三話 死んでいた生存者
あれから数十分、村中を偵察して安全を確認した俺はようやく探索を開始した。
もっとも、屋根は焼け落ち黒焦げの壁だらけの家々とそこら中に転がる死体くらいしか見当たらない。
五十人ほどの規模の村だった様だ、井戸は無事だったので喉を潤す。
そのまま村の中心あたりの家を調べると教会のような建物跡に違和感を感じた、どんな宗教か知らないがそのシンボルの台座に扉があるようだ。
襲撃者はそこを見逃したか気がつかなかったらしい、まあ、人の気配はなさそうだったから気にしなかったのだろう。
俺は気になるから扉を開けて中に入っていった。
・・・そこは俺が期待した食糧保管庫や非常用の道具置き場ではなかった。なんてこった、死体置き場じゃないか、しかもまだ出来立てのようだ。
途方にくれてその死体を見おろす、まだ若いが栄養不足で弱ったんだろう痩せこけて青白い不健康そうな顔色の少女・・・十歳くらいの小さい子だ。
どうやら埋葬前に襲撃を受けたらしい、が、村人はなぜここに籠もってやり過ごそうとしなかったんだろう。そのとき、手に持っていた手帳がわずかに振動した・・・なんだ?
『この機能は特に必要と思われる情報を書き込むときに使用します』
『この場合は魔法の使用を推奨するために行いました』
『つまり魔法によりこの個体の蘇生を行うように』
・・・魔法ねぇ、俺は使うつもりはないんだが、死んだ人間生き返らせてどうする?死んで楽になったのかもしれないのにまた引き戻すとか。
『なお魔法の使用要請に対しては拒否を受け付けません』
問答無用ってことか、推奨じゃなくて強制じゃねえか!
・・・まあ、正直言ってこの世界に来てから魔法ってやつの感覚は全身に感じていた、以前から霊感とか言うやつはあったみたいだが、こっちじゃ桁違いにその感覚が鋭くなった感じでなんか気持ち悪い、この身体の中や周り中をなにかがヌルヌル流れる感覚は慣れたくないぞ・・・。
『魔法の行使に関しては、イメージを単語によって具現化させます』
『この場合は”蘇生”が適切です』
本当にやるのか・・・いやだなあ、俺は魔法使いじゃないんだぞ。やるしかないからには全力でやってやるが・・・ああもう!
「”健康的に蘇生しろ!”」
死体に手をかざし身体に流れる魔法を集めて叫ぶ、病死だったら生き返ってもまたすぐ死ぬかもしれないからな。
『ちなみに、魔法の行使に叫ぶ必要はありません』
あっそう・・・俺はそれを無視して魔法の光を吸い込んだ死体・・・少女の蘇生を確認する、お、動いた!しかも血色も凄くよくなってる。
「・・・あ・・・こ・・・こ・・・?」
と、目を動かして確認する少女が俺と目が合うと目を見開き。
「・・・かみさま?」
なぜか嬉しそうに聞いてきたので。
「これはただの魔法だ」
俺は神様じゃないし魔法使いとは自称したくない。
少女はそれにもかかわらず
「そうなんですか・・・ありがとうございます」
と深々と金色の頭を下げた。
「礼を言われるには早いと思う、外の様子を見てからだ」
恨まれること請け合いだろう、あの惨状だ。
・・・そして、彼女は村だったものを目にした。
「・・・え・・・あ・・・ああ」
なにがどうなっているかさっぱりわからないどうしてなんで、と言いたげな視線を俺に向ける少女。だが。
「俺が来たときにはすでにこうなっていた、どこの誰がやったかもわからん」
俺は首を振り説明を拒否する。
「おかあさんは・・・おとうさんは・・・おばさんは・・・」
必死にあたりを見回すがそこにあるのは死体だけだ。
「・・・」
そんな目に涙をためて言いたい事を我慢するように見つめないでくれ、俺も辛い。・・・あ、もしかしたら。
「ひとつ、約束してくれ」
俺は彼女に目を合わせて確認する。
「・・・はい」
慄えながら必死に応える彼女には悪いが俺は居ない事になってもらおう。
「これからみんなを生き返らせる、でも、俺の事は黙っててくれないか」
祭壇に飾られるなんてのはごめんこうむる、俺は・・・こうなったら普通に生きてやる。
「え!本当に!・・・でもそんな奇跡を起こしても平気なのですか?」
驚き半分喜び半分心配半分で俺に聞いてくる少女、余剰分はおまけだな。
「できるよ、でも俺は神様じゃないから終わったら何処かへ飛んで行っちゃうな」
こう言っておけば姿を消しても不思議ではないし、大丈夫だろう。
「え・・・どこかいっちゃうの・・・?」
あれ?大丈夫じゃなかったか、なんで泣くんだ・・・ああ、そうか。
「あー、また襲われると思うんだな?安心しな、俺が襲った連中をやっつけてやるからそれから生き返らせるさ」
完膚無きまでにな、そのへんは昔から容赦しない、容赦したらこっちがやられる世界だった、ここでもそうだろう。
「・・・」
どうやらそれも違うらしい、首を振って否定している。困ったな・・・仕方ない直接聞くか。
「俺がどっか行っちゃうと困るのか?」
どうやらそうらしい、激しく頷いている、そうは言うがな・・・。
襲撃者排除に連れて行くわけにもいかないだろう、ほとほと困っていると。
「大丈夫ですか?これはいったいどうなっているんですか?」
と、落ち着いた男の声がした。