フラッシュバック
さて、おまちかねのディズニーランド旅行。
泊まり明けだったので、初日は午後に家を出てホテルにチェックインのみ。
もともとは仕事明けの翌日からだったのを、前に1泊増やしていた。
毎日のようにバスに乗っている私、運転から開放されたいので乗り物は新幹線にしたのだが、3人がけシートを前に一悶着。
春菜:「ねえ、わたし、パパとママの間に座りたい」
美幸:「優哉の隣がいいな」
・・・・無理じゃん。
春菜には、「ほら、窓際にすると景色が見られるよ」と窓際に押し込み、私、美幸と並んで座った。
電車とモノレールとバスを乗り継ぐ。
バスもモノレールも、キャラクターが描かれていて、感心しっぱなし。
予約したホテルへ着いたのは16時頃。ロビーは空いていた。
「うわー、すごーい」12階まで吹き抜けのアトリウム(※)に美幸は声も出ない。
「春菜、お母さん見ていて。あそこでチェックインしてくるから」
「はーい」・・・どっちが子どもなんだか・・
(※)東急ホテルのイメージ
部屋に入って荷物をほどく端から「あなた、どこか行こうよ、何か見ようよ。春菜、何から見たい?」と美幸は一人ではしゃいでいる。
「ママ、お部屋片づけなきゃだめだよ。そんなに慌てなくても、4日間あるんだから大丈夫だよ。おちつきなよ」と春菜に怒られたりして。ぷぷぷっ。
駅前ショッピングセンター隣接のホテルで、ミッキーマウスと夕食を食べたり(※)、ショッピングセンターで買い物をしたりして、初日はおしまい。
(※ イクスピアリとアンバサダーホテルのシェフ・ミッキーのイメージ)
二日目はディズニーランド、三日目はディズニーシーと回り、四日目の夕方、ランドからそろそろ帰る時間。
ワールドバザールの家庭用品を扱う店。ホームストアで、キャラクターの食器などを美幸は見ていた。
「ママ、お店ばっかり見ていないで、帰る前にもう一つ乗り物乗ろうよ」
「えーっ、もう少しだけ。」
「ママ、ひどいよ」
「美幸ぃ・・春菜はさっきからずっと待っているんだよ。そうだ、最後に春菜と二人で乗り物乗ってくるから・・いい?」
「うっ、うん」
春菜は、「ジャングルクルーズ」がお気に入り。30分待ちで、所要が10分なので・・
「40分後に出てくるから、時間を見計らってアトラクションの出口の前で待っていて」とメールを打つ。
案内役の船長のギャグに腹を抱えて出てくると、美幸が数名のキャストに囲まれてベンチに座っている。
と、私たちに気がついて駆け寄ってくる。涙でくしゃくしゃの顔で。
「美幸どうしたの?」「うわーん、うわーん」
探検家の格好をしたキャストが語った。
こちらのゲストが一人でベンチに座って大泣きしていた。あまりの取り乱しように、心配した他のゲストからの通報があり、駆けつけてもしばらく泣きじゃくっていた。何とか、ご主人とお嬢さんが列の中に居ることを聞き出し、呼び戻そうとしたところ、ボートが出てしまって・・・・戻ってくるまで待っていてくれたそうだ。
「あとはよろしいでしょうか?」
「はい。ご迷惑をお掛けしました」
「美幸・・どうしたの?、待ちきれなかったの?」
「ごめんなさい・・別行動取らなきゃ良かった・・・」美幸が語るのには・・
一人で買い物をして、ジャングルクルーズの出口に向かうと、修学旅行の高校生のグループが通った。女の子ばかりで楽しそうにしている。
私も、8年ぐらい前はこんな風に・・・・・と、あることを思いだした。
春休みに高校の同窓会があるというので、美幸は申し込んで楽しみにしていた。
申し込んだ数日後にあの事故があり、さすがに今回は出られないと思っていたところ・・・・
幹事の友人から電話がかかってきた。高校時代はいつもつるんでいた仲間だ。
「あなた、『自分の』したこと、分かっているよね。死んだのは妊婦さんでしょ。みんな動揺しているの。仲間から人殺しが出たと言うことで。今回も欠席にしておくし、もう二度と来ないでね。名簿消しておくから」
電話がかかってきたときは、多数の嫌がらせの電話を受けていた時期であり、欠席連絡の手間が省けてよかったと思っていたのだが・・・
楽しそうにつるんでいる高校生。懐かしかった高校の仲間。だけど、同窓会は除名。
私は思い出を全部失ってしまったんだ・・・・。ということを今になって思い知らされた。
電話のせりふもフラッシュバックで蘇り、辛くなった。
優哉の胸に飛び込みたいけど、優哉はいない・・・
涙が浮かんできて・・・・・
再び美幸はあたりはばからず号泣した。
しばらくすると、スーツ姿を筆頭に数人のキャストと、車椅子を持った看護師が現れた。
「??」
「恐れ入りますが、別室の方へお願いできますか?」と、責任者らしい中年の男性。
「え、どうして? 私たちはここでもいいですが」
「他のゲストの迷惑になりますので・・・」
あちゃーっ
救護室のベッドに美幸は横たわり、春菜はビデオを見させながら保育士が相手をしている。
私は、キャストの責任者に改めて詫びると共に、今までのことを話した。
「そうだったんですか・・・」キャスト責任者は絶句した。横で聞いていた女性のキャストは目頭を押さえ、すすりあげていた。
「こちらこそ、申し訳ございません。お詫びに・・」
泣きやんだ美幸や私たちは、バックスペースの別な場所に案内された。と・・
ドアの向こうから、色とりどりのキャラクターが大勢現れた。キャラクターグリーティングに向かう通り道だという。
ミッキー、ミニー、ドナルド、ブルート、七人の小人・・・・キャラクターにハグされ、握手され、キャストたちも「みんな仲間だよ」「元気を出して」と声を掛けてくれる。
美幸は真っ赤な顔をして、満面の笑みを浮かべていた。
旅行から帰ってきたあとは、美幸もすっかり落ち着き、取り乱すこともなくなった。
夏休み、運動会と淡々と過ぎていき、秋も深まっていく。