僕を呼ぶ夢
僕は毎夜夢を見る。いつからだろうか、その夢がいつも同じ世界、同じ場面を繰り返すようになったのは……
僕は、東條 龍。これといって特徴もない平凡な大学生だ。学業も平均、運動も平均、友達もそれなりにいて家族仲も悪くない。僕の人生には大きな盛り上がりこそないが、この穏やかで静かな生活にとても満足しているつもりだ。
その僕が毎夜見る夢……僕の願望なのか心象風景の現れなのかはわからないが妙に現実的で醒めても忘れることのできない夢の話をしたいと思う。
あれは確かそう、最初は九歳の頃だった。なんでもないある日、当たり前のように眠りについた僕は不思議な夢をみた。
僕は気付くと、砂漠のなかにある街にいた。土造りの家々は砂に呑まれ傾いていて、住民の気配はまるでない。ここはゴーストタウンなのだろう。遥か先に中程まで砂に埋もれた塔が建っている、僕はそれを見た瞬間に胸の奥が強く締め付けられるような気がした。
――あそこへ行かなければならない
内なる僕がそう急かす、理由はわからないが僕の目的があの塔にある。そんな気がする。そして僕が一歩足を踏み出すと背後から声がした。
「どうしたの?リュウ、怖くなったかい?はやくしないと日が暮れて奴らが来るよ」
日焼けした肌の燃えるような赤い髪の女性が立っていた、九歳だった僕からみれば随分と大人に見える人だが、遣り取りの感触から僕も同年代なのではないかと察する。つまり夢の中の僕は二十歳くらいだという事だ。
僕達は塔へ向かうため街の中へと歩みを進めていった。それにしても『奴ら』とは何者なのだろうか。悪漢の類がここに潜んでいるとしても、不自然なくらいに静かだ。響く音といえば僕らが砂を掻き分ける足音、服のすれる音、呼吸や自分の心音ばかりで他の物音なんてまるでしない。
彼女が建物の中を指差す、覗くと地下へ降りる階段が見えた。もしかすると地下道でもあるのだろうか。ここは日差しが強く乾燥していて、焼かれるように暑い。できるなら日差しを避けて進みたい僕は、彼女が指し示した先へと進んで行った。
階段を降りていくと煉瓦造りの地下道が広がっていた。ここから見るだけでも脇道が何本も見える。これは何のための地下道なのだろう……もしかすると戦争や災害が起きたときのための避難路だったのかもしれない。
地下道を進んでいく中、僕は度々なにかの気配を感じた。人の醸し出すそれではなく、もっと動物的な何かだ。最初はネズミか何かかと思ったが、この渇いた世界に僕ら以外の生き物がいるとは考えにくい。では何の気配なのか。
ふと脇道に目をやると、黒い何かが揺れている。光の加減で影が揺れているのだろうか。
「リュウ!!それを見ちゃいけない!!」
僕の視線に気付いたそれは、瞬きする間もなく僕の目の前に現れた。触れてしまいそうなくらいの距離で、そいつは僕を見ながら笑った……真っ黒で表情なんかまるでわからないソレは確かに笑っていたんだ。
これが僕が初めてみた時の内容だ。ここから僕が十一年間見続けた、この夢は先程終わったところだ。たぶん僕はこの世界での役割を果たし、もう二度とあの世界へと行くことは無いのだろう。
あの世界で見た全てへの手向けに、僕はあの夢の内容を記録に残したいと思う。
そう長いものではない、読んでくれた誰か……今しばらく僕の夢の話に付き合ってくれたら幸いだ。