人の問いかけに応じるように、玲奈がグラウンドに視線を向けた。その奥にプールはある。


「鍵がないと入れないな」


 階段を降りながら、玲奈は首をふる。


「そうだわ! 私の高浜先生に頼めばいいのよ!」


 飛鳥が、声高らかに告げる。


「高浜先生が協力してくれますか?」


 博人の素朴な疑問に、飛鳥が目を見開く。


「私の夫になる人だもの。協力してくれるわ!」

「恵が閉じ込められているって状況なら、協力してくれるだろうけど」


 飛鳥の言葉をないことにした玲奈が腕を組む。


「高浜先生に鍵を管理する権限ってありますか?」


 博人の疑問に玲奈も頷く。


「私の夫が蔑ろにされるわけないわ。我が家がどれだけこの学園に寄付してると思うの?」

「古市先輩、それは関係ないと思います」


 冷たく言い放った玲奈がプールから視線を戻そうとした瞬間、1つの建物に目を止める。


「体育倉庫?」

「でも、あそこは今日、実行委員会が管理してるから」


 博人は首を振る。だからこそ、選択肢に出なかった場所だ。

 造作した正門ゲートは大きいため、例年体育倉庫に置いてあり、当日の管理は実行委員会だ。つまり、鍵は実行委員長である恵が管理していることになる。

 玲奈が疑問形になったのも、そのせいだろう。


「灯台下暗しって可能性もある」

「行きます!」


 玲奈の声に反射するように博人が走り出す。飛鳥と玲奈も後を追って走り出した。

 辿り着いた博人が体育倉庫の扉を開けようとするが、扉はガタリと音を鳴らすだけ。鍵が掛かっていた。


「姉ちゃん! いるのか?!」


 ドンドンと博人が扉を叩く。だが返答はない。


「残るは、プールか」


 追いついた玲奈と飛鳥に首をふると、玲奈が腕を組む。


「じゃあ、私の高浜先生に頼んでくるわ!」


 飛鳥の声を合図にしたように、内側から扉を叩く音がする。


「姉ちゃん?!」

「遅い」


 くぐもった恵の声に、3人は安堵のため息を漏らす。


「姉ちゃん、何があったんだよ」

「何でだろうね」

「何でだろう、じゃないよ。心当たりは?」

「さあ」


 どうでも良さそうな恵に、がっくりと博人が項垂れる。


「恵、大丈夫か?」

「鍵開けてくれる?」


 心配そうな玲奈とは対象的に、恵の声はのんびりしている。


「鍵はないの?」


 博人が扉に向かって問いかける。


「職員室に戻してくれるって言うから、高浜先生に渡した。落としたら困るし」


 博人と玲奈は思案顔で視線を交わす。


「鍵を高浜先生が……」

「私の高浜先生が持ってるなら話は早いわ!」


 玲奈の声を遮った飛鳥が、止める間もなく走り出す。


「古市先輩だけ行かせていいんですか?」


 ソワソワした博人に玲奈がハッとする。


「危ないかもしれない」

「行きます!」


 走り出した博人は、スマホが震えているのに気づく。

 無視しようと思ったが、バイブは一向に止まらない。


「誰だよ」


 ポケットからスマホを取り出した博人が見たのは、玲奈の名前だった。


「先輩。どうしたんですか?」

『とりあえず今の情報をまとめようかと思ってな』

 

 固い玲奈の声に、博人は唾を飲んだ。


「姉ちゃんを閉じ込めた犯人ですね?」

『そうだ。今、鍵を持っている可能性があるのは、高浜先生だ』

「だから、犯人は高浜先生しかいないです!」

『だが、理由は?』

「理由……そんなのわからないですよ。でも、証拠が揃ってるから!」

『証拠って?』

「高浜先生が、姉ちゃんが打ち合わせに来なかったって言ってたじゃないですか」

『言ってたな』

「でも、姉ちゃんは、高浜先生と会ってるんですよ? 話がおかしくないですか?」

『ちょっと待て。恵にいつ鍵を渡したのか聞く……開会式の後だそうだ』

「ほら、やっぱり!」

『じゃあ、そこまでして高浜先生が守りたかったものって、なんだ?』

「知るわけないですよ!」

 

 博人には、恵を閉じ込めた犯人への憤りしかない。


『博人君、恵が高浜先生を連れてきて欲しいと』


 どうして、という問いかけは、恵には届きそうもない。

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