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パラレルシフト転送レポート

 次の日の朝。


「おはようございます」

「おはよう。きてもらったけど、今日は一日お店は休みにして、機器のメンテナンスをするよ」

「わかりました。それで、作戦会議ですけど」

「わかった。準備したあとで、今後のことを話し合おう」

「わたし、裏で紅茶入れてきます」

「じゃ、もう一つのカップにも紅茶よろしく」

「はい」


 バタバタ準備を終えて、店長がテーブルに何かをおいた。

 みると、手帳だ。

 スマホのスケジュールのほかに、時計デバイスでも管理はできる。

 けど、故障など用心しておおまかに手帳に書き込みをしている、ということらしい。


「この手帳には、一年間の調査報告をまとめてあるんだ」

「ダストテンダーが管理しているサークルは三ヵ所ある」

「そして、周辺には、他にダスト屋は複数ある」

把握(はあく)した近隣のサークルは十ヵ所だ」


 けれど、不安定なのは公園のものと、彼女のアパートのものだけだそうだ。


「あの物件屋にも、話しをききにいこう。もしかしたら、未来に関係ある物件管理者かもしれない」

「そんなに未来のひとが、この時間帯に訪れているのですか」

「そうだよ。この時間帯は、特別なんだ。管理者も注目してる」

「実は、お店を開店したのは三年前だけど、ある調査もあって、この時間を指定した」

「調査は何ですか」

「管理者からの情報をいえば、特異点、らしい」

「特異点?」

「そう、時間管理において、サークル同士が影響しあい、動作が不安定になる」

「そして、移動エネルギーが異常事態なのもこの時間らしい」

「管理者たちは、この特異点を平常に戻すことを優先してる」

「だから、テンダーによろしく、といわれたのだと思う」

「ここにきて、特異点の一つを調査しているのが、このお店だからね」

「本当に質問していいですか?」

「どうぞ」

「店長は三十三年から、どうしてここに」

「長くなるなぁ。やっぱりあとにしない」

「教えてくれないんですか」

「記憶と時間に関するいわゆる妖精の話しだよ。興味ある?」

「妖精」

「記憶を司る妖精と、時間を管理する妖精がいて、その二人が、時間移動に関わっているらしい」

「何でも時計デバイスを開発した、タイムデバイス初期バージョンに携わるひとりがいて、そのひとは妖精をみつけたらしい」

「そして、時計デバイスを組み上げて、発売したあと行方しれずなんだ」

「そのひとが残したメッセージが。妖精パラレルシフト。未来のことは未来にしかみつけられない」

「自分は、その妖精をみつけたくて、ここにきた」

「不安定なサークルのなかに、居そうな気がしてるんだ」

「妖精ですか。信じられないなぁ」

「今度、開発者ブックももってこようかな」

「パラレルシフト転送レポート // リバース」

「それ、何のおまじないですか」

「こういったWebレポートが発表されたのが、2x51年、三十年後だ」

「そして、開発者が創ったのが三十三年後」

「いまから、三十三年後の2x54年に、発表された時計デバイスに組まれたNTS (ナノタイムシステム)が、時間移動を可能とした」

「そして、一年かからずに世間が変わった」

「もう未来からの移動干渉は始まっているんだよ」

「移動干渉、つまり、未来からの時間移動が過干渉をおこす、ということが、繰り返し試されてきて、少しずつ時間の不安定さが増してきている」

「あるWeb預言が始まったのも三十三年後だよ」



「2x54年7月5日より愛をこめて」



「2x87年ひとびとは、時間崩壊をとめられずに、時間移動は完全停止し、過干渉により経済が停滞しはじめやがて崩壊する」

「干渉を停めるには、二人の妖精をみつけること」

「妖精パラレルシフトは、二人の妖精の物語だ」

「この都市伝説を信じて、ダストテンダーを造ったんだよ」


 またマユはだまってしまう。

 少し経ってようやく口をひらくことができた。


「予想より、斜めに込みいっていてよくわからなくなりました」

「三年前にダストテンダーを造ったっていう経緯だけ、わかってもらえれば、それで大丈夫」

「きみがDT10に出逢った、管理者のひとりが、この特異点を調査しようと決めた、けっこう偉いひとだよ」

「そして、成り行きに任せて、調査を受けた」

「その代わり、一年ごとに、その依頼状況を伝えていかなくてはいけない」

「きみにトケルンを渡したのは、そういう理由もあったよ」

「わかりました。なんとなく……ですけれど」

「今後の話しにしよう」

「はい」

「まずは、物件屋にいき、彼女の身近な話しをきいてくることだ」

「そして、彼女の部屋の前サークルに飛びこんでみよう、と思う」

「わたしが、いきます」

「いや、話しをきいてからにしよう」

「はい」


 これから、二人して物件屋に話しをききにいくことになった。


 お店は、休業日またおこしくださいませ、という貼り付けがしてある。


 ダストテンダーのカギをしめて、歩きだす。

 カラトさんは、ジーンズに長袖をきて、その上から、上着をきている。

 わたしは、ジーンズに半袖シャツをきていて、その上に軽めの上着をきている。


 二人して、外を歩くのは新鮮な感じがする、と思っていると


「二人して歩くと、新鮮だね」

「そうですね」


 カラトさんに先にいわれてしまった。

 なんか恥ずかしい。

 一緒に歩いて恥ずかしいのは、まだ慣れていないから。

 それとも、嬉しいからか、マユはよくわからない。



 物件屋までは、三十分歩く道程(みちのり)だった。

 前任の彼女の部屋には、さらに十五分かかる、と教えてくれた。

 マテリオフィス、という看板がでている。

 お店は開いてるようだ。


「こんにちは、テンダーです」


 入っていく。


「いらっしゃいませ。マテリオフィスにようこそ」

「こんにちは。お二人ですか」

「新しい物件は三件入ってますよ」

「それとも店舗用ですか」


 いきなり、商売の話しだった。


「いえ、例の保証人をうけた、物件に関してです」

「あれは、家賃も入ってるし、何か問題ありましたか」


 どうやら住む彼女の姿が見えないことは、まだ知らないらしい。


「彼女の最近の様子が知りたいのですが」

「契約のあとは、一度か二度、管理について、話しをききにいったきりですよ」

「そうですか」

「そのときの様子は?」

「頭痛が頻繁(ひんぱん)にするっていうのと、テンダーさんの話しくらいかな」


 ここで、肝心の話しをきいてみる。


「どうして、あの物件を彼女に紹介したのですか」


 すると、


「ただの、ナンパと直感です!」


 これには、店長がいう。


「ナンパ、ではないでしょう」

「何か問題ありましたか」


 すると、


「あの、カギは預かりものだと、彼女は言っていたらしいです」

「借りた家のカギではなくて、何故そういうことに」

「それは、わたしもあの部屋の管理者から、預かっているだけです」


 どういうことだろう。


「あの部屋には、他に持ち主がいるんですか」


 きくと、


「あのアパート自体が、あるひとりの名義のかたで、その部屋の一つなんです」

「じゃ、その管理者はわかるかたですか」


 すると、態度が少し変だ。


「管理資金がくるだけで、実際には会っていないんです」

「どうして、どういうことですか」

「まぁ、つまりは、オンラインで完結した物件であって。管理者と会うことはなかったんです」

「そして、どの部屋もオリジナルカギ一つしか造れないとか」


 どうして、そんなことが起こるだろうか。


「他に部屋のカギをみせてもらっても」


 カラトは試しにきいてみる。


「お待ちください」


 物件屋さんが、一度姿がみえなくなってから、戻ってくる。


「えと、これですか?」


 あのアパートの他の部屋のカギだ。しかし、特には変わっていない。


「オンラインで物件の管理を任されて、資金も入ってくる」

「だから、カギも動かすことなく、一つで行っています」


 よくみると、少し錆びているものもある。


「わかりました。ありがとうございました」


 カギを返却した。


「あとは、もう大丈夫です」

「マユさんいこうか」



 こうして、マテリオフィスをあとにする。

 お店をでると


「カギをみたかい」


 カラトさんがきいてくる。


「見えました、錆びありですね」

「つまり、ナノデバイスが含まれた、未来のものだ」

「きっと、彼女に渡されたときから、もう未来のカギだったんだ」

「でも、店長、カギに刻印はないですよね」


 すると、


「修理屋に持ち込まなければ、刻印はつかないよ」

「でも、彼女のカギだけ、テンダーの刻印があったんだ。よく、わからないままだね」

「ええ」

「だけど、何か関係があるのだろう」

「きっと、部屋の前のサークルが出現したのも理由(わけ)ありな気がするよ」

「次は?」

「一度、彼女の部屋の前まで、いこう」

「わかりました」



 こうして 十五分カラトさんと話しこみながら、いまは行方しれずな、彼女の部屋についた。


 アパートの一階、部屋の少し手前で立ち止まる。


「こちらの時計デバイスで、設定しておこう」

「きみも、同じように設定して」


 DT00のいまから十五分前に表示を動かした。


「サークルが発生しても、これで通常なら、歩いてくるまでの十五分前に移動するだけだ」


 二人の時計表示が揃っていることを確認してから、扉の前に近くまで進む。

 そして、部屋のなかに声をかけてみる。


 けれど、やはり返事はこない。


 もう少し先に、と足を進めると、店長が先にサークルに入りこんでしまい、すぐに、こちらにも出現して、そのまま飲み込まれてしまう。


 バシバシ。

 鋭い音。

 めまいと、頭痛がして目をさますと、風景は変わっていない。


 カラトさんを探すと、地面に座りこんで、時計を確認しているところだ。


「設定通りに、十五分前だ。記憶はあるかい」


 店長がきいてくる。


「大丈夫です。店長頭痛はないのですか」

「もうでる前には、頭痛薬は飲んであるよ」


 準備がいいことだ。


「まだ、不安定ではないけど、部屋には近づけないね」


 彼女はどうやって、外に出たのだろう。


「窓からかもしれないね。でも、自分たちが真似することはできないな」

「そうですね」

「いまのサークルは、少なくとも、安定しているのかも」

「一度戻りましょう。ここから、四十五分くらいですか」

「それくらいかな。十五分早くについたことになってるから、物件屋にはよらないほうがいいな」



 二人して来たときのように、話しながら、ダストテンダーのお店に戻る。


「一度休憩にしよう」

「少し考えをまとめよう」


 店舗内の雑用をこなしながら、店長は考えごとをしているようだ。



 一時間後。


「少し話そう」


 呼ばれて、店舗裏の部屋、休憩室でテーブルについた。

 テーブルには、ノートとペン、それに温かい紅茶も用意してあった。

 椅子に座ることにする。

 カラトさんも座る。


「優先して、時間や日を決めながら、公園のサークルを調べることにしよう」

「彼女の部屋のサークルに、もし不安定な要素があるなら、公園の不安定さが増して来たときのかもしれない」

「例えば公園を一年移動、二年と移動して、不安定さがある日時で、彼女の部屋を確認してみよう」

「今日は、メンテナンスもあるから、また明日にはなる」

「きみはどう、怖いかな?」

「いいえ、店長と話しもできたし、大丈夫です」

「わかった」

「それなら、今度は不明にならないように、何か目印や目的地を設定しよう」


 ノートに、何かをかいていく。

 過去に目印バツ、未来の目的地マル、時間表示を揃えるマル。

 ほかに連絡、お店の留守電、開店している日、などである。


 きみが移動するたびに、留守電にメッセージをいれよう。

 三年前よりこちらなら、電話も通じるし、できるだけ細かい連絡が必要だ。

 開店している日を目印に、移動して、応答するようにノートにも目印をつけておこう。

 公園、彼女の家、そして駅外のサークルという順番で移動を安定させよう。


「目印は何がいい」

「きかれると困りますね」

「他に、キーホルダーでももっていくのはどう」

「わかった、準備しておこう」

「お店が閉店していたら、看板にキーホルダーをつけておこう」

「わかりました」

「あとは、移動してる間のキーワードだな」

「以前のように、時間が混ざってしまうから、何かないだろうか」

「じゃ、カラトさんって呼びます」

「え」

「移動してるときの呼び名が必要でしょう」

「わかった」

「あとは、明日始める前に決めていこう」

「わかりました」

「紅茶で一息だな」


 このとき、マユは思う。

 考えてみると、もっと早くに名前呼びを思いつければよかった。


 カラトさんと呼べることが、なんとなく嬉しい。


 紅茶を飲んで、あとは二人で雑談をする。

 こうしてカラトさんはそのあと、紅茶カップを片付けし、機器のメンテナンスに入ってしまい、わたしは、細かい作業を受けて、バタバタした。


「ここまでにしよう」

「あとは明日ですか」

「早めに休みをとっておいて」

「わかりました」

「じゃお疲れさまです」


 こうして、カラトさんを残して、先に帰ることになった。


 このあとどれくらいの時間、機器のメンテナンスをするのだろう。

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