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第六話

戦闘シーンホント苦手らしいですねぇ。

速く、鋭く、そして叩き潰す。

簡単なことで難しいことだ。

魔物とはいえ殺すというのは少し、いやかなり精神に堪える。

しかし、血は吹き出てこない。

断末魔も上げなかった。

それに、柔らかい。

なんとも私に優しい試練だ。


「中々いい腕じゃないか」


「私などまだまだです」


その言葉に偽りはない。

今もヤヨイさんのおかげで私は戦えているのだ。

簡単に、蹴散らせるまでに私自身の強化魔法に強化を上乗せしてくれている。


ヤヨイさんは、そうかと鼻を鳴らした。


「身体が自分のものには思えませんわね」


「私が有能だからな」


「───まぁ、それには同意ですわ」


豆腐より柔らかい魔物を屠っていく。

そんな時間が惰性的に過ぎていった。

均等に魔物が産み落とされ、決まった感覚で来る。

そのため、簡単に迎撃が可能。

数が多ければ脅威に感じたかもしれないが数も10に満たない。


「柔らかくないですか?」


「特別弱く設定してある」


「───ああ、了解です」


理解、というか納得というか。

もっと血沸き肉躍る戦いを想像していた身としては拍子抜けである。


「ガッカリしてるか?」


「まあ、はい。これで魔法が使えるのです?」


「最下級のものだが、もちろんな」


「───へー」


「わかりやすくテンションを下げるな」


「だってぇ、えぇ?」


気を抜いても問題ない。

そんなレベルで簡単な試練。

気を引き締めていたのがバカみたいだと肩を落とす。


「ガッカリせずともドギツイのは最後に来る」


「え?」


「ほれあっちだ」


ヤヨイさんが闘技場の中央を指さす。

入口にいる私たち、広いが当然見える位置に魔法陣が現れた。


「ボスは遅れてやってくるって言うだろ?」


「言わないと思いますがね。私一人で?」


「もちろん」


「ですよね。よし、やりますか」


気合いを入れ直す。


「──強いんですわよね?」


「今のあんたから見たらな。ちょうどいいくらいだ」


「ふむ、これまでの必要でした?」


「あることはあるぞ」


「━━━ホントにぃ?」


「ホントに」


「まあいいですわよ。やってやりますわよ」


魔法陣から人が浮き出てくる。

弱冠14歳の私より大きく、大人の印象を抱かせる。

カチューシャに衣服、そのどれもがメイド服を思わせその瞳を開いた。


「━━━これは」


戸惑う。

それもそのはずだ、その姿形はよく知っていた。


「コレット?」


否だ。

自分で呟いた言葉に否定をかける。

コレットにしては無表情がすぎる。

それに、なんとなくだが。

あれは霊体というものだろう。


構えをとり、霊体を見据える。

生物味のない瞳がこちらを見た。

本物とそっくりそのままの構えをとる。


スゥ、と息を吸い込む。

勝ったことがない、そんな相手だ。

だからこそ心が躍っている。


「行くぞぉ!」


構えは同じ、実力的にはあっちの方が上。

全力でやろうとこちらが負けるだろう。

しかし、しかしだ。


その方が燃えるだろう?


まっすぐ、まっすぐ走る。

入口と中央、距離はあった。

だからこそ走り、そして全力で拳を振り抜く。

体重を乗せた拳。

今の私の全力のそれ。

同年代の中では身長は高く、齢五の時からの鍛錬も私の体を裏切っていない。

絶大、ではないながらも威力はあるはずのそれであった。


「い━━っ」


誰もいない地面に拳は突き刺さった。

ヒビなどはいるはずもなく、拳に痛みが走るのみ。

その痛みにはもう慣れている。

だからこそ、瞬きする前に注意を戻せるはずだった。


「ぐぶぁッ」


拳の他、腹に激痛が走る。

許されなかった。

そして、浅はかだった。

自嘲と自責が思考を支配する。


「ウォォォ!!アア!フゥ、ヨシ!」


油断をしていた、気が抜けていた。

甘く見るとこうなるのは当たり前だと気を引き締める。

負けてなるものかと闘争心を高める。

これがゴールなどではない。

一歩、ただの一歩だ。


ただ、相手を見る。

こちらからは攻めない。

攻めず、見る、感じる。

それだけだ、それを教えられた。

腕力に乏しい私がやれることは、技による制圧である。


「━━━フッ!」


一つ。

相手の動きを見て受け流し、叩く。


二つ。

隙を逃さず、叩き潰す。


三つ。

力に頼るな。


以上、ただそれだけだ。


突き出された拳を、流す。

徹底的に、流す。

腕を引っつかみ、肘を当てる。


「━━━━!!」


顎に当てた。

つまり、脳が揺れる。

つまり、動きが止まる。

だから、隙ができる。


掌底、正拳を続けて入れる。


「ジャアッ!」


くの字に折れ曲がり、うなじに拳を叩き込む。


「━!」


「もうあなたのターンは!ない!」


仰向けに倒れ込むが、それで終わりではない。

倒れ込んでも反撃してくる、それは普通のことである。

だから、潰した。

相手のやることなど潰したなんぼである。


避けて顔を踏み付ける。

そして関節を押さえ込んだ。

マウントポジションをとる、というやつだ。


「本物より弱いですわね」


分かっていたことだ。

私程度では足元にも及ばないのか彼女である。

技術で返せるなど、彼女ではない。

簡単にそれを越えられて煽られるのが日常だ。


抵抗されるはずもなく、殴りつける。

骨の折れる音、肉が削れる音。

鼻が折れ、目が虚ろに消えていく。


勝ったと、そう確信している。

油断せず、関節を封じているのだ。

足はできていないが腕は封じている。

本物が相手ではできないことだ。

優越感と達成感が充満している。


そんな愚かだから、鼻から血を流すのだ。


「━━━━━!!」


頭突きであった。

足で体を浮かせられ、封じていたはずの腕が解放、頭を掴まれ頭突きをされる。

力技というものである。


悶絶などしている暇もなく。

首をつかまれ持ち上げられた。


「やら、れるわけにはぁ」


微かな抵抗で蹴りを入れる。

微かな抵抗で肘を殴る。

効いている様子はなく、ただ睨んだ。


「ハァッ、ブッ!」


突然手を離される。

そして簡単に、サッカーボールを蹴るように蹴りあげられた。


「アアッ。クッソ」


簡単に弾き飛ばされるように、吹っ飛んだ。

その瞬間だけは、他人事のように思える。

話だけは聞いていたが、実際だったらしい。


「助けてやろうか?」


「━━━━ッ!いりませんわ!」


意地と根性、それで物事は大抵何とかなる。

ヤヨイさんのことを信用していない訳でもないが、ここは自分の力で越える。


指を弾いた。

身体強化のみならば、これだけで発動できる。


「フゥー、舐めすぎましたわ」


「やれるか?」


「やりますわ!」


「おっけーだ。いってこい」


「言われなくとも!」


ここまで来れば意地だ。

根性で勝ってやる。


目の前が見えない。

拳で真っ暗になっている。


「効かないですねぇ!」


奮い立たせる。

そして、殴り返した。


「━━ッ!」


殴り、殴られ、殴り返し、そしてまた殴られ。

胸ぐらを掴まれて頭突き。

脇腹に蹴りを入れ、それをつかまえられて投げられて。

倒れ込んでも顔を蹴りを入れてその勢いで立ったり。


「まだァ!」


「━━!」


気をつけないと意識失いそうになる。

意地と根性、それで意識を保つ。

指を弾き、身体強化を保つ。

両腕を搦めて、体の預ける先を作った。


「ハァ、ハァ」


「━━━ゥ!」


額を突きあわせる。

何度も何度も、ぶつける。

やってやろうと、ただただ、根性で。

頭蓋が割れようと関係ない。

勝つだけなのだ。


「ハア、まだまだァ」


「━━━ッ!」


「張り合いがありますわねぇ」


敵の顔と覇気を見て、笑顔を深める。

猟奇的だろう、狂気的だろう。

ケンカをしているのだ、当たり前である。


まだ、まだやれると自分を奮い立たせる。

動きが鈍っていることなど、意識が途切れそうになることなど、そんなことは些細だ。

殴り合い、頭突きで根比べをしている。

負ける訳にはいかぬのだ。


「オオオオオオ!!!」


ぶん殴った。

倒れ込んだ敵と膝をついた私。

立てぬ、だが動ける。

少し、敵が動いているのが見えた。


「え?」


がむしゃらに一発、拳を打ちつける。

それは地面に落ちた。

外すはずもないその拳は、外れたのだ。


「勝ちだな」


消えた敵を呆然と眺めていた。

すると、ヤヨイさんが歩いてきた。


「どうした?喜ばないのか」


「呆気が、なくて」


「そうか。まあ何はともあれ試練は完了だ」


痛みが消えた。

恐らくヤヨイさんが回復魔法をかけてくれたのだろう。

しかし、疲れは消えない。


「ゆっくり休め。成果は明日確認する」


そうヤヨイさんが言うと視界が光で包まれる。

それだけだ、それだけで意識が途絶えた。



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