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「靴が揃ってるな」
下駄箱の中には、ローファーがきれいに並んでいた。家では揃えない靴も、学校では違うらしい。二人は、顔を見合わせる。
「どういうことですか? 学園内にいるけど、さぼるってことですか?」
博人が眉を寄せると、玲奈が口元に手を当てる。
「さぼる、か」
玲奈がスマホを取り出して耳に当てる。
「どこに電話するんですか?」
「恵」
だが、しばらくすると玲奈はスマホを耳から離した。
「出ないな」
そう言って、玲奈はまたスマホを耳に近づける。
「今度はどこに?」
「さっきはLIME、今度は番号で……スマホの電源が切れてる」
玲奈が首を振る。
「姉ちゃん、連絡まで断って何してんだよ……」
博人は頭を抱える。
「そうだ。恵のスマホにGPSアプリ入れたか?」
「今度、絶対入れときます」
生徒会で冗談交じりに言われたことはあったが、博人が後悔したのは初めてだ。
「ヒントは、あのメッセージだけか」
「……特に変わったことは書いてないですよ」
博人は「ごめんなさい。今日の学園祭はさぼります」と書かれたLIMEを玲奈に見せる。
「いや、素直に謝るとか、おかしいだろう」
「藤田先輩、姉ちゃんだって、謝る時もあるんですよ。ごくまれに、ですけど」
博人も普段の行いを思い出して、珍しいと認めざるを得ない。
「いいや、やっぱりおかしい」
だが玲奈が首を振る。
「何がですか?」
「博人君に向けてそんな言葉遣いするのか?」
玲奈の指摘に、あ、と博人の声が漏れる。
あの場では、皆に向けてのメッセージだと思っていたから特に気にもしていなかったが、いつもの恵であれば、「ごめん」で済ますだろう。
「確かに、そうかもしれません。……でも、俺以外にも向けたものだったから」
「役員に対してだとしても、あっさり『ごめん』と書くだろ。それに、サボる必要あるのか? 恵の嫌いな授業があるわけじゃない。色々文句は言ってたが、楽しみにしていたように見えたけど、違ったのか?」
玲奈の説明に、博人は納得するしかない。
「そうですね……じゃあこれは、意図的ってことですか?」
「意図的とすれば、それ自体に意味があるってことだ。もしくは……」
そこまで言って、玲奈は口をつぐむ。
「もしくは?」
問い直した博人に玲奈は視線を床におろした。
「全くの別人が送ってきたか」
「え」
予想しなかった内容に、博人は目を見開いた。
「言葉遣いが丁寧すぎるんだよ」
「いや、でも。それは意図的なのかも……」
別人が恵のスマホを扱うことになった経緯を考えたくなくて、博人は否定する。
「この靴も、おかしいんだ」
玲奈が恵の下駄箱の中を指さす。
「何が……」
「私の知る限り、恵はいつも適当に突っ込んでる」
博人はかかとの位置が揃うローファーを見つめる。恵は家でも母親に毎回注意されているくらいだ。場所が違うからと言って、閉めれば見えなくなる下駄箱の中で、ここまで几帳面に入れるわけがない。
「いや、何かの暗号のつもりなのかもしれないですし!」
嫌な予感を振り切るように、博人は明るく告げた。玲奈がまた視線を落とす。
「暗号、ね。……サボる、か」
玲奈がおもむろにスマホをいじる。
「何か?」
「サボるの語源は、サボタージュ。フランス語らしい」
そこまで言った玲奈が、ふ、と笑いを漏らす。
「どうしたんですか?」
「元々は、破壊活動ってことらしい。……恵は学園祭を破壊したいってことになるのか?」
向けられた視線に、博人は眉を寄せる。
「まさか」
「だとは思うがな。ただあの文面は、学園祭を台無しにするんだから真面目に謝罪した、とも考えられなくはない」
「姉ちゃんが、わざわざ今から学園祭を台無しにするような面倒なことします?」
博人には、恵の行動だとすれば、不自然にしか感じなかった。
「だったら、最初から学園祭自体を開催しない方向で動くだろうな。生徒会長権限だとかなんとか言って」
腕を組む玲奈に、博人も頷く。
「その方が、らしいです」
ふむ、と玲奈が軽く握った手で口元を覆う。
「ということは、あの文面は、書いてある通りの意味ってことか?」
「それって……別の人間が書いたってことですか?」
「その方が、しっくりは来る。もしくは、書かされたのか」
二人は下駄箱に収まっているローファーを見つめた。




