第八話
遅くなりましたごめんなさい!!!
朝。気持ちのいい朝、とは言いづらい。
ここのところはずっとそうだが。
理由は至極簡潔であの親子のせいだ。
なんとも、忌々しいのが同い年というところだろうか。
共に学校に行こうなどと言われたらと思うと堪えるものがある。
「──はあ」
「大丈夫ですか」
「だと思う?」
そう言ってイスに背を預ける。
常用のドレスもいつも思うことではあるが、邪魔だ今すぐにでも窓から外に駆け出したい。
それで辺鄙な場所で探偵でも、と考えてしまう。
それはもっと先のことだ。
今考えることではない。
「今日の予定って何があったっけ」
「特になかったと思いますが」
「そ。最近何もないわね」
でかけるか何かして気分を晴らしたいところだったが。
予定がないのは残念だが仕方のないことだろう。
あの野郎は私を外に出したくないらしい。
ま、そんなのは無視してガンガン抜け出してたけどね。
いやー、領民の皆さんは優しいですねぇ!
「アポなし凸」
「は?」
不意に出た。
出てしまったというべきか。
「何も言ってませんよ」
「アポなしと確かに聞こえましたが」
「そんな言葉は一切言っておりませんことよー」
「バレバレですね?」
ワタシショウジキワルクナイ。
抜け出そうなんて考えた時点で悪い子か。
「で?どちらに行かれるご予定で?ジル老のパン屋さん?それともカラオケにでも入り浸るおつもりで?それともローズ様のところに?」
ローズマリーちゃんはこれまた私の同い年の子である。
お茶会の時にもいた、何故か私になついている子である。
ローズマリー・エルグランド、エルグランド家長女であり、兄弟には兄を持つ。
唯一の友人といってもいい彼女は家では根暗、とのことだ。
誰にも心を開かないといった方がいいだろうか。
家族と私にのみ、心を開いているらしい。
うん、正直あの子の親御さんからその話されたときビビったよね。
怖いよあの子、でもめっちゃいい子だよ。
背中刺されないようにしなきゃ。
嗚呼、久しぶりにあの子で癒されたい。
どうせ体裁上の理由でガッコに通わされそうだ。
ヤダァ!と駄々をこねたいが無意味だね!
「イキタイ」
「いいんじゃないですか?」
「投げやりィ」
「どうせ何も言われませんよ」
「ま、そうよね」
「車なら出せますよ」
「お、乗り気じゃない」
「ドライブがしたいです」
「おっけ。いきましょ」
そういうことになった。
とりあえず私はフットワークは軽い。
気軽に抜け出すし、気軽に走り回るしアポなし凸もかます。
監視役やカメラももちろんあるが、もう無意味である。
あいつは私に関心はないので元々そんなに縛りはないが、一応死なれては困るからだろう。
アレが来たからか、さらにゆるゆるになったが。
「いつものルートで行きますか」
「地下?」
「あそこならカメラも監視もないですしね」
こういうことになった。
ということで地下の駐車場に行くことになる。
この施設は後から増設したものだ。
セイナとコレットと私、三人で頑張った成果の結晶だ。
そういう関係に全く明るくないため、駐車場とは名ばかりのただの人口の洞窟のようなものだが。
セイナとマリアに出かける旨を報告し、駐車場を抜ける。
なかなかの大きさを誇ってはいるが、こんな場所が駐車場になるわけもなく。
一応抜けた先の空き地は私の土地であるため、そこに車は止めてあるのだ。
【キベルデ王国】、私の住む国。
魔法と科学の共存、そして融合をなした国。
貴族制度、封建制を一応とってはいる。
君主はいるし、少ないが一応貴族もいる。
貴族はほぼ国にとって大切となる【聖女】を排出する【四貴族】と一部の優秀なもので構成されている。
王族もまた、三権分立となる予定で権力がなくなる予定であったが今では王族の下に三権がある形態をとっている。
この理由については秘匿されているので知る由もない。
そして今から向かうエルグランド家は【四貴族】の内には入っていない。
そもそも元々貴族ですらない。
彼らが今のこの国を象徴する存在といってもいいだろう。
彼らの技術によってこの国は科学と魔法の融合をなした。
技術によって上り詰める、能力によっての地位の樹立。
血縁や身分は関係のないもの。
今のこの国はそういうものだ。
まあ、例外はしっかりあるが。
「遠いですねぇ」
ラジオからの教育番組を聞きながら、外を見渡す。
一面に広がるには田園風景。
ここは王国の北、ここで国に流通している野菜の多くを賄っている。
「そらここ北端よ?。遠いに決まってるじゃない」
「だからこそドライブが楽しいって意味ですよ」
「そうねぇ。あ、音楽かけていい?」
「つまんないですしいいですよ」
教育番組からはすでに既知の知識ばかりが流れてくる。
飽きるほど読み、覚えたものだ。
当然、そんなものはつまらないので変えることにする。
何にしようかと少し悩んだのちにクラシックを選んだ。
母が、好んで聞いていたものだ。
「それですか。珍しいですね」
確かにあまり聞かない。
「久しぶりに聞きたくなっただけよ」
「そう──わかりました」
生前、よく一緒に聞いた曲。
頭をなでてくれて、よく一緒に寝ていたことを思い出す。
昔のことを思い出していると自然に瞼が重くなっていく。
「長時間ですからゆっくりお休みになってくださいね」
「ん、ありがと」
コレットのやさしい言葉に感謝をし、瞼を下ろす。
そして意識を手放した。
「マリア―?」
厨房、コレットとイザベラの二人がでかけるため、三人前にとどめた夕飯を作っているマリアの後方。
扉を開ける音が聞こえ、セイナがマリアに呼びかける。
「どうしました?」
「二人どこに行くんだっけ?」
「エルグランド様のところかと」
「おーけー。着くのはまああさってくらいかな?」
「その程度の距離ですかね」
王国の国土はそんなに広い方ではない。
高速道路も使うだろうし、かかる日程でいえばその程度だろう。
「じゃあアポは明日でいっか」
「ですね」
かのエルグランド家もそんなに厳格な方々ではない。
イザベラを気に入っているため、アポなしで行っても喜ばれるだろうが、マナーは大切である。
御多忙な方々ではあるのだ。
まあそんなこと感じられない方々でもあるのだが。
「今日のご飯なにー?」
「親子丼ですよ」
「親子丼と聞いて」
「どこから来たんですか師匠」
「まだ時間かかりますから。待っててください」
「「はーい」」
「将棋でもしますか師匠」
「ぼこぼこにしてやろう」
どこからもってきたのか将棋?なることをやり始める二人。
親子丼だけでもいいが、少し別のものも作るとしよう。
まだ作り始めてすらいないが、まあいい。
「誰か来たぞ」
「今日誰かくる予定あったっけ」
「あったら出かけてませんよ」
「ということは、うん」
「あの二人ですね」
「話にあった二人か」
「さて!どうしましょう」
お嬢様はいない、旦那様の関係で追い返せもしない。
勝手に外出したことはバレると面倒である。
「転移でお嬢様のところには」
「残念一人専用だ」
詰んでないですかこれ。
「なんか、ないですかね」
「あるかなー?」
「────思いつかんな」
助けてイザベラえもん。