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目薬
「めぐする」
同じソファに座り、テレビを見ていた同居人が突如そんなことを宣う。
「めぐするってなに」
「目薬を差すの意」
彼女が取り出したのは、まだ新品の目薬。彼女はそれを私に差し出す。
「じゃ、お願い」
「それくらい自分で差して」
私がそう言う物の、彼女は私に背を向け体を倒し、頭を私の膝に乗せてくる。
「うん。柔らかい」
彼女はそう言って封の解かれた目薬を私に握らせる。
「どうしてまた目薬なんて」
目薬を一通り眺めて彼女にそう問えば、至極真面目な顔で彼女は答える。
「君の顔をよく見たいから」
唆されているということはわかるのだが、私はこういうのにどうしても弱いのだ。私はため息をついて目薬をひっくり返す。
右目に点眼し、さて左目だという所で「別に嘘じゃ、ないんだよ」と彼女が小さな声で呟いた。
私は左目に点眼して、目薬に封をした後。
「そんなこと知ってます」
ずっと若くはいられないのだ。
「御婆さんになるまでに自分でできるようになりなさいよ」
その気持ちで私が言えば、彼女は何がおかしいのか一つ吹きだした。
「ふふっ。がんばらないよ」
本当に、何がおかしいのやら。




