第一話 出会い
テスト兼ての初投稿です。よろしくお願いします。
さっきまでうるさく聞こえていたはずのセミの声が静かに感じる。
足元がふらつく、めまいがする、思考がままならい。
はぁはぁと肩で息をしながら森の中をさまよって、かれこれ数時間経過している。いや、厳密には“さまよっていた”が正しいか。今はやっと見つけた、人の手が入っている山道を歩いているからだ。
大学生にもなって、連日の猛暑に森林浴でもして涼もうと登山しにきたはいいが、道に迷ってしまうとは、なんとも情けない話だ。
「これは・・・まじでやばい・・・かも」
ははっと自虐的に笑う。人間限界が近づくと笑ってしまうらしい。
持ってきた水はすでに飲みほした。体力ももうない、確実に熱中症だ。気力だけで歩いているような状態だ。
だが、休憩するわけにはいかない、もし今休もうと座ってしまえば確実に動けなくなる。
それに、車一台はぎりぎり通れそうな道だ、農家の人か林業の人かがきっと使っているはず、運が良ければ助けてくれることを祈ってひたすら歩くしかない。
しかし、足取りがおぼつかなかったため、大きめの石につまずいてしまう。こんな状態でバランスを保つことなんてできるはずがなかった。
ばたん、と倒れこんでしまう。もう指一本も動かせない。
(あぁ、もう動けないぁ)
どんどん気が遠くなっていく中そんなことを思っていたら、幻覚だろうか人影が見えた気がした。
*
うるさく聞こえるセミの声で目を覚ます。せっかく気持ちよく寝ていたのに。
日本の夏を代表する風物詩と言えば聞こえはいいが、今はうるさいものはうるさい。
「うーん・・・。」
たまらず唸り声をあげてしまう。
「お、目を覚ましたか。起きたのならさっさと帰るんだな。」
やけに乱暴な女性の声が聞こえてきた。突然のことに思わず飛び起き、声のしたほうを見る。
時が止まった。またセミの声が聞こえなくなった。
今思うとそれはまさに一目惚れだったのだろう。
「せっかく人が倒れてるところを助けてやったのに礼の一つも言えないのか。」
口ぶりは男勝りだが、綺麗な色の黒髪のショートに整った顔立ち、白っぽい肌と黒髪に映える赤い和服を着た大和撫子と言うにふさわしい女性がそこにいた。
完璧な容姿だったが一つだけ気になるところがあった。
「なんだ、ずっと黙って人の顔を見るんじゃない、失礼だぞ。」
顔というよりその少し上、つまり額を見ているのだが。
「ん?あぁ、そうか。」
何か納得した様にその女性は額にある“それ”に触れる。
「“これ”が気になるか?」
そう、気になるのはその女性の額に角が生えていることだ。
「人間と話すのは久々だったからな、隠すのを忘れていたか。」
まぁいいだろうとその女性は溜息をついた。
「それで?鬼である私を見て怖くて何も言えないのか?ん?」
どうだと言わんばかりのいたずら顔をこちらに向けてくるのだが、正直その仕草、表情、声が、『かわいい』と、思った。
「・・・。」
一瞬の沈黙、女性のいたずら顔があっけにとられたような顔に変化し、つい声に出てしまっていたとに気づく。
冷静になって考えると、熱中症で倒れているところを助けてもらった人に対して、第一声がかわいいとはいかがなものか。あやまってすぐに感謝を伝えなければと思い、あの、と声を出すが。
「は、はぁぁぁあああ!?」
こちらが驚くほどの大声で遮られてしまった。
「わ、わたしが、かか、かわっ、かわいいだと!?」
「お前正気か!?私は鬼だぞ!?」
ここまでわかりやすく、大げさな反応は見たことがなかった。
「ふふふ、あはははは!!!」
こらえきれずについ大声で笑ってしまった。
助けてくれた恩人にお礼よりも先にかわいいと言い、挙句その反応を見て笑ってしまうとは、だけどそのおかげで緊張はほどけた。
「ははは、いやぁ、すみません、僕の名前は『渡辺満華』って言います。先ほどは助けていただき、ありがとうございました。」
少し落ち着いてから、一言あやまりお礼を述べる。もちろん、かわいいなどと言ったことは触れずにだが。
「あ、あぁ、礼には及ばん、むしろ目の前で人に死なれたら目覚めが悪くなるからな。」
突然こちらが大声を出して笑ったせいか、女性の方も少し落ち着いたようだ。それにこの“人”は優しい人な気がする。
「それにしてもお前、渡辺満華とか言ったな。」
と、いきなりフルネームで呼び捨てにされるとはなぁと思いつつ、なんでしょうと返事をする。が、何やらブツブツと独り言をつぶやいている。こちらに話しかけたわけではなく名前を確認したかっただけかと納得する。
では、こちらは名乗ったのだから相手にも名乗ってもらいたいものだ。
「あの、よろしければあなたの名前を教えてくれませんか。」
これが僕、渡辺満華と鬼である茨木鬼瀬との出会いだった。
そして、軽く聞いたつもりだったはずのこの質問が厄介なことになるとは、この時は知らなかった。




