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打つ
私の職場は電信局で、そこでの仕事は読み上げられていくモールス信号をタイプライターで規定の紙に打ち込むことである。
そんな私はとある事情で地方の局に飛ばされていた。職員数人のここは殆ど暇で、私は雪が降り積もる窓の外を本を読みながら眺め続けていた。
ある日、通信が入った。
先程まで囲碁をしていた男性職員の一人が文字を読み上げ始め、私がそれを紙に打ち込んでいく。
カナのタイプライターがぱちぱちと音を立てる度、文章ではないただの文字列が並ぶ。囲碁板の前にいまだ座る男性職員は何かの暗号か悪戯かと笑い、やがて通信が終わった。
私は紙をタイプライターから外し、それを胸に抱く。
背後からは、碁石が置かれる音が聞こえ始めた。
私は窓の、雪の向こうを見る。
電信は恋文だった。
改行の度に横に現れたのは、愛の言葉で。
私の同性の恋人の、私に宛てた別れの言葉だった。
南向きの窓は、何処までも寒々しい。




