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騙
回送電車を幾本も見送る、夜の跨線橋。私はそこに呼び出されていた。呼び出したのは、やけに長いコートを着た妙齢の女。
「絵はどこ?」
窓のない柵によりかかる彼女は、希代の大怪盗。
「来て早々にそれはムードがないね」
彼女を睨みつけるも、意に介されない
「私はねぇ。飽きたのよ」
それどころか、急に彼女が語りだす
「モノ盗っても、ワンパターンで」
柵から離れ、こちらに近寄ってくる
「そこで私は考えた、次に奪うものを」
私は、背中に隠している手錠を確認する
「奪って、私が死ねば、一生取り返せないもの、なーんだ?」
顔を覗き込んで、彼女が子供っぽく笑う
「そんなの――」
知るかと、言おうとした唇を、ふさがれる。
そして、一瞬の思考の空白を突かれ、彼女が離れる
「で、私が死ぬと」
異常なほどの機敏さで、彼女が柵の上に飛び乗る
「ま、待て!」
「待てなーい」
柵の上で、優雅に一回りして、彼女が飛び降りる。
電車の音は聞こえている!急いで下を覗き込むも、すでに彼女は見えず。
後日、少量の血痕しか見つけられなかった
私はそれきり、彼女のことばかり考えるようになってしまった




