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Shall we dance?
祖国が戦争で負けたその瞬間を、私は王城のテラスで眺めていた。城下町の至る所から火の手が上がり、それがいつの間にやら城にも引火した。
黒い煙と、見えない熱が私の髪を揺らす。
「姫様、逃げないのですか」
私の元に唯一残った従者がそう聞いてくるが、私は逃げるつもりはなかった。
「今逃げたら、私は神輿に担がれるでしょう」
国の姫としてはそれは正解なのかもしれない。だが、もう人の上に立つのは嫌だった。
「それは新たな戦争の火種を生んでしまいます。今の世には平和が必要です」
これは言い訳だ。
「そうですか」
彼女が無感情にそう呟く。
私は、彼女の無表情が嫌いだ。
何も知らなかった昔のように笑っていてほしい。親しい人の心が離れていってしまうから、私は人の上に立ちたくない。
「貴女だけでも逃げなさい」
彼女には死んでほしくはない。死ぬのは私一人でいい。
何処かの建屋が崩れる音が、鳴り響く。
「……正直に言ってね。あなたは、どうしたいの?」
振り返れば心配げな表情の彼女。
逃げるなら、まだ間に合う。しかし、
「貴女と、踊りたい」
燃え盛る絢爛豪華な城の中、私は初恋の人と踊った。




