ミケ姉さん小話2
2日目:マヌエラ
今日はマヌエラが当番の日だった。
私に対しては実家が公爵家であるせいか、目上の人に対する態度なんだけど、サラちゃんに対しては下働きの人に対する態度だったために、正直あまり家には入れたくない人だった。
幾ら高位貴族の乳母をしたことがある人だと言えども、ここはごく普通の民家なんだよね。
魔道具があるから水汲みは必要ないけれども、料理を作ったり洗濯をしたり掃除をしたりするのは自分たちでやらなくちゃいけない。
だけども彼女は、そんなごく一般的な家事は下働きの人がやるべきだと言い出した。一緒に話を聞いていたサラちゃんも驚いていて、この馬鹿馬鹿しい話を聞いた時点で馬鹿だろうと思った。
最終的にはしぶしぶといった感じで、掃除洗濯料理などをやってくれたんだけど、明らかにアニスやサラちゃんよりも劣っていたので、確実に不採用の方向で進めたいと思った。
++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
3日目:ドロシー
マヌエラと同じ宿に泊まっていたドロシーが、マヌエラの伝言を持ってきた。
私が家に居る人が家事をやるんだと言ったらそのことが原因で今回のお話はナシの方向でとの伝言だった。こっちは願ったりかなったりだったからいいんだけど、公爵家からの依頼だったのに自分から逃げ出して大丈夫なのだろうか?
まぁ、そんなことにかまってられる状態じゃなかったんだろうと、こっちは気持ちを切り替えることにした。マヌエラを紹介した父には断りの手紙を書き始めていたところだったから、丁度よかった。
ドロシーの方はマヌエラとは違って、家事はばっちりだった。でも、なんというか神経質すぎる……。ちょっと不安は感じたけども、やっていけるのであればアニスと交代で頼んでもいいかもしれない。
++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
アニスとドロシーのローテーションが4回目くらいになった時だった。
その日はドロシーの当番の日で、偶々サラちゃんに会いに来たギル君の剣術の訓練に助言をしたりしていたら、ドロシーが後ろから走って駈けつけてきて、ヒステリックなお説教をされた。
「奥様、剣術は女性が行うべきものではございません! お子様が出来たのならば、これを機におやめになった方がよろしいかと」
「あのねぇドロシー、私が剣を振っているわけじゃないからね? 今はギル君の訓練中だから」
「いいえ、そのような平民。しかも獣人の面倒を見ることなど、奥様の品位が問われます! そこの獣人! 奥様は今大事な時期なのです、分かっているのなら、さっさとお帰りなさい!!」
始終こんな感じで説教をされて、心底うんざりした。
別にさ、剣術の助言するくらい良いじゃない。剣を振るっていたのは実家に居た時からだし、私が騎士団に居たってことは王国では有名な話だから、侍女として派遣されてきたのであれば主人になる人のことくらいは調べているはずだよね?
それを今更変えろって?
激しい運動をしているわけでもないし、ただ弟子の素振りの仕方や剣の型を見ていただけなのにねぇ? 魔物狩りをしたり、打ち込み稽古をしているわけじゃないもん。
ドロシーの言いたいことは、剣を振るって生きてきた私の全てを拒絶することだ。
それにここは王国じゃない。王国の常識とは違うところなのに、その認識すらない人をこの家には入れておきたくない。
「あなた、もう来なくていいよ?」
「え、奥様?」
「兄には私の方で断ったって連絡を入れておくから、帰ってくれない? 金輪際この家には入ってほしくないな」
「な、何故?」
「何故って、そんなことも分からない? ここは王国じゃないし、王国だったとしても人種を見下した発言は品位が下がるよね? それだけじゃないよ、私の人生は剣を振るって生きてきたんだ。それを否定するのは侍女としてふさわしくないから言ってるの。そりゃ、主人が問題を起こしたら意見するのが侍女だろうけど、あなたは違う」
ドロシーは悔しそうに唇を噛み出て行った。彼女は私に対して批判的な態度をとりそうな性格だけど、そのあたりは兄ではなく母達に手紙を書いておこうっと。
多分、下手な人選するんじゃねえって教育的指導が下るんじゃないかと、ちょっとだけ楽しみだ。