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煙草の煙
積乱雲が空の向こうに見える高校生の夏、私は屋上の階段横の影で煙草を吸っていた。
ぼうっと空を眺めていたら、扉が開く音が聞こえた。ここは普通鍵が閉まっているので先生の見回りは来ない。だから生徒だろうと目算をつける。煙草の火は消さなかった。
誰かの屋上をまわる足音が聞こえ、やがて階段横、つまり私のいるところまで近づいてきた。
「またタバコ吸ってる」
その言葉の主は私のよく知る女であった。
「禁煙しなよ」
彼女がそう言いながら、私の隣に座る。私は、ため息をつくように煙を吸った。
そして、少しの沈黙が流れ、風が吹いた。私が吐く煙と、煙草から出る煙が彼女の方向へと流れた。
「何でタバコ吸うの?早死にするよ」
「好きだから」
味と煙とその動きとが、好きだ。
やがて私は煙草を吸い終え、携帯灰皿に吸殻を入れる。
ふと見ると、彼女がこちらを向いていた。
「私にも一本吸わせて」
そう言う彼女の目は真剣で、
「何故煙草を吸おうと?」
私はそう聞いてしまう。
「好きだから」
真面目腐った表情だった。
私は彼女の頬に手をやり、舌を絡めてキスをした。
「美味しくない」
彼女がそう言った。




