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雨上がり
仕事で疲れた体を引きずり改札を通り抜けると、地面が濡れて夕暮れの光を鈍く反射しているのが目に入った。私はそれを見て運が良かったとため息をついた。
実は電車に乗っている間、雨がかなり降っていたのだ。
スーツを濡らさずに済んだ、そう思って歩き出そうとすると、一人の女性が立ちはだかった。それは、同棲している恋人だった。
「あー、ただいま?」
傘を二本持っているところを見るに、迎えに来てくれたのかと私は嬉しくなるものの、彼女はぶすとした表情。
「おかえり」
まさしく拗ねていますという声をきいて、内心思いいたる。雨が上がってしまって良い格好ができなかったのだ、彼女は。
運が悪かったね、とは思うが、拗ねている彼女を見るとどうしても揶揄いたくなるのが人の性。
「傘、一本でよかったんじゃない?」
そんな私の言葉に彼女が首を傾げ、やがてみるみる顔を赤くさせる。
「ふんだ。帰る」
彼女が踵を返す。私はそれを追いかける。
「拗ねないで」
「拗ねてないもん!」
「嬉しかったよ?」
「……」
「ホントだよ」
「……おかえりなさい」
「はい。ただいま」
なかなかどうして楽しい帰宅だった。




