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 彼女が指し示した先には沈み行く太陽、それから僕は数年に渡り明けない夜の中であがき続けた。月も星も見えない暗闇に包まれると、黒い影達が地上へと這い出てくる。闇夜に紛れ、姿さえ捉えられない奴らは嘲るように僕らを弄び続けた。


 夢の世界へ行く度に繰り返される夜の中で、僕がどれだけ抗おうとも覆らない一つの出来事。それが彼女の死だった。

 僕は幾年にも渡り、彼女の運命を変えるべくあがき続けたが闇夜の中での奴らに抗う術などまるでなく、いつもいつも彼女は僕の目の前で惨たらしく引き裂かれるのだ。正しく悪夢と呼ぶに相応しい。



 彼女が叫ぶ、――私に構わず行け――と。僕にはそれがどうしても出来なかった。闇雲に突っ込んでは影達に組み伏せられ、奴らは見せ付けるように彼女を僕の目の前で殺す。

 そうして僕は目覚める、もしかすると夢の世界の中の僕も彼女と同じように死に続けていたのかもしれない。あらゆる手を尽くしたが、結局どちらが先に死ぬかという違いしかなかった。



 毎夜繰り返される残酷すぎる悪夢に僕の精神はすっかり弱り切ってしまい。その頃は何度か精神科の世話にもなったことがある。そして夜の中で四年、僕はついに心が折れてしまった。彼女は救えない、僕が辿り着いた最悪の結論だった。


 いつものように彼女が叫ぶ


「私の事はいい!リュウは先に行ってくれ!」


 闇夜に彼女の琥珀色の瞳が月のように輝いてみえる。決意したはずだったが、いざ彼女を目の前にしてしまうと足がまるで言うことを聞かなかった。


「また君は私のために死ぬのか?!走れ!!行くんだ!!」


 また……?またと言ったのか……僕だけが何度も苦しんでいると思い込んでいたが、もしかして……


「早く!リュウ……この夢を終わらせるんだ!行けぇえええ!!」


 彼女の絶叫に突き飛ばされるように僕は走り出した。彼女の声はもう聞こえない。走りながら振り返ると、高く高く掲げられた彼女が有り得ない形に曲がって歪む影が見えた。


 僕は走りに走って、そして泣いた。ずっと一人で苦しんでいるのだと思っていた、でも僕は一人じゃなかったのだ。彼女はただの夢の登場人物ではない、僕と同じくここに呼ばれた誰か……僕と同じ世界に生きる人なのかもしれないし、違う時間や違う世界に生きる人なのかもしれない。

 何処の誰かもわからない彼女の言葉は同じ夢をみる仲間であったことを今更ながら僕に教えてくれたのだ、ただその唯一の心の寄る辺もたった今失った。


 ここからは本当に僕一人での旅になる。僕は涙を拭い、立ち上がる。そして見上げた先には目指していた塔があった。終わってしまったこの世界の中心で、恐ろしい影達に囲まれながら静かに建っている塔……この中に何があるのだろうか、僕は何を求めてここへ……


 答えはもうすぐ明らかになる




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