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「で、でも、姉ちゃんが面白おかしくしようと、撹乱のためにしてるかもしれないし!」
「何のために?」
「ミステリーみたいな謎解きしてみたいって、ついこの間言ってました」
博人の唯一のすがる理由に、玲奈は首を振った。
「この場合、恵は謎を解く側じゃないからな」
博人の背筋を冷たいものが走る。
「でも、姉ちゃん捕まえたって、何があるって言うんですか?」
「恵に恨みがある、学園に恨みがある、もしくは突発的な事件に巻き込まれた、それから身代金の類か」
「うちじゃ、身代金はないです。親が社長とかじゃないですし」
メイトウ学園は裕福な家庭が多い。だが学費が飛び抜けて高額というわけでもないため、博人の家のような一般家庭だって多くいる。
「会長職だから余計に勘違いされてる可能性はある」
博人はぐっと息を詰めた。
玲奈はまた靴に視線を向ける。
「靴に細工をしてあるとしたら、外に出たって可能性も捨てきれないな」
「連れ出されたとしたら、どうしようもないじゃないですか」
「とりあえず今日は正門前に実行委員の案内係がいるはずだ。裏門は今日は開放してないし、恵を見たとしたら、流石にわかるだろう。それに、正門からの車の出入りは今日は教員のみのはずだから、車の出入りがあれば目立つ」
「兎も角、正門に行きましょう!」
自分のクラスの下駄箱に走る博人は、ポケットのスマホの震えに気づいてスマホを取り出した。
表示された名前に博人は驚きつつ画面をタップする。
「原先輩、姉ちゃん現れましたか?」
『いいえ。残念ながら。ただ人手は多いほうがいいかな、って。古市先輩に声かけてみて』
祥子の告げた内容に益々珍しい、と思いつつ、出された古市飛鳥の名前に首を傾げる。
「どうして古市先輩名指しなんですか?」
『3年生は何も用事はないはずだし。元生徒会役員だし、高浜先生に迷惑かけたくないって言えば、二つ返事の上に黙っておいてくれるでしょ』
祥子の返答に、博人は苦笑しつつ納得する。
飛鳥は元書記で、生徒会の引き継ぎの時、何故か高浜の良さを熱弁した挙げ句、絶対付き合うと息巻いていたからだ。
「そうしてみます」
『じゃ』
「恵か?」
祥子の電話が切れたタイミングで、1年生の下駄箱に靴を履いた玲奈が合流した。
「いえ。原先輩です」
「原さん? 恵が操作室に来たのか?」
「いえ。探す人手になるって古市先輩に声をかけるのを提案されました」
「提案? 珍しいな」
玲奈の言い分は最もで、祥子は最低限しか生徒会の仕事をやらないし、普段積極的に問題解決のための提案などを行ったりはしない。
「声かけてみようと思いますけど、どう思いますか?」
「確かに古市先輩なら、高浜先生を助けられますとでも言えば、手伝ってくれそうだな」
3人揃っての同じ評価に、飛鳥のあの時のインパクトの強さがわかる。
「じゃあ、連絡してみます」
博人は書記の仕事でわからないことがあると飛鳥に連絡するため、連絡先は知っている。
下駄箱から靴を出して履くと、正門に向けて歩き出しながら、飛鳥に電話した。
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「恵が学園の外に出た可能性は低い、か」
下駄箱に戻ると、玲奈が口元を手で覆う。
正門では、恵の出入りも車の出入りも確認されなかった。
「じゃあ、どこかしら?」
午後の告白イベントに出るだけだから、と二つ返事で合流した飛鳥が、首を傾げる。
「今日学園祭で使ってない場所って……図書室、」
「武道場、あと部室棟くらいだな。運動部も今日は教室を使ってるから、教室は埋まっている」
考え出した博人に、玲奈が言葉を重ねる。
「息ピッタリね! 付き合ってたりして」
ふふ、と笑う飛鳥に、博人は困惑した表情で首を振った。この空気を読まない感じは、生徒会の引き継ぎでもあったものだ。
「古市先輩、高浜先生に迷惑かけることになるんですが」
玲奈の忠告に、飛鳥が目を見開く。
「私の高浜先生に迷惑かけるなんて、最低よ!」
飛鳥の口から出てきたのは手伝いをOKしたときと同じセリフだった。
「俺、武道場に行きます」
博人は下駄箱から一番遠い武道場に向かって走り出した。
「私は部室棟に行く。見つからなければ、部室棟に合流してくれ」
背中からかけられた玲奈の声に、博人は手を上げた。
「で、二人は付き合ってるの?」
「古市先輩は、図書室をお願いします」
生徒会の引き継ぎのときと同じように、玲奈は飛鳥の言葉をスルーした。




