第五話
脳筋なお嬢様キャラは結構いる気がする。
でも少し理性はあってまず殴るようなことはしない。
心の底ではぶちかましたいよね!
何年だ。
何年経った。
私が探求を始めて、私が力を求めて、私が知識を求めて、私が全てを求めてから。
何万年も、何億年も、私は元から分かっていたはずだ。
何も手には入らない。
知らないものはいつまでも無限にあるのだ。
力はいつまでも手に入らないものだ。
全てを屠るものはいつまでも手に入らない。
今も、そうだ。
姿に意味を見出さなくなってから何十年経っただろう。
最後に知らないものに出会ってから何年経ったろう。
目の前の令嬢はこれ以上なく魔法を扱うものの素質がある。
あらゆる魔法も扱えるだろう。
それほどに質も、量も、化け物だ。
しかしほとんど何も使えないと聞いた。
使えるのはただ一つ、水魔法の身体強化と纏気補充のみだというではないか。
「で、誰が一緒に行く?」
そう聞いた。
とはいえほぼほぼ決まっているだろう。
共に行けるのは全属性の魔法を修めている者のみ。
全属性を修めていなければ二人に報酬が均等にわけられる結果となる。
適性によっては無駄となることも多いのだ。
それにそもそも入れるかどうかも確実ではない。
いやぁ、誰かと一緒に行けるんですねぇ。
楽できるのはいいことだ。
そして先生が誰が一緒に来てくれるのか聞いてくれました。
いやー、ありがたい。
「私が行きます」
「いえ、私が」
名乗り出たのはコレットとセイナ。
マリアは名乗り出ずさっと部屋から出ていきました。
マリアさんは戦闘できないからね、ご飯作りに行ってくれたのでしょう。
そういえば何人まで行けるのかな。
「何人まで行けるのですの?」
「付き添いは一人までだな。全属性の魔法を使えるものに限られる」
「あっ」
「忘れてたァ!」
えっと、つまりいないのかね?
セイナは光属性が使えなくて、コレットは四属性しか使えない。
つまりこの二人は同行できない。
「では、私一人で」
「いや私が行ける」
あれー?ちょっと予想はしてたけどあれー?
先生あなた完璧すぎなーい?
「年の功というやつだな」
「まあ、師匠なら大丈夫、かなぁ?」
「ヤヨイさん。お嬢様に傷一つでも負わせたら、分かってますね?」
行けない事に不服なお二人ですねぇ。
不安なのは分かりますよ、私もあの子が汚されてないか心配だからね。
しかし、私は問題ない。
何故なら、これまでの鍛錬を信じてるからSA!
「とびきりのもの作って待っててね。すぐ帰るわ」
「「ッ、はい!」」
入らねばならぬ、何故なら魔法を使いたいから。
ローラなら魔法学校に入ろうぜ的なこと言ってくるだろうからね。
その時に四属性は使えないと公爵令嬢としての体裁がね。
魔法使いたいだけだがな。
「準備はいいか」
「はい」
既に動きやすい格好になってるぜ。
男装なのだが、うっすい胸のおかげで着れるのよね。
これがぺたんぬの価値なのか、うむぺたんぬで良かったなぁ(血涙)
「そうか。では入るぞ」
「はい!」
どんな試練なのかなぁ、とワクワクしながら魔導書を見る。
いいな?と再三確認されたのでお願いしますと言う。
言うと先生が適当に魔導書を開いた。
「眩しっ」
目をずっと開いていたために目にダメージを食らってしまった。
いや違うんすよ。
転送魔法はそんなにダメージ食らわなかったんすよ。
「大丈夫か?」
「ぐぬぬぅ、大丈夫ですわ!」
何とかダメージから復帰して目が見えてきた頃。
目を開けて周りを見てみる。
石造りの階段、柱、壁。
でっかい壁のようなものが見えるが、おそらく建物だろう。
階段を上った先にある入口、その奥にはなにかの舞台のようなものが見えた。
そして空は灰色の空だ、雲ひとつないものの差し込んでくる光はない。
「ここは」
「造形はコロシアムに似ている。先に進めば試練の場所だ」
「ほほう、腕がなりますわね」
こぶしを打ち鳴らして向こうを見る。
今のところは何も見えないし、観衆の声も聞き取れない。
舞台に出たら観衆が現れるのかな。
それともないまま戦うのかな。
いてくれた方が気分は上がるのだが。
「心配しなくともギャラリーはいる」
「心でも読んでいるのでして?」
「分かりやすい」
あり?
真っ暗だけど入口のそばにある灯りのおかげで見えた情報を整理してたので隣を見てなかった。
見てなかったから分かんなかったけど先生のことよ。
おっぱいちっちゃい、めっちゃスレンダー、ドレスじゃなくなってる。
手によく見たもの握ってんな、銃か?
いやいや、文明レベルに合わんやろ。
「先生?それはどういう‥‥‥」
「これか?それとも姿のことか?」
「どっちもです」
両手に握っているハンドガンらしき銃と今の自分の姿を先生は指した。
全身を覆う黒い装束に黒い手袋、黒くないのは肌色と髪くらいのものだ。
病的にまでどちらも白い。
「私に姿形は意味をなさん。あとこれは暇つぶしにマスケット銃を改良した」
「そうですか」
何も言えねぇ、チート過ぎないですかこの人。
どっかの吸血鬼さんを思い出しますねこの人を見てると。
チートよチート、相手にしたくないわ!
「参考までに性能を聞いても」
「連射可能、装填は全て魔力で賄うため自動、火力は大幅強化」
「あ、モウイイデス」
聞いてると目眩がしてきそうだ。
銃は使いたくないのですな、使うとしたらナイフか刀くらいかのう。
「まあいい。行くか」
「まあ、はい。後方支援はお願いします」
「了解した」
試練の前に頭痛くなってきそうだけどしっかり集中。
コレットとの鍛錬で基礎はしっかりあるはずだしスタイルもほぼ完成してきている。
魔法も自己強化ならば無詠唱でできるようになったぜ。
「あ」
「逃げられんな」
コロシアムの舞台に入った瞬間、入口が閉じた。
というより壁になったのだと思う。
音しなかったし、一瞬だったし。
そして歓声が聞こえて何かが現れた。
人とは違うその容姿、人型も獣型も飛行型も、沢山いる。
噂に聞く魔物というやつなのだろう。
「さて、試練の始まりだ」
「ええ、ぶちかましてさしあげます」
構えをとる。
私には何もない、ただの素手である。
暴力ならばほかのご令嬢にも騎士団にも負けるつもりはありません。
全部、ぶん殴って粉砕してさしあげましょう!