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「私が、代行を務めます」


 静けさを破ったのは玲奈だった。啓太郎が頷く。


「助かる。流石に僕は科学部を放り出せないし」

「藤田さんも、生徒会以外の仕事があるんじゃないかな?」


 高浜の声に、玲奈は首を横に振る。


「帰宅部ですし、クラスは代わり頼めるので」


 神妙に聞いていた高浜が口を開く。


「だとしても、実行委員長がいなくなったことは、学園側に報告しないわけにはいかない。そもそも前代未聞の事態だ。平石先生に判断を仰がないと。流石に講師の僕には決定権はないよ」

「それって、どうなりますか?」


 みなみが眉を寄せた。高浜が首を振る。


「正直、わからない。だけど、責任者が不在になったら、学園としては学園祭の続行を認めない、って話になるかもしれない。何しろ、生徒主体のイベントだからね」


 えー、と悲鳴に似た声がみなみから漏れる。博人だって投げ出した恵には怒りを覚えている。


「高浜先生」


 にこり、と啓太郎が高浜に笑顔を向けた。どう見ても目は笑っていない。


「何、かな?」

「これ、オフレコにして下さい」

「え。それは流石に」


 高浜の表情が困っている。だが、啓太郎の笑顔は崩れない。


「僕が理事長の息子だって、ご存じですよね?」


 ははは、と高浜が力なく笑う。


「だとしても、」

「高浜先生の評判がいいのは良く知っています。来年度には、正式に学園の先生になるって噂もありますよね?」


 高浜の言葉を遮った玲奈が啓太郎と視線を交わすと、高浜は口をつぐんだ。


「閉会式までには連れ戻しますから」


 追加した玲奈の言葉に、高浜が小さく息をつく。


「僕が黙っていられるのは、せいぜい昼までだ。僕だって教師としての信念はあるんだよ。例え、僕がどうなろうとね」

「ありがとうございます。僕の一存で、採用は決まりませんから、大丈夫ですよ」


 啓太郎が頭を下げると、高浜が複雑そうに首を振った。


「僕だって、君たちが楽しみにしていたイベントを中止させたいわけじゃないんですよ」

「わかってます!」


 みなみの返事に、高浜が大きく息をつく。


「会長が見つかったら、教えて下さい」

「はい」


 生徒会役員の声が揃うと、高浜は小さく頷いて部屋を出ていく。

 パタンと閉じた音に、安堵の息が漏れる。


「本当に申し訳ないです! 責任を持って、馬鹿姉を連れ戻してきます!」


 博人は深く腰を折った。


「私も行く」


 玲奈の声に、え、と声が漏れる。


「代行でしょ?」


 拓海の疑問も尤もだった。


「行きそうなところが分かるのは、弟の博人君と友達の私だと思う。一人で探すより、効率がいいし」


 玲奈が部屋の時計に視線を向ける。時計は9時半を指していた。あと2時間半の間に、どこに行ったかもわからない恵を探すのは、一人では大変かもしれない。


「そうだね」


 啓太郎が頷いて、各々が納得した様子で頭を縦にふった。


「それにしても! 副会長二人で高浜先生いじめるのやめて下さい!」


 みなみが二人に噛みつく。


「今その話してないし」


 祥子は呆れたようにみなみを見る。


「交渉しただけだ」


 玲奈が肩を竦めると、啓太郎も同意した。


「見事に脅しだったけどね」


 拓海が、ハハと笑う。


「先生良い人なんですから、本当に辞めてくださいよ」


 みなみが口を尖らす


「良い人ねー? 例えば生徒と付き合ってても?」


 前を向いたまま、ぞんざいに祥子が呟く。


「先輩! 言っていいことと悪いことがあります!」


 むくれるみなみに、祥子は肩を竦める。


「自分だって、ファンなのに?」


 珍しく祥子が絡む。


「推し活は、現実ではないから楽しめるんです!」

「妄想癖かー」

「祥子先輩!」


 不毛とも言えるやりとりに、博人はポリポリと頬をかく。


「畠山さん、テニス部の手伝いは大丈夫なの?」


 弾かれたように、みなみが腕時計に視線を走らせる。


「行かなきゃ!」

「僕も行くよ。報告よろしく」


 部屋を飛び出していったみなみを追うように、啓太郎が出ていく。

 静けさが戻った部屋で、博人と玲奈が顔を見合わせた。


「さて、行くか」

「藤田、次の持ち場の時間はやっとくから。他の予定午後だから」


 次の時間の担当は、玲奈とみなみの予定になっている。


「悪い。よろしく頼む」

「絶対、会長引っ張ってこいよ」

「わかりました!」


 博人の答えに、拓海が親指を立てた。博人は玲奈を見る。


「藤田先輩、思いつく場所あるんですか?」

「さぼるなら、学外か……とりあえず下駄箱に行こう」

「ですね」


 博人は頷いて、玲奈と足早に部屋を後にした。

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