神との対話(後篇)
「ああ、大丈夫大丈夫。あのね、ボクはそんなミスしないから。適当な土下座神とかと一緒にしないで貰えるかな。あいつらあんなポンコツでよく神を名乗れるもんだと思うよ、ホントに。大体ボクがもしもミスをしたなら、いちいち土下座なんかするわけないでしょ。全部なかったことにする」
「いや、それ最悪だろ」
ミスを認めず押し通すとか、怖すぎる。
本当に今回の、ミスじゃないんだろうな。
「まあ、信じがたいのは分かるけどね。キミ、人を助けた自覚ないでしょ?」
「当たり前だろ。まあ、強いて言えば、あのジャージ野郎くらいかな。かわしきったつもりだし、あいつくらいは助けられたんじゃないか?」
「おお、よく分かってるじゃない。その通りだよ。彼をね、キミは見事に助けることが出来たんだな」
「良かったと思っておくよ。転生待ちで隣にいられても嫌すぎるしな」
「そういえば彼のこと、ニート野郎とか言っていたよね」
「まあな、っておい、思っていただけだぞ。てめえ、心読んでやがるのか!」
「ええ~、それ、今更過ぎない? さっきから心の声に、何回か突っ込んだよ?」
「マジか!」
俺にプライバシーはないのか!
「本題に戻すけどさ、キミの言う通り、彼はホントにニートだったんだよ。しかも筋金入りの引きこもり。四年ぶりの外出が、あの日だったってわけ」
「それではねられてたら、本気でチート転生の条件満たしそうだよな」
「ま、そうだったかもね。ホント、キミはブレないねえ」
「うるせえよ。それでなんだよ。あのジャージ野郎がニート野郎だったところで、そいつがどうしたってんだ」
「ニートだったことは問題じゃない。問題はその先さ。キミに助けられて生き残った彼がね、その人生で人を助けまくるんだよ」
「え……?」
「キミに助けられて生き残った彼がね、その人生で人を助けまくるんだよ」
「いや、二度言わなくていいよ!」
ちょっと待てよ!
人助けは俺じゃなくてそいつ?
そりゃあ、俺が避けなきゃアレだったのかもしれんがよ。
「ちーとも分からん。説明してくれ」
「彼にとってね、彼女との出会いは運命的なものだったんだ」
「なんの話だよ」
「キミのトラックから庇ったあの女の子だよ。彼女にしてみれば、我が身を省みずに助けてくれた命の恩人、って訳だよね?」
「まあ、そうなるわな」
「かくして二人はめでたく恋に落ちましたとさ」
「くっそ、くっそ、爆発しやがれ!」
転生を阻んだ代わりにキューピッドになっちまったってのかよ!
クソ、俺に彼女がいないと知っての当て付けか!
「彼は高校中退だったんだけど、彼女に支えられて見事に大検合格、彼女の卒業と合わせて見事に資格を勝ち取ったんだよね」
「おんなじ大学に行きたいですってか。やかましいわ!」
「ところがそうはならなかったんだ」
「なんでだよ。その為に頑張ったんじゃねえのかよ」
「なんで彼女がいきなり車道に飛び出したんだと思う?」
「いきなりなんだよ。そんなの知るわけねえだろが」
「脳にね、腫瘍があったんだ」
「……え?」
腫瘍ってなんだよ。スーパードクターが手術で治すアレか。
「脳腫瘍のせいで突然運動麻痺が起きてね、倒れそうになったんだよ。でも腫瘍自体はまだ小さくて麻痺は一過性だったし、その時は他に兆候もなかったし、事故で頭を打ったわけじゃなし、そんなわけで誰も気付かなかった。気が付いた時は転移が起きたあとだったのさ。脳腫瘍ってね、手っ取り早く言えば癌だから」
マジかよ。癌で転移って、それ末期とかじゃないのか。
「抗がん剤治療に苦しむ彼女を助けたい一心だった彼は薬学を志した。医者になるには遅すぎるって諦めたらしいよ。そんなこともないのにね」
いや、知らねえよ。
「元々ハイスペックだった彼はガンガン伸びていってさ、学生時代にとった特許をもとに研究所を設立して、癌治療に生涯を捧げる誓いをたてた。凄かったよ。寝る間も惜しんでさ、研究だけじゃなくて癌患者のネットワークや遺族を支えるNGOを設立したり」
遺族を支えるって、つまり、そういうこと、だよな?
「彼の開発した抗がん剤は非常に画期的でさ、副作用がほとんどなく癌治療に革命をもたらしたと言われてる。そして、癌撲滅には至らなかったけれども、一部の癌に対する特効薬を開発した功績でノーベル医学賞を受賞した」
ああ、癌と風邪の薬を開発できればノーベル賞が取れるって聞いたことがあるな。漫画のネタだったっけ?
「晩年、彼は請われて国会議員になり、最終的に厚生大臣を勤めあげたよ。医薬品の認可に辣腕を振るい、医療福祉分野に多大な功績を残した。福祉面ではニート経験も活かしてね。彼に救われた人数が、万の桁に納まる筈がないことくらい、分かるよね?」
「ああ。つまり、それだけの人助けをするあいつを助けたって功績で、俺は……」
「そ、ご明察」
この時ほどこのクソ餓鬼を殴ってやりてえと思った時はない。けど、同時に全く腕に力が入らないような感じもした。
なんだよ、その壊れスペック。壮絶な人生って奴か?
ダメだ。かなわねえ。
すげえ、って思っちまった。
チートでウハウハとか、恥ずかしすぎる。
「そんなわけでキミの福運、分かりやすく言うならボーナスポイントはてんこ盛りってわけ。さあ、どんなチートが欲しい?」
下が頑張れば上が儲かるって、それ何処のネズミ講だよ。
それ、俺のポイントじゃねえじゃん。確かにきっかけになったかも知れないけどよ、だからといってありがとうとか、言えるかよ。
「へえ、えらく無欲じゃん。キミくらいポイント持ってれば記憶の継承ボーナスでも獲得できるんだよ?」
前世の記憶もって転生とか、定番だよな。けど。
「要らねえ」
「なんで? テンプレじゃん」
「冗談じゃねえよ。これから来世でよ、目が覚めるたんびに、俺は人の功徳のおまけでチートを貰いました、とか、あいつの福運の上前はねた、とか思い出さなきゃなんねえのか。それ拷問だろ」
「じゃあ、記憶の継承は無しにしようか。かなりポイント余るよ」
「なあ、そのポイントって、どうしても使わなきゃなんねえのか?」
「そうだね。キミが望むと望まないとにかかわらず、それがキミの人生の結果なんだからね。キミとは逆に頑張ったつもりでもポイントが貯まっていない、そんな人生だってあるさ」
ポイントに罪はないってか。
じゃあ。
「転生先ってどんな世界なんだ?」
「記憶の継承はしないのに、行く先は気になるかい? 剣と魔法の世界だったとしても、今のキミと同じ楽しみ方は出来ないんだよ?」
ま、そりゃそうか。
「じゃあ、決めた。別に大層な力とか、都合のいい強さとか要らねえ。どうしてもくれるってんなら、可能性をくれ」
「ふうむ、それはアレかな、スキルの取得条件無視で、全スキル取得可能、とか、成長率向上とか、かな?」
「ああ、まあ、そうだな。ああ、一つだけ条件をつける」
「なにかな?」
「努力した分だけ能力が上がるようにしてくれ」
「なるほどね。頑張った分だけ成果が出るように、ってことだね」
「まあ、それでいいよ」
本当はちょっと違うけどな。
努力した分だけ上がるってのはつまり、努力しなかったら上がらないってことだ。
そうしてくれって言ってるんだ。てめえも心読んでるんだったら分かるだろ?
てめえのにやけ面見てても、通じてるんだか通じてないんだか、分からねえよ。
「ところでさあ、話は変わるけどキミ、全然疑問に思ってなかったね」
「なんにだよ」
「ジャージの彼の人生、全部過去形で言ったこと」
ああ、そう言えばそうだったか。
「けどよ、てめえが神でここが神の世界なら、時間とかもう関係ねえじゃん。別にどうでもいいわ」
本当に過去なのか、それとも未来予知なのか、それは分からねえが、ジャージさんよ、もしこれからだって言うんなら、まあ、大変そうだけど、頑張ってくれよな。俺も……頑張るから。記憶はなくても。
「そろそろ行くかい?」
「ああ、任せる」
「本当に記憶は要らないのかい?」
「しつけえよ。とっととやってくれ」
「じゃ、ばいばい」
あっさりと手を振られると、急激に意識が朦朧としだす。
これが、死か。……正直、嫌だな。
喪失感に震えがくる。
記憶、無くなるのやっぱり嫌だなあ。
後戻りはできないけど。
頑張れ、俺。来世では頑張って、今度こそ自前の福運を積んでくれ。
父さん、母さん、さよなら。
がんばれ……おれ……。
エピローグ推敲中
今夜中には投稿予定