5hss「三毒」
これまたユリトピア内で開催された5hssのものです
今回のテーマは仏教における「三毒」となっています。
上から順に、癡、貪、瞋となっています
≪癡、迷妄、あるいは恋に恋をする≫
私の彼女を公言していた人曰く、放課後の教室は、カーテンの隙間から光の梯子が下りて、埃が透明に舞うことで完成するらしい。
そんな教室で彼女は、たとえ同性同士でも、様々な障害があっても、私たちの愛は不滅なのだとよく嘯いていた。
私はそんな彼女にこう言った
「私の好きな料理は何でしょう」
彼女は、こう答えた
「知らないわ」
私はそれを聞いてこう言った
「私の好きな映画は何でしょう」
彼女は、こう答えた
「知らないわ」
私は最後にこう聞いた
「私の、名前は何でしょう」
彼女は、詩と愛と自身とを、愛する人だった。
私は、彼女が好きだったというのに。
≪「永遠」へ、≫
明かりの落とされた病室で、いくつかの電子音が鳴っている。横たわるは老婆。
朝焼けの前、老婆の傍らに影が立つ。
「死ぬのか」
年若い女の声
老婆は答えず
「死んでしまうのか」
電子音のみの静寂
「女同士で、何も遺せず、逝ってしまうというのか」
日の出は近い
女は言葉を急ぐ
「出会って100年。ついぞ私を殺せなかったな」
闇が晴れてきて、
「私もお前を殺せなかった」
佇むは異形
「私はかつてすべてを欲した」
女の、何本もある腕が持ち上がる
「まず、永遠を手に入れた」
そのうちの一本が老婆を撫でる
「時間があれば良いと思ったからだ」
残りの手が、機械へと触れる
「殆どを手に入れた」
いくつもある目が、細められる
「だが、お前だけはついぞ、手に入らなかった」
機械音が、老婆の死を告げる
それを女は手慣れた手つきで止める
「愛しているぞ、これからも」
闇が完全に晴れれば、そこには魂のひとかけらも、在りはしなかった。
≪食卓にて≫
二人で住むワンルーム。本当は狭いけど、心なしか広く感じるもの。
今日の夕食当番は私。珍しいお肉が手に入ったので、それを使った珍しい料理を作る。インターネットは偉大。
「今日の夕食はお肉づくしでーす!」
向かいの彼女は、だんまり。私も座ったものの、沈黙が流れる。
実は、朝方大喧嘩をしてしまったのだ。私が一方的に悪かったので、謝らなければならないが、どうにも言い出しづらい。
とりあえず、料理を口に運ぶ。我ながらよくできていると思う。
「お、美味しいよ?」
料理に手を付けず、こちらを見つめ続ける彼女にそういうものの、やはりだんまりだ。相当に怒っているらしい。私が仕事から帰ってきた時は、すでにそこにいたのだから、その怒りは推して知るべしだったか。
私はとうとう、沈黙に耐えかねて、謝罪を口にする。
「その、ごめんね。私が悪かった。だから、ね。許して?」
怒りに任せて包丁を突き立てたことを謝る。
「……」
「ありがとう!やっぱり君は優しいね!」
私の分の料理から、一口分取り
「はい、仲直りのアーン」
机の上の、首だけの彼女に運ぶ
「美味しい?ふふっ、ありがとう」




