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遠くを見つめる
嫌なことがあった。それはもう一日中泣いて、その後アルコールに逃げてしまうほどに嫌なこと。たまたま、今日が休日だったからいいものの、平日だったら会社を無断欠勤していただろう。いや、もしかしたら通勤電車に飛び込んだかもしれない。
「もう嫌……」
携帯で苦しくない自殺の方法を調べていると、突然家の呼び鈴が鳴り響く。
無視をする。
しかし、いつまでたっても音が鳴りやまない。仕方なく立ち上がり、チェーンをかけて玄関のドアを開ける。そこには、ぼさぼさの髪と薄汚れた服で、ギターと鞄を背負う女が立っていた。
私の古い友人だった。
彼女は、世界中をギター一本で旅をしていて、日本には滅多にいない。なのに、彼女は私がつらい時、いつもふらりとやってくるのだ。そしてまた旅立っていく。
そんな、大好きな彼女の事を私は忘れていた。彼女を忘れて、私は死のうとしていた。
「久しぶり。どうしたの?お酒臭いよ」
底抜けの笑顔で彼女が笑う。
「貴方も汚れてるじゃない。一緒にお風呂に入りましょう!」
私は、彼女の笑顔につられて笑ってしまう。
嫌なことなど、もうどうでもよくなっていた。




