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香り
夏の暑い下校時間。直射日光が肌をじりじりと焼く、放課後。私は友人の自転車の後ろに座っていた。
少し湿った、冷たい夕立の気配を感じさせる風を感じながら、彼女の声を聞く。
「そんなに引っ付いて、汗臭くない?」
「大丈夫」
部活で汗を流した彼女の健康的な匂いと、制汗剤の清涼な匂い。私はそれが好きだった。
「そんなことより、もうすぐ雨降るよ」
後ろに乗せてもらっている手前、早くしろとは言わない。
「私一人だったら、雨には降られないだろうねぇ」
でも、彼女がそんなことを言うもんだから、私は彼女にひしと抱き着く。
「うわ!びっくりした!」
降ろさないよと彼女が言って、私は彼女から少し離れる。彼女の匂いに包まれて、役得だな、と思ったのは内緒。
そんな内に、ゴロゴロと雷が鳴り始めて、肌に感じる暑さも和らいできた。
「雨に降られるね」
私は半ばあきらめてそう言ったのだけれど。
「ほら、捕まって。ちょっと急ぐよ」
彼女がそう言って私の手を腰へと持って行き、どんどんスピードを上げていく。
私は、がんばる彼女の背中に耳を当て、息遣いを聞く。
そんな、蝉の煩い夏の一幕だった。




