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第十話

落ち込んでない素の状態を出していきたい。

孤児院とは名ばかりの教育施設。

ほぼほぼ学校のようなものである。

この街の教育を一手に担っている物凄い場所である。

孤児院としての側面は当然あり、この場所は組合の援助や寄付、あと私の寄付も少しで成り立っている。

いやぁ教育機関がないと知った時は震え上がったね。

それではダメだと頑張ったのはいい思い出である。

こうやって立派な孤児院になったのを見て目頭が熱くなるのは気のせいではないだろう。


「いつ見ても立派な校舎ですね」


「そうね。寮は、うんしっかりある」


もうここに初めて訪れてから五年になる。

初めて抜け出して、走ってここまで来たのを思い出す。

確か理由は、なんてこともないものだった。

母と喧嘩してそれで出ていっただけだったな。

遊んでいたここの子供に助けられ、運び込まれた。


「よし、行きましょ」


「はいはい。でも今は授業中では?」


「気にしなーい気にしなーい」


真っ昼間である。

遠くに見える運動場には気持ちよく運動している子供の姿が見える。

完全に児童福祉施設、という感じになっている場所だ。

保育園と小学校に中学、孤児院が合わさっている感じである。


「電撃訪問ってやつよ。喜ぶと思わない?」


「そういうもんなんです?」


「そういうもんよ」


「へぇ───」


今日何度目かのやり取りを終え、校内へと入ることにする。

不用心にも鍵が閉まっていないが、まあこの街なら仕方ないだろう。

平和すぎるのが悪い。


施設内部はエリアで分かれている。

中学、小学、保育所、この三エリア、─学区と呼ぼうか─は渡り廊下だったり、まあ二階や三階でもそれぞれの施設に移動できる。

駐車場は中学エリア側、左端に位置しておりそこから見えた次第である。

正面から見えるのは真ん中の保育所、ここだけは二階建てになっており正面を支配している。

その保育所から見て左、連絡通路は角に位置しているのは中学。

同じ感じの右方面が正面である。

まあ、孤児院エリア──半ば学生寮エリアになっているエリアは少し離れている。

町の中心にそびえる一大施設、的な感じになっているのは否めないがうれしいものだ。

学区と学生寮の大きさは同じくらいだ。

運動場で隔たれて、向こうに存在している。

一応の防犯なのか、学区からしか学生寮には入れないようになっている。

そもそも、運動場が見えるだけで校内に入れるのは一つだけだが。

当然ながら、個人のブライバシーは守られている。


町の中央、空いている土地を使ったためか土地に余裕がない。

校内に入れる出入口が一つだけであるのはそのためである。

いやあ、考えれば考えるほどアホのなすことである。

運動場を大きくしたいというラルフさんの言葉が一番の発端だったなぁ。

いや、あの人建築家なのもたち悪いわ。


「何してるんです?」


「ん、ラルフさんの悪行思い出してた」


「何てことしてんですか。いきますよ」


「はいはい」


「今はお昼寝中でしょうか」


「そんな時間ね。足音は立てないよーに。あと小声」


「当たり前ですね」


いつもなら賑やかなはずだが、音がほぼ聞こえない。

それが導かれられるところは、そういうことである。


「あら」


「ん?」


「イザベラ様ではないですか」


「ユリさん」


町の外れに孤児院があったころ、あの時は最年長の18歳だったユリさんである。

いまは元気にここで働いている。


「みんなお昼寝中ですよね?」


「ええ。さっきみんな寝たところです。いまからおやつの準備をしようと」


「そうなんですね。元気そうでよかった」


ユリさんの顔にはいつもと変わらぬ、曇ったところは見られない。

そこはいったん、良かったと胸をなでおろす。


「お二方は?いつもなら連絡をくれるはず──」


「ついでに寄っただけですから。そんなに長くは」


「そうなんですね。起こさないようにお願いします」


「当然。その程度は空気読めますよ」


そうですね、とユリさんは微笑んだ後歩いてゆく。

行先は当然、キッチンであろう。

手伝えることはなし、運動場にでも突撃しようかと適当に棟を移動しようと歩き出す。


「眼鏡っていいわよね」


「急にどうしました?似合うとは思いますが」


「やっぱ、頭いい大人の女性って感じしない?ユリさんもだし」


「あの人は文字通りの大人でしょう。いつでも毅然としてますし」


「それに頭もいい。理想よねぇ」


「頭は負けてないかと」


「ま、私は天才だしね」


「大人になれないのはそこですね」


「まだ14だからいいの」


「子供ですねぇ」


「子供で悪かったわね」


最期にwとつきそうな口調に少しイラっと来る。

こいつは二人きりだと割りとこういうやつだ。

これまでは落ち込んでいたのもあって抑えていたのだろう。

ここぞとばかりに煽りやがって。


扉を通り、廊下を抜けて、棟を移る。


「あ!おじょーさまだ!!」


男児の声が聞こえる。

そして、外にいた子供と教員がこっちを見た。

できるだけおしとやかに、手を振ってやる。

歓声が聞こえる。

喜んでくれただろう、ならば行き先を変えることはない。


「おしとやかでしたね」


「やめなさい」


今度はすべての文字の間にwを入れたような感じの口調だ。

流石に頭をすぱーんと叩く。


「痛いです。パワハラです。訴えます」


「はいはいやればー?」


「やったりますぜー」


そんな感じに話しているうちに職員室にたどり着く。

顔見知りも多い、故に初対面の衝撃的なふるまいは必要はない。

必要はないが、何となく。

やっておきたい。


「お嬢様。やめておいた方が────」


「たのもー!!!!!!!」


廊下と職員室を隔てた引き戸が大きな音を立てて無残な姿になり果てた。

まず引き戸が変形、たたきつけられた反動ですりガラスは割れ、フレームも変形。

そして何より、大きな音とともに戸が飛んで行った。


「イザベラちゃんだぞ☆」


きらーん、というSEがつきそうなポーズをとってフィニッシュ。

目を丸くさせる者、あきれる者、顔を真っ赤にする者。

今は四名の職員室に滞在する教員が全員私を見ている。

怒られるとは分かっている、しかしやめられるはずがないだろう。

何故かこれをするか、それは我慢に我慢をしたお花摘みよりも大きい快感が襲うからだ。


「毎回、毎回、何回繰り返すのあ・ん・たはァァァァ!!!!!」


「え?毎回なんですかこれ」


「あ、うん。あの子が来ると中学棟かここの戸が生贄になるね」


「ファッ」


「性かな☆」


「そこになおれぇ!!」


これまた古参のおばちゃん先生によるありがたいお説教一時間。

まあ、一時間はベースなので私がふざけた態度を取るたびに時間は増える。

最大は二時間、いやあお説教って楽しいね!!

そのあいだコレットは何をしているかというと、職員室でお茶を飲んだり体育の授業に突撃したりしています。

エンジョイしてますね。


当然、破砕音は響くわけで休み時間に様子を見に来る子供がいます。

私は反面教師になるわけです。

え、私って理想の大人ムーブしてない────?

悪いことしたら駄目よという見本にはなるじゃろ。


「あ、おじょーさまだ。また壊したの?」


「正解ね☆」


「あーあー悪いんだあ」


「君たちはこのお姉ちゃんみたいなことしちゃ駄目よ」


「「「はーい!」」」


事実が故に否定できない。

まあする気もないけど。

そんなこんなで二時間、あの人時間ぴったりで解放してくれるから好きである。

話の内容?覚えてませんね。


「何回やらかすんです?私も怒られるんですからね」


「仕方ないわね。諦めなさい」


「この馬鹿令嬢」


「勉強はできるわよ」


「それ以外が馬鹿ッつってんですよッ!!」


「てへぺろ☆」


「ぶん殴りますよ」


「ごめんなさい」


コレットが無表情になったら謝る。

あと無表情になったら大体ぶん殴る宣言をしてくる。

真面目にシャレにならないのですぐに謝ろう!

イザベラちゃんとの約束だぞ☆












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