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紅い花
「あ、花だ」
夕方の時分、住宅街の道すがら背の高い女性がそう呟いた。
「どこ」
その言葉に応えたのは背の低い女性だった。二人は散歩の途中であった。
「ほら、あそこ」
塀の、背の低い女性からは影になるところを指さされたため、彼女はつま先で立つ。
「見えないなあ」
背の高い女性は、なおも見つけられない彼女の腰に手を回しひょいと持ち上げる。そして、片腕をお尻の下に入れて、ちょうどお姫様抱っこの状態になる。
「急にやめてよ、吃驚するじゃない」
二人はすぐそばにお互いの顔が近づき、目線の高さが同じになった。持ち上げられた女性は、近い顔から目をそらし、花の方を見やる。
「で、どこなのよ。花なんてないじゃない」
確かに、先ほど指さされた場所には花はなかったが。
「いいや、あるよ」
その言葉と共に彼女は、そっぽを向く女性の頬にキスをした。
「紅い花なら、今、目の前に」
振り向いた彼女に、してやったりと女性は口角を上げた。




