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メスケモJKと○○

メスケモJKとメイク

作者: 槌場野ビサ

 ここは県立毛毛(けもう)高等学校、通称ケモ校。多様な種族が通うこの学校は、今日も個性豊かな生徒達で賑わう。

 そんな愉快な生徒達の日常を、ほんの少し見てみよう──



 ***



「メイクがしたい!」


 1年B組の教室でそう叫んだのは猫の女子生徒だ。突然のことに机を囲んでいた友人二人はきょとんとしている。


「どしたの急に」


 しばらくして声を掛けたのはトカゲの女子生徒だった。その隣で馬の女子生徒が静かに頷く。


「メイクがしたいんだよ私は!」


 改めて嘆いた猫に対して、残る二人は顔を見合わせる。


「すればいいじゃん?」

「できないから言ってんだよ! ねえ見てこの毛皮」


 そう言って両手を差し出した猫の体は全身くまなく被毛に覆われていた。ツヤが良く、ふわふわとした若々しい毛並みだ。


「気持ちよさそう」

「モフりたいね」

「そういう事じゃなくってぇ! この毛皮肌じゃ人間みたいなメイクはできないじゃん! 無理じゃん! 無の理じゃん!」


 真面目に取り合わない友人二人に猫はなおも訴えかける。その謎の熱意に屈したのか、慰めるようにトカゲが言った。


「そーんなカリカリしなくても……ほら、猫って地毛に模様あるし、もうメイクみたいなもんじゃん」

「模様ないんですけど!?」


 猫は無地の白毛だった。


「そうだった。てへ」

「こんにゃろー!!」


 しっぽを不機嫌そうに振り回す猫となんともないように笑うトカゲを尻目に、馬はスマホを弄っている。


「ねー今調べたんだけど、ネコ科イヌ科向けネイルとかあるみたいよ。ほら」


 わちゃわちゃする二人に向けて馬はスマホの画面を見せた。なにやら女性向けのネット記事が載っており、ネコ科らしき獣人特有の鉤爪にきらびやかなネイルが施された画像が載っている。

 それを見て猫の目が嬉しげに輝き始めた。しっぽもピンと立っている。


「いいじゃんいいじゃん! こういうのだよ私が求めてたのは! ありがとー!」

「よかったねー。マイ、お手柄じゃん」

「いや調べるでしょ普通」


 一件落着、といった空気になり始めたその時だった。


「ちょっと待って」


 猫は自分の手を見た。爪は指の中に仕舞われている。黙って爪を出し、そして仕舞った。爪を出し、仕舞う。出して、仕舞う。しばらく繰り返した後、虚無の表情で言った。


「ネイル意味ねぇ……しまわれちゃうから、爪……」

「「あー……」」


 一転してどんよりとした空気が漂う。気まずい沈黙はしばらく続いた。



「ていうかさ」


 やがて猫が口を開いた。


「爬虫類ずるくない?」

「えっ何いきなり。怖」


 唐突に矛先を向けられトカゲはうろたえた。馬は我関せずといった具合でまたしてもスマホをいじっている。


「とぼけんじゃないよ……知ってるんだぞ、鱗デコをさ……」


 恨みがましくつぶやく猫の目は据わっている。その迫力にトカゲは引いた。


「……あった。鱗デコってこれ?」


 馬は再びスマホを見せた。どうやらまた別のネット記事を見つけたようで、画面には肌の鱗に色鮮やかなペイントを施したワニの女性が写っていた。


「そう! それよ!」

「わ、綺麗ー」


 そして猫は興奮した様子で肯定し、トカゲは素直に感嘆した。


「何でも鱗の一つ一つにペイント入れて模様描いたりするらしいよ」

「へぇー。見せて見せて」

「ん」


 トカゲはスマホを受けとると、画面をスクロールし始めた。記事には様々なデザインの鱗デコ画像が載っており、トカゲはつぶらな瞳を輝かせる。


「ちょっと!? まさか興味出てきたとか言うんじゃないよね!?」

「え? いやでもこれ綺麗だし……ちょっとやってみたいかも」

「だあぁー! 貴様ただでさえ模様あるのにかこの欲張りィ!」

「え、えぇー……」


 突っかかってくる猫にトカゲは戸惑いを隠せない。そんな二人を馬はただ静かに眺めていたが……



「それはそうと馬もずるくない?」

「え」


 突如馬に矛先が向いた。

 トカゲがターゲットから外れてほっと息をつく横で、猫はギラついた目で馬を見る。その様子にさしもの馬も困惑していた。


「なんで私まで」

「すっとぼけんじゃねーわよッ! たてがみそんなにしといて!」


 猫がビシッと指差した先には、黒々としたたてがみがあった。素人目にも丁寧にとかしてあるのがわかり、校則違反にならない程度に編み込まれている。


「明らかにそんな……そんなおしゃれさんしといて!」

「ああ、これね。ヒヒン、いいでしょ。手入れ頑張ってるからね」


 褒められたと受け取ったのか、馬は嬉しそうに嘶いた。


「ムギーッ! うらやましーッ! ライオンに生まれたかった!」

「ライオンだってメスにたてがみ無いけどね」

「ムギャーッ!」

「まぁ正直毛の長い生き物がうらやましいのはわかる」

「え、あんたも?」


 ヒステリックに叫ぶ猫にトカゲが冷静に同調した。思わぬ同意を得たことで、猫は急速に上機嫌になる。表情コロコロ変えて忙しい奴だなぁ、と馬は密かに思った。


「わかってくれるかーミドリん!」

「まーね。毛がないなりのメリットもあるけど、時々ヘアメイクとかうらやましいなーって」


 そう言ってトカゲは自分の頭に触れた。その肌は鮮やかな緑色と黒い模様の鱗に包まれている。


「ウィッグ買えば?」

「身も蓋もないこと言わないでよ……」

「それでもいいけどなんか違うんだよ!」


 さらりと言ってのけた馬にトカゲと猫は突っ込んだ。


「ちなみに蹄アートっていうのもあるけど、写真見る?」


 いつの間にやらスマホを取り戻していた馬が画面を見せた。そこにはラインストーンやマニキュアで彩られた蹄が写っていた。


「すごい……これ自分でやったの?」

「まあね。流石に休みの日だけだけど」

「へー、いいなぁー」

「トカゲでもネイルはできるでしょ」

「でも有蹄類ほど爪面積広くないし」


 楽しげに会話する二人の横で、猫はうつむきプルプルと震えている。


「自慢か!!!!」


 そして爆発した。


「うがー! うらやましいうらやましいうらやましい! 私だってメイクしたいしたいしたいのにー!」


 教室の注目を集めることも構わず、猫はみっともなくだだをこねる。その様子にトカゲは若干同情しつつも引いていた。


「そんなになっちゃうほどメイクしたいの……?」

「したい」


 即答だった。


「なんで……なんでメイク業界はこんなに猫に厳しいの……」


 机に突っ伏して嘆く猫に、トカゲはそれ以上何も言えなかった。呆れ半分、哀れみ半分だった。


「ねぇ」


 その時馬が言葉を発した。


「今見つけたんだけど。肉球デコ」

「マジ!?」


 がばっ、と勢いよく身を起こした猫に、馬はスマホの画面を見せた。『肉球オシャレで差をつけよう!』の見出しとともに、可憐なアートが施された猫の肉球の画像が載っている。


「へー。これならミヤコにもできそうじゃない?」

「お、おぉぉ……!」


 後ろから覗きこみながらトカゲが言った。猫は感動に目を潤ませて何度も何度も頷いた。


「向こうの駅前でもやってるみたいだし、今度一緒に行こうよ」

「うん! いや待って、近所のドラッグストアでも売ってるかな!?」

「売ってるんじゃない?」

「じゃあ今日買うわ!」

「気が早いな!」

「いいの! 善は急げって言うでしょ!」

「全く、あんたは……」


 喜びはしゃぐ猫を見て、馬は肩をすくめ、トカゲは苦笑いを浮かべる。


「でもまぁ……できそうなメイク見つかってよかったね」

「うん! 本ッ当によかった!」


 三人は顔を見合わせて笑いあった。




 その翌日。

 猫は肉球デコをして登校し、校則違反で教師に捕まった。


(終)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 動物人間(?)3人娘の掛け合いが、 なんか「女子高生の無駄づかい」みたいでした!
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