ヘッドショットと二つの部屋
古い知り合いに妙な機動隊員の男が居た。
彼は使いもしない安部屋を二つ借りていて、中は全く同じ物が全く同じ位置に置いてあった。
彼の好きな物、嫌いな物が沢山。彼は休みの度に此処にやって来ては少し物を入れ換えたり極めて簡単な掃除をして行くのだ。
どうしてこの様な奇行に及ぶのか聞いてみた。
「あの部屋にはおれの思い付く限りの好きなもんと嫌いなもんが置いてある。つまりはおれの頭ん中みたいなもんだ、そいつを二つ作って置く。頭が二つ。もし頭をぶち抜かれても一つ残って一安心!・・・・本気にすんな、おれなりの呪いみたいなもんだよ」
本気でそう思ったのなら考えものだが、冗談混じりの呪いのつもりだった様だ。私はおいおい、と笑った。酒の席での事だった。
その後二月程経った日、彼は過激派団体の鎮圧に赴いた際に銃火を浴びる事となった。
『…が頭を撃たれた!』と云う報せがすぐに来て私は慌てて警察病院に飛んで行った。
「たかだか過激派に敵の頭を撃ち抜く程技量が高い狙撃手が居るのか」と云う空気の読めない考えが頭を寄切った。残念な奴だ私は。
「お、安東か。良く来てくれたな」
病室に駆け込んだ私を待っていたのはさぞゆっくりした様子のベッドでテレビを見て寛いでいる彼だった。重体の様子は無く、頭に少しガーゼを貼っただけのご様子だった。
「確かに頭に銃弾が入った筈なのです。しかし彼の頭部の傷は一時間程度で完治し、更に停弾していた筈の三十口径のホローポイント弾は消え去っていました…」
と、彼の担当医は語っていた。そののち精密検査やら何やらが色々有ったが、何も分かる事は無く一週間後に無事退院した。
「俺はよ、もしかしたら『あの呪い』のお陰かも知れねぇと思ってるんだが。そうだと思うと少しおっかなくてあの部屋には近付いて無いんだ…お前一緒に来てくれるか?」
それから或る日ゲームセンターでギルティーなギアをやっている時に彼に誘われ例の部屋に行ったのだ。
一つ目の部屋は何も変わった様子は無かった。その時はやっぱりただの奇跡だったんだと笑った。
その乗りのままふざけてドアを開けてしまった。扉を開けた途端鼻に潜り込んだ異臭に対応できなかった。
部屋の物は全て破損し、部屋の天井から壁にかけて放射状に赤くべっとりとした液体が拡がっており、天井の中央、電灯のコードを伝ってぽつぽつとそれが滴り落ちていた。
そして、液体が落ちる先には、赤黒く汚れながらも鈍く光沢を放つ歪んだライフル弾が転がっていた。
呪いは効いていたのだ。