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月とテラス
月が不気味なほど大きい夜。ドレスを着た一人の女が白亜の城のテラスで葡萄酒を飲んでいた。
流れる雲が数瞬月を隠せば、その女の前に一人の仮面の影が現れる。
「あら、今日は遅かったのね」
女が葡萄酒を空いていたグラスに注ぎ始めたところ、仮面の影は動かず声を発した。女の声だった。
「姫。あなたの暗殺が決まった」
ボトルが一度詰まり、音が鳴る。
「分かっていたことだわ」
ボトルを戻し、姫と呼ばれた女が月を見る。
「私は明日、姫を殺さないといけない」
「そう」
月を眺める顔には、表情がない。そのまま、長い時間が経つ。
「私は、姫を殺したくない」
暗殺者が仮面を外した。その表情を、姫は見ない。
「貴女がしなくても、誰かがするわ。私は、殺されるならあなたに――」
「違う!」
大きな声を出した友の方を、姫が見る。その表情は決意に満ちたもの。
「逃げよう。私は友達を殺したくない」
「でも、追われるわ」
「そんなもの私が追い払う。死にたくないんでしょ?さあ、手を」
一人の頬には一筋の月の雫が流れていて、一人は手を伸ばしていた。
もう一度月が陰ると、テラスには誰もいなかった。




