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走る
夜の繁華街に響く、少し甲高いブレーキ音。そののちに、ドアを開けて、乱暴に閉める音。
「どちらまで?」
高い女性の声。
「どこか遠く」
妙に低い女性の声。バックミラーで、目をはらした美女がいることを、ドライバーが確認する
「お客さん。ちょっと困りますよ」
「金ならあるわ」
ドライバーは片眉を上げて、車を発進させる。メーターも上がり始める。
車内に沈黙が流れ、夜の街の光も後ろへ流れていく。
「お客さん。家じゃなくていいんで?」
やがて、ドライバーが声を上げる
「帰る家なんてないわ」
またも、沈黙。
しばらく走れば
「あー、お客さん。私には、帰る家があるんですが」
ドライバーが車を止めて、後ろを振り返る。
「そう」
「そうって」
呆れた顔をして、ドライバーがメーターを確定させる。
「降りてくれ」
女性は、財布ごと金を置いて、車から降りる。
タクシーはすぐ近くの停車場に消え、代わりにドライバーがキーをもって現れる。
「上がりなよ、話くらいは聞いてやる」
「ありがとう」
「泣いてる女は好みじゃないんでね」
おどけた調子のドライバーが、財布で女の背を叩き、玄関に誘う




