二話 唐突に転移
目の前には見渡す限りのむせ返るような緑の草原、背後には音が吸い込まれそうに深い森とその奥にはうっすらと山脈が見える。
やや高台になっているせいか草原の彼方まで見渡せるのでその方向には人里が無さそうなのはよくわかるんだが。
ここが別世界ね・・・どうにも納得しにくいがいきなりこんなところに現れること自体が非常識過ぎてなあ・・・、ファンタジーとか苦手なんだ俺。
・・・さてどうしたものか。
・・・あの後、壁全体に『三秒後に移動します』とメッセージが表示されアッという間に知らない世界だ。こっちはまだそれほど覚悟も準備もできていなかったというのに。
ふと気づいて格好を確認すると、それまで着ていた服そのままだったので安心した。周りから浮くだろうが着慣れているものが一番だ。
それと同時に様々な問題が頭に浮かび暗澹としてしまう。
まず、ここは何処でどんな危険があり身を守るのに適した状態にするにはどの程度の物が必要なのか、そして人がいるとしてその人と交渉するのにこの格好と所持金でまともに相手をしてもらえるのか・・・まあ、どうにかするしかないんだが。
そういや社会地理歴史においては後出しで紙に出てくるって書いてあったな・・・ん?紙じゃなくなってる!?
いつの間にか手に持っていた紙は製本されて黒表紙の薄い手帳ほどの冊子になっていた・・・神の御業ってヤツか。
『ここは三大陸のひとつメリアードです、主に人間と亜人が多く住む地です』
『背後の森は山脈に繋がっていて大陸を南北に分断しています』
『周辺の森の中には危険な動物魔物等が存在し、移動経路や住居としてはお勧めしません』
『この近辺には南に村がひとつと集落二つしかありません』
村があるだけマシだ、そこの住人が友好的であることを祈りつつ俺は森沿いに移動を開始する。
・・・別世界ねえ、のん気な話だが空気はうまい、コンクリートジャングルに住み慣れた身にとっちゃそこは嬉しい、もっとも大陽は普通に照っているし元の世界と何が違うんだろうねえ・・・。
などと膝までの草原をわずかな踏み分け跡をたどりながら南にあるという村に向かって歩いていく。
――三十分後、そこには変わり果てた村の残骸を前に眉を顰める俺の姿があった。何があった・・・。
いや、焼け落ちた建物や斬り殺された遺体を見るに、おそらく何者かが火を放ち焼き出された村人を切り殺していったのだろうことはわかる。
だがそんなことして何になる、全滅させる意味がわからん。
警戒しながら村の周囲を回っていると、森側から往復する大量の足跡を発見した、こいつらがやったのか・・・もう去って行った様だが。
まあ、まずは村の中の安全を確認しないとな。
こうして俺は用心しながら最初の遭遇を求めて村の中へ入って行った・・・。