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完全新作。どう展開するかは、作者にも未だわかりません。
「これ、Orangeの新作スマホです! 高浜先生とお揃いなんです!」
体育館の舞台脇にある薄暗い部屋の中で、ウキウキと白いスマホを掲げたのは、生徒会会計である畠山みなみだ。ボブの髪も心なしか弾んでいる。
先ほど劇が始まった舞台には緊張感が漂っているが、扉を隔てた生徒会役員の集まる操作室の空気は緩い。
白いスマホから視線を逸らした、書記である駒沢博人の癖っ毛が、ふわりと揺れる。
学生には不相応だと親に言われたOrangeのスマホが妬ましいわけではなく、みなみに変に絡まれたくないからだ。
「それでー?」
同じく書記の原祥子が、操作盤の前にある窓から舞台を見つめたまま、興味なさげに応じた。肩までの髪は微動だにしない。
「同じスマホだったら、使い方教えて下さいって話しかけられるじゃないですか!」
みなみは強く拳を握る。
「ストーカーか」
副会長である藤田玲奈が小さく嘆息すると、みなみがムッとする。玲奈はたおやかな見た目に反して毒を吐く。
「藤田先輩、JKの先生への憧れを理解してあげてください」
博人のとりなしに、玲奈が眉を顰める。更に熱烈な高浜のファンを知っている博人からすれば、みなみの態度は単なる憧れで済ませられる。
「私もJKのはずだが」
「あれ? 会長は?」
博人が玲奈の例外性を説こうとすると、副会長である秋本啓太郎が部屋を見回す。啓太郎の眼鏡が細い光を反射した。
操作室にため息が満ちる。
ひときわ大きなため息をついたのは、博人だ。
会長と呼ばれた駒沢恵は、博人の姉だ。
恵はメイトウ学園高等部の生徒会の会長であり、今日行われる学園祭の実行委員長も兼ねている。この学園では、伝統的に生徒会役員がそのまま実行委員会の本部役員として扱われる。
「すいません。姉ちゃん、どこ行ったんだろ?!」
頭を下げた博人は、慌ててスマホを取り出す。
この流れにデジャブすら覚える。
「いつものことでしょ」
一人だけため息をつかなかった玲奈が、肩を竦める。
いつものこと。――恵が協調性なく一人どこかにふらりと出かけてしまうのは、生徒会一同にとっては、見慣れてしまった姿だった。当然、生徒会の運営上では困ることもある。
「藤田先輩! いつものことじゃありませんよ。今日は学園祭本番ですよ」
スマホを耳に当てながら、博人は玲奈に首を振る。玲奈は恵を助長する発言が多くて、いつも博人が注意する羽目になる。
「開会式の挨拶は終わってるんだし、特別に仕事があるわけでもないし、いいんじゃない?」
祥子が、操作盤に体を向けたまま、座った椅子に力なく背を持たせかけた。
「でも! 何かあったら困ります!」
勢いのあるみなみに、祥子の隣で操作盤に手をかけている会計の川崎拓海も頷く。
「学園祭の責任者は会長になるんだし、どこに行くかは言って欲しいかも。できるだけ、本部にいるって話だったよね」
日に焼けて派手な見た目の拓海だが、役員の中では一番堅実なタイプかもしれなかった。
体育館脇にある操作室は、舞台の照明や幕の上げ下ろしを行う場所で、その操作も実行委員会本部である生徒会役員の仕事となっている。そのため、必然的にここが本部になるのだ。
皆の視線が、博人に集まる。
博人は何度か掛けてもすぐ留守番電話になるスマホに、がっくりと肩を落とした。
「ごめんなさい。出ません」
「早めに戻ってくるようには連絡しといて。そろそろ行かなきゃだし」
科学部の部長でもある啓太郎が制服のネクタイを締め直す。
今の時間が本部で裏方をする祥子と拓海、それから帰宅部でクラスが展示物のみの博人以外は、自分たちのクラスや部活の模擬店に行ってしまう。
「もちろんです!」
博人が画面をタップすると同時に、聞きなれた電子音が鳴る。皆の視線が一斉にドアに向いた。
顔を出したのは、生徒会の顧問代理である高浜壮也だった。
「高浜先生!」
みなみの声が跳ねる。大学を卒業して2年しか経っていない年若い高浜は、爽やかさもあって女子生徒に人気がある。
最近は婚約者がいるらしいという噂が広まっていて、更に騒がしい。
博人はぬか喜びしたのもあって、脱力感に襲われる。




