第十一話
ああ、下手だ。
窓からは街並みが流れる姿。
車中ではクラシックが流れ、コレット側の窓が開いている。
風が流れ込み、イザベラは瞼を閉じゆっくりと眠る。
窓からはタバコの煙が少しずつ流れていき、窓からはコレットの右手が出ている。
煙を吸い、吐く、ただそれだけの行為ではある。
退屈なのだろう。
片手運転は少し危ないが、彼女なら問題もない。
街を出ると、畑が広がっている。
所々に納屋があり、道路はデカいのが四方に4本通っている。
それ以降は複雑なので説明する気も失せるが、街に近いここの一本の説明ならば簡単である。
馬車用の1本、自動車用は広々と。
簡単に言うならばそんなもんだ。
歩道はまあ細かく分けられた畑のところを通ればいい。
「泊まれる場所は」
ルートは覚えているだろう。
いつもの宿泊施設でも一向に構わないはずだが、なにぶん時間が経っている。
1ヶ月程度ではあるが可能性は充分ある。
故に、走っている途中にリサーチはしておくのだ。
行く前にやるべきだがそこは突っ込まないでおこう。
急に決まったことだから仕方ない。
「ふむぅ」
タバコを咥え、地図を開く。
アップデートはマメに済ませているため、最新情報が常に出るようにしてある。
宿泊施設を検索、途中にある小さい村を検索。
どこに泊まるのが良いか考えながら走行する。
まだ走行している自動車は少ない。
ここは田舎である。
首都に近づけば車も増えるが、やはりまだ少ない。
まだまだ自動車は主流ではないのだ。
主流なのは飛空挺だ。
もう残り少ない貴族の間では馬車も人気である。
逆に言えば自動車が少ない。
つまり、周りを気にせずゆっくりと走行できるということである。
ポツポツと民家が見え始め、空は晴れている。
ほぼほぼ変わらない景色だが、こういう景色もいい。
空が少しずつ変わっていき、景色の見え方も変わる。
「───ん」
「起きましたか?」
「ふわぁ。おはよ」
「おはようございます」
「いまどこ?」
「下道をゆっくりですね」
「了解。夜ねぇ」
「今日は車中になりそうです」
「もう十分寝たから問題なし。車中もいいもんでしょ」
「ですね。明日はさすがに泊まりますよ」
「いつものとこ?」
「その予定です」
「ふーん。タバコ?」
「だめでしたっけ」
「べっつにー」
イザベラは口をすぼめ、窓を開ける。
そして車外に顔を出した。
「危ないですよ」
「落ちても死にゃしないわよ」
「そうですけど。やっぱりタバコダメでした?」
「吸ってて吸ってて。リラックスでしょ」
「はーい」
心配になることはやらないで欲しい。
が、それはそれとして好きなことはやって欲しい。
死ぬ心配もないなら問題はないだろうと放っておく。
「覚めた覚めた。私も吸っていい?」
「ダメですよ。未成年でしょ」
「あんたは未成年でも吸ってたんでしょー?」
「ダメです。だから辞められてないんですよ私」
「ふーん」
ライターは没収しておく。
箱を見たり、中身を取り出してみたり。
吸えはしないだろうし、私の前で吸わないだろう。
なので放っておく。
「こんなのがもう500ねぇ」
「年々値上げされててキッついですよ」
「うちの給料安いから仕方ないわね」
「安くはないでしょ。ふつーくらいですよふつー」
「ほんとー?」
火のついてないタバコを咥えて、そう聞いてくる。
事実としてそんなに給与は低くない。
というか困っていない。
資金運用は全てイザベラが行っており、その中から3人の給与が出ている。
衣食住は保証されてるし、自由にできるお金はほぼ全て。
そもそも大体別館に缶詰なので使うのはタバコとたまにイザベラや同僚とのお出かけでの雑費くらいだ。
問題はなさすぎるくらいである。
楽しい職場なので職務も苦ではないし。
「至れり尽くせりがすぎるんですよ。今ならもっと安くてもいいのでは?」
「貯金はしてるわよ?」
「───どれだけ渡されてるんですか」
「秘密ー」
さすがは四貴族の1柱。
自由にできる資金は想像以上に多いようだ。
んで、関わりたくないから月々多額の資金を別館に与えているらしい。
酷いものである。
それが実の親が子供に対する態度なのだろうか。
親のいない私には分からないことではあるけれど。
「殺気でてるわよー」
「あっすみませんつい」
「ここでとやかく言っても仕方ないわよ」
「どうしてそこまで冷静なんです?」
「ん、諦めてるから。興味ないから。私の近親者はお母様だけだから」
「凄いですね」
「人間こんなもんよ」
「我々はどうなっても黙ってますよ」
「感謝」
どうやら、ナビをいじっているらしい。
VR画面でメニューをいじり、音楽プレーヤーを起動させる。
こちらからは見えないので、ただの予想だが。
「何がいい?」
「そうですね。少し昔のやつを」
「なんだっけ、あのー。30年くらい前のやつ?」
「恐らく。バンドですよね?」
「しゃがれ声のあれ!」
「正解です。お願いしても?」
「りょーかーい」
リトル・ストーンズというバンド。
少し前に解散してしまったのだが、好きなバンドだった。
しゃがれ声とかギターとか、あと純愛の歌詞。
好きだったのだが、寂しいものである。
「ぬっ」
「どうしました」
「ごめんちょっと音楽消す。通信」
「はい」
ポチッとただ1回。
流れようとしたイントロが消え、ナビの画面にsoundonlyの字が浮かぶ。
「もしもし?」
お嬢様が呼びかけると、応答が返ってくる。
見知った声に安心と同時に何があったのかと耳を澄ます。
『申し訳ありません。連絡が遅くなりました』
「問題ないわ。何かあったの?」
『報告と相談を。相談を先にしても?』
「おっけー。お願い」
マリアの声である。
声色から珍しく焦っているようにも思えた。
『例のお二人がイザベラ様を訪ねてきております』
「ああ、あのバカ二人──」
「おっふ。それは、面倒だ」
『ヤヨイ様が対応していますが、どう致しましょう』
「不在で通せない?」
『それはそれで旦那様にご報告が飛ぶかと』
「だよねぇ」
『この状況ですと面倒な事態は避けられませんが』
「ダメじゃぁん」
『どうしましょう』
私は妙案は浮かばない。
お嬢様の顔を見ると、彼女も芳しくはないだろう。
変に頑固なところは覚えている。
「もう夜だし寝てるとか?」
『もう言いました』
「帰ってないのぉ?」
『はい』
「アホやん──」
普通ならばそこで帰るものだろう。
時間的には寝ててもおかしくはない時間帯である。
『いつもは寝てないじゃない、と』
「たまたま寝てるとかはぁ?」
『ありえないと』
「ありえないことはありえないって知らない?」
『知らないらしいですね』
まあ今だとご飯作ってる頃だろうし?
ご飯の匂いで寝てないってわかることもある、か?
「あー、もう寝てるでゴリ押して。今作ってるのは賄いってことで」
『ですね。かしこまりました』
「これでバレても責めないわ」
『───申し訳ありません』
あ、これダメなやつだ。
通信が切れた。
疲れたと、一気に虚ろな目で背を垂れる。
「帰りたくねぇッッ」
「逃げます?」
「殴れなくなるのでやめときます」
深いため息とともに背もたれにもたれかかり、窓から外を見る。
「進路変更してホテル行きます?」
「このままねます」
「かしこまりました」
空にまん丸と輝く満月。
夜になれば常に見えるものではあるが、美しいものは美しい。
月明かりに照らされた畑の景色も良いものである。
下道を走行すると長く感じてくる。
たまに見えるのは私用車ではなく、トラックなどだ。
たまぁに見るそんな自動車も物珍しく感じる。
まあ下道なのでそんな車両もほとんどない。
そんな車両は大体高速道路にいることだろう。
まだ深夜でもない夜だ。
夜はまだ長い、ホテルにもそう深夜でもない時間に着くだろう。
まあ、街にも寄らないでおくとしよう。
下見をゆっくりと走る、その程度のドライブを楽しむ。




