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幻ノ月音の童話シリーズ

童話・笑う神と笑わない人間

作者: 幻ノ月音
掲載日:2020/02/03

笑うってどういうこと?




 ここは天と地の中間にある、「天使たちの台所」と呼ばれているところ。

 広い白間で小さな小人たちが忙しく走り回っていた。飛んだり跳ねたり、遊んでるようにもみえる。中には背中に小さな羽をつけたものもいた。羽は虹色に輝きキラキラと光を反射させていた。それらは天使とよばれているものたちだ。小人たちのほうは、体が小さいものの素早く、足をちょこちょこさせて楽しそうに動いていた。

 そのたくさんの天使と小人たちは丸いものを運んでいる。しゃぼん玉のような形でふわふわしていて、いろんな色をしている。赤、青、黄色、はたまた白からピンクまで、さまざまだった。ふわふわと弱いようでいて頑丈にできたまるい玉、大きさは小人のからだの半分くらい。かれらはそれを小さな手をいっぱいに広げて


うんしょ、うんしょ


赤いのはこっちのかごへ

青いのはあっちのかごへ


と運んでいた。

 りんごのような赤い玉をもった小人は、赤いかごへそれをいれた。深い海の底のような色をした青い玉をもった小人は、青いかごへとそれをいれる。そうやって決められた色の玉を決められた同じ色のかごへと運んでいるのであった。

 そんなときこんな声がきこえてきた。


「ゆゆしきじたいだ」

「ゆゆしき、とは?」

「大変だということだよ」

「大変とはなにが?」

「ようするに困ってるということだ」

「なにが困ってるんだい?」

「あーもう!これでは話が進まんではないか!」

「どうぞお話ください」

「誰のせいだと思ってるんじゃ!」


 白間の端で、立派な白いあごヒゲを首もとまで生やしたおじいさんと若い青年が話をしていた。小人よりもすこし大きく、人間とほとんどかわらない姿をしている。ここにいるものはみんな白い服を着ていた。隣のおじいさんはぽっちゃりしていて、頭の毛は薄く、耳の上にほんのすこし髪の毛があるだけだった。あごヒゲと頭をひっくり返せたらどんなによかったことでしょう。

 青年のほうは焦ったようすのおじいさんとはちがって、ほがらかに、ニコニコと笑っていた。まるで太陽のようにお日さまが顔をだし、辺りを照らす笑顔。彼を見たものはみんなつられて笑顔になる。彼の特技だった。ただ、今回のおいじさんの場合それがきかないようす。


「黄色が減っている」

「なんと!」


 世界は感情でうまっている。


 うれしい

 おこる

 かなしい

 たのしい


が、あふれている地球。

 小人たちはそれを回収して神様たちに渡す役目をおっていた。

 そのしゃぼん玉に包まれているものは感情。ピンクはうれしい、赤ならいかり、青はかなしみ、黄色はたのしい。人間から出た感情はそうやって体からたくさんのしゃぼん玉を出して生きている。彼らにはそれらが見えないけれど、天上の人々には見えていて、神様たちのお食事になっている。力の源なのです。

 その中の黄色が減っているという。人の想いをもらって食事をしている神様たちは『天使たちの台所』で作られたご飯を心待ちにしていて、感情が多ければ多いほど美味しい食事になる。


「これでは大神様たちの晩餐が味気ないものになってしまうぞ。うーむ、甘味がたりん。なんとかならんのかのう」

「甘口の源である黄色が減っているからですよね。それは人間の笑顔が減っているということでしょうか?」

「そうじゃ。そして笑いの質が悪い」

「笑いの質?」

「心から笑えてないということじゃな」

「みんな楽しいから笑っているんじゃないんですか?」

「それがそうでもないのじゃよ。彼らは心から面白くなくても顔に笑いを張りつけることができる」

「なんと!面白くないのに笑えるのですか!なぜそんなことを?」

「わからん。それも含めて調べてきてくれんかの?そして黄色の玉を集めてくるのじゃ」

「ボクがですか?」

「うむ」


 たのしい黄色が一番収穫できるのは『笑い』をいっぱい集めることだった。黄色はハチミツのような甘い味がすると神様たちは言う。それはとってもおいしくて、かごにたまった黄色はとても人気があった。でもそれが減ってきてる。

 収穫できていない?

 人の世界でなにが起きてるというのか。


「もし、黄色の玉をたくさん集めてきたら、褒美としてお前を神様に昇進させてやろう」

「ほんとうですか!」

「人間界に笑いを増やすのじゃ。そうしたら上の神様たちに認めてもらえるはずだろう」

「はい!」


 上役の天使にそういわれて、青年はパッと顔を輝かせて喜んだ。神様見習いの青年は、自分も神様になってあの甘いハチミツのような黄色を食べることができるんだと思うと嬉しくて、さっそく下界へとでかけていったのでした。



 さて、人をいっぱい笑わせてやるぞ!

ボクはいっつも見ているだけだったからなぁ。神様たちがいうことには、人の感情はとっても美味しいんだって。赤いのは辛く、青いのはしょっぱい、白いのはすっぱくて、黒いのは苦味があるから薬味にぴったりだとか。いいな、いいな、まだ神様見習いのボクは運ぶばっかりで、味見なんてめったにできないよ。ふわふわでまんまるのしゃぼん玉はみかけよりも丈夫にできていて、中身がいっぱいつまっている。今にもはち切れそうなのに、一滴だって落ちてこないんだ。ボクたちはそれを神様たちのために集めて運ぶのさ。収穫できるのは下界の人間たちからだ。人間の感情ってどうしてこんなにたくさんあるんだろう、不思議だね。




 天界人しか知らない専用の道を通って、ボクは人間の住む町へとやって来た。人がたくさんいるところへ行こう。みんなが集まる公園だ!

 ボクはいろんな姿に変身して人間たちを喜ばせた。一番目立つのはピエロ。サーカスみたいにボールの上に乗ったり、ジャグリングをしたり、踊ったりして楽しませた。この公園にピエロが来たのは初めてだったみたいで、みんな喜んでくれたよ。子供から大人まで手を叩いて笑っていた。体から黄色いしゃぼん玉のような丸いものがフワフワでてきて、空へと向かっていった。中には桃色の玉もあった。恋人同士がいたのかな?桃色の玉は美味しいお酒になるんだって。酔っぱらった神様を見たことがあるけど、ニコニコしてずいぶん気持ち良さそうだったな。どんな味がするのかいつか飲んでみたいよ。当の人間たちには見えないそれらの玉は、天界へたどりつき、天使たちが収穫してくれるだろう。


 そーれ!飛んでいけ!

 ボクはとても楽しかった。


 ボクだけが見えてる中、たくさんのしゃぼん玉が辺りを満たし、公園は優しい光に包まれた。とてもあたたかくて笑い声がたえない幸せな空間だった。

 そんな中で一人だけ笑っていない人間がいた。野球帽を被った12か13才の男の子。夏の終わりの時期なのに、他の日焼けで朝黒くなった健康的な子どもたちがいる中で、その子だけは肌は白く、頬をほんの少し赤くしていた。身長は大人の男性の肩くらい。けして病的そうには見えないものの、周りが笑っている中で、ただぼーっとピエロのボクを突っ立って見ていた。白いシンプルな半袖にベージュのズボン。随分と色のない子どもだなとボクは思った。

 夕方になって散り散りに家族と恋人たちは家へと帰っていった。誰もいなくなった公園でボクは次は何して笑わせようかなと忙しく考えていた。あの男の子はいつの間にかいなくなっていた。



「どうしたらそうやって笑えるの?」


 そう聞かれたのは、今にも雨が降りだしそうな曇天の空。お昼前、いつもより早めにショーを切り上げてボクは片付けをしていた。その背へ声をかけてきたのは、昨日ボクのことをじっと見つめていたあの男の子だった。


「ボクのサーカスショーはつまらなかったかい?」

「ううん、そうじゃないけど、ショーはとても面白かったよ」

「なら笑えるじゃないか」

「それが顔では笑ってないようなんだ」

「顔で笑ってない?」

「うん。僕は楽しいのに笑わないから、友達から嫌われてしまうんだ。どうしたら笑えるかな?」


 男の子は困った顔で、はじまりの質問に戻った。


「どうしたらって言われてもねぇ」


 でもこの原因を探れば、黄色が減ってる原因を見つけることができるかもしれない。


「笑いかたを教えてください!」

「うん!ボクにまかせて!」


 胸をはってそう答えたボクは、その男の子を笑わすために、いろんなところに連れていくことにした。

 そうやって引き出した笑いは熟成されているので、とても美味しいごちそうになる。これを天上に向かわせれば、ボクは一気に認めてもらえるかもしれないぞ!


「キミの名前は?」

「ユウ…」

「ユウくん!ボクの名前は…『ニコ』だよ!よろしくね!」

「うん、よろしく…ニコ」


 満面の笑みでボクはユウくんの手を取り握手をした。無表情のユウくんはこくりと軽くお辞儀をして、やさしく握り返してくれた。

 まず向かったのは遊園地。こんなに楽しい乗り物がたくさんあるんだもの!きっと簡単に男の子は笑うことができるよ。降りだしそうだった空はいつのまにか晴れて、ボクたちを明るく照らしてくれた。雲から顔をのぞかせて、太陽さんも笑ってるみたいだった。

 そう思ってボクはいろんな乗り物に乗せた。遊覧船、ジェットコースター、観覧車、浮遊するブランコ、いっぱい乗せたのにユウくんはちっとも笑ってくれなかった。


「ユウくん、楽しくないの?」

「うーん、なんだか怖い乗り物ばかりで緊張しちゃった。ゆらゆら揺れてばかりで気持ち悪くなっちゃったし、僕は遊園地が苦手みたいだ」


 これは失敗だ。みんなが楽しんでる場所だからユウくんもきっと喜んでくれると思ったのに、違ったみたいだ。中には臆病だったり、体が弱い子もいて、そういう子たちには不向きだってことを聞いたことがある。ユウくんは無表情だから、どのくらい怖いのか、具合が悪いのか、見極めるのがとても難しい。ユウくんは遊園地が苦手、そう心にメモをした。


「次々!」


 次は劇場にきた。笑いの舞台。いろんな芸人さんや落語家さんたちが、お客さんたちの前で面白い話をする。みんなワハハ、キャハハと楽しそうに笑っていた。それになにより座っていられる。疲れる乗り物じゃないよね。

 芸人さんが一声発すると、みんな笑って黄色しゃぼん玉ポンポン体から出てきた。天井を通り抜けて空へとたくさん飛んでいった。なんて楽しい空間なんだろう。

 なのに男の子はずっと無表情。


「ねぇ、面白くないの?」

「うーん、よく分からなくて。でも芸人さんたちはみんな面白いかったよ」

「面白いなら声だしてみんなみたいに笑えばいいんじゃない?」

「うまく笑えないんだ。それに面白いからって顔がいつも笑顔になるのとは違うよ、ニコ」

「何が違うんだい?」

「うまく説明できないよ。ごめん、分からない」


 とうして分からないんだろう?楽しいのに笑えないだなんて、何か悲しいことがあったのかな?そう思って聞いてみたけど、お父さんもお母さんも元気だし、お祖父さんやお祖母さんも優しい人だって。

 それならと、笑い方の練習をしてみようということになった。


「あははっ!わはは!…さぁボクみたいに笑ってみて!」

「あひひ、わはは…」


 歯を見せるように口を開いてユウくんは声をだしたけれど、ただ口を開いてるだけで『笑顔』になっているわけではない。


「もう一度!こうだよ、わっはっはー!」


 ボクはめいっぱいの満面の笑みをつくって笑う。男の子に何度も見本を見せるけど、なかなか同じようにはいかなかった。


「あはは、いひひ」


 ユウくんの頬を手で引っ張ってみたりもするけれど、ほっぺたが赤くなっただけだった。しだいに苦しそうに顔が引き連れだしてきて、男の子は無表情に戻ってしまった。ユウくんの体からは、透明なしゃぼん玉がにじみでてきて、力なく浮遊する。何の色味もない空っぽのしゃぼん玉は、ふわふわと空へと向かっていった。


「笑わないとダメなのかな?」

「笑うのは楽しいでしょ?」

「笑っても楽しくない人もいるよ」

「それはほら、大人が働くときには必要なこともあるさ。あとキミなら友達と遊ぶときとか。みんな笑顔のほうが嬉しいし、幸せになるでしょ」

「幸せ…?ニコも僕が笑ったら幸せ?」

「うん!」


 ボクは力強くうなずいた。ユウくんはますます下を向いてしまった。どうしてなんだろう?

家以外に原因があるのかな?と思って、男の子が通う学校に来てみた。放課後、校庭の遊具で遊んでいる子供たちがいた。なにやら騒がしい。みんな楽しく笑っていたので一緒に遊ぼうと、近づいてみた。男の子もきっと同じ年の子どもたちと遊んだほうが楽しいはずだ。

 一人の小学生に向けて数人が石を投げていた。5メートルほど離れた場所で腕を振って石を飛ばす。みんな笑顔で楽しそうだ。こんな遊びもあるのかなとボクは思った。だけど隣の男の子はすぐに石を投げるのをやめるようにその子たちに声をかけた。四人は男の子よりも体が大きい。隣に大人サイズのボクがいたから、バツの悪そうな顔で去って行ってしまった。どうして楽しんでるのにやめさせるんだろう?


「キミは一緒に遊ばないのかい?」

「遊ばないよ」

「なんで?みんな楽しそうに笑って石を投げてたじゃないか」

「そんなことするわけないじゃないか!」


 ユウくんはボクの前ではじめて怒った。その体からは悲しみの青や怒りの赤黒いしゃぼん玉が出てきた。なんで怒るんだろう?

 「よく見てよ」といわれて、石の的になっていた少年が泣いていた。


「ボクはいじめなんかしない!」

「いじめ?」


 人間のことがよく分からなくなった。

 笑っている人がたくさんいたのに、一人だけ泣いている人がいて、多数決でいったらそれは『たのしいこと』なんだと思う。けど男の子はそれは間違ってるという。うーん、人間って不思議だ。泣いている少年の背をさするユウくんの後ろ姿を見て、ボクは頭を悩ませた。

この失敗があってから、ボクはさらにユウくんをなんとしても笑わせようとした。このままじゃ神様見習いとしても失格だ。

 コメディで大評判の映画をみたり、みんなでダンスを踊ったり、動物園のふれあいパークへ行って、ウサギにさわって遊んだりもした。

 ユウくんはずっと無表情だったけど、動物にさわってるときが、一番楽しかったといっていた。それでも笑顔にはならない。この子はずっとこのままなのかなと思ったら、なんだかさびしくなってきたよ。


「ニコ、どうしたの?」

「なにが?」


 ずっと笑っていたボクだったのに、いつの間にか笑顔が減って一瞬だけ見せた悲しい顔を、ユウくんに見られてしまったのだ。ユウくんにいわれて、はじめて気がついた。いけない!いけない!ボクは笑いを集めにやってきたんだ。こんなことでは大神様に認めてもらえなくなっちゃう!

 それでもどうしたら男の子が笑ってくれるのか、もう分からなくなっていた。焦った顔は見られまいとして、ボクは一生懸命笑顔をつくり続けていた。そう、ボクはいつも笑っていなくちゃいけないんだ。


「疲れた…」


 ヘトヘトになったユウくん。通りかかった公園で一休みすることにした。空はオレンジ色に暮れ、夜が近づく。帰り道を急ぐ学生やサラリーマンの姿も見かけた。早歩きで通りすぎる人をよそに、公園のベンチに座って、読書をしている女性がいた。髪をそよかせ下を向き、無心になっている女性からは、せまる夕闇を背にしゃぼん玉がでていた。

 しかもなんと!その女性から黄色いしゃぼん玉がいっぱいでてきてるではないか!


「あれ?無表情なのになんで?」

「どうしたの?」

「あの女の人は笑ってるわけじゃないのに、なんであんなに楽しそうなんだろう?」

「あの、読書をしている女の人?」

「うん」

「面白い本を読んでるだろうね」

「笑ってないのに?」

「ほら言ったじゃないか、笑っていても楽しくない人もいるよって」

「そういえば、そんなこといっていたね」

「うん、だからね、それとは逆に、笑っていないけど楽しい人もいるよってことだよ」


 笑えば楽しいと思っていたボクは、はじめてのことで驚いた。


「ほら、隣を男の人が走って通りすぎていくよ。音楽を聴いてるね。なんか足どりも軽いし、楽しいんだろうね」

「楽しいの?」

「まぁ人によるけど、走って汗かくことが楽しい人もいるよ」

「運動は辛いことばかりじゃないんだね」

「当たり前じゃないか!」


 ユウくんは力強くいった。笑顔ではないけれど、いつもより目に力があるような気がする。笑えば黄色いしゃぼん玉がたくさんでてくると思っていたボクは、思い違いをしていたようだ。


「本当に楽しく笑うって難しいね」

「…うん」


 ユウくんは静かにうなずいた。

公園はいろんな人間が集まってくる。ボクはまだまだ勉強不足だ。もっと観察しないと。


「ボクはまだまだ本当の笑顔を知らないようだ。ごめん、ボクにはユウくんに本当の笑顔を教えてあげられない」

「そんなことないよ。いろんなところに連れていってくれて楽しかったよ。ありがとう、ニコ」

「そういってくれて嬉しいよ。さよならだ、また会おう!」

「うん!さようなら」


 お互い手を振って別れた。なごりおしくてボクは男の子の背中を見えなくなるまで見続けようと思った。はじまりは見てもらっていたのに。

 そんなユウくんは公園の出口付近まできて立ち止まった。どうしたんだろうと思ったら、幼子が目の前で転んでしまったようだ。ひざをすりむき、痛みでわんわん泣いている小さな女の子。その子からは悲しみの青が体からたくさんのしゃぼん玉になって、にじみ出てきていた。ビー玉くらいの小さい青玉がポロポロでてくる。心配になって近づいてみた。ユウくんは優しく微笑んで女の子を立たせた。水がある蛇口のそばまできて、傷ついたひざを洗いハンカチでふく。目線を合わせて二人で何かを話す。面白いのか、女の子が笑い、笑顔が灯った。そうしているうちに、女の子の母親がやっと気づいて迎えに来た。ユウくんは女の子の手を引き、母親にその手を引き渡した。泣き止んだ女の子は母親と一緒にお礼をいって彼らは別れた。

 その一連の様子を見ていたボクは遅れて気づく。


「笑ってた!」


 ユウくんは、泣いているものにこそ、笑顔を見せることができるんだ!

 あの石を投げられて泣いていた少年にも、もしかしたら笑って優しく介抱していたのかもしれない。背中を向けていたのでボクは気づいていなかっただけだ。ボクじゃダメだった。なんだあの子は大丈夫じゃないか。そう、はじめからボクなしで大丈夫だったんだ。

 笑顔から笑顔へはいろんな形がある。

 笑ってるものから笑顔をもらう。

 笑ってないものを笑わせる。

 泣いているものに笑顔を与える。

 笑顔を与えることは素晴らしい特技。

 すべての源には、優しさが含まれている。黄色のしゃぼん玉は蜜がいっぱい、だから甘くて美味しいんだ。それは見た目だけでは分からないもの。

 笑わないからって、その人の楽しい基準を決めちゃダメだよね。

 人間って本当に不思議で面白いね。

 人間の世界に来れてよかった。あれ?ボクの目的ってなんだったっけ?そうだ、黄色を人間から引き出して、たくさん集めることだった!でも、もういいや。

 みんなの楽しいは神様たちのためにあるんじゃない。自分のためにあるんだから。

 神様になれなくったっていいや、ボクはボクの楽しいことをしよっと!


 その様子を見ていた大神様の一柱が、『ボク』を神様見習いから神様に昇進させたのは、天上に帰ってきてすぐだった。

 神様になってもボクはあのときの発見が忘れられなくて、たびたび人間界へ降りて遊びにいった。ときに人を助け、喜びを与えた。

 感情のしゃぼん玉を収集する神様としては珍しい神様だったので、天使や小人たちを困らせたのでした。





~ おわり ~




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