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神との対話(前篇)

 気が付けば真っ白い、ただひたすらに白い空間にいた。


 部屋?

 いや、境目も何も分からない。

 そもそも立ってすらいない。

 浮いているという感覚でもないんだが、取り敢えず足は地についていない。

 床とかねえのか。


 これはあれだな。

「死んだか、こりゃ」

 暇潰しに携帯でよく読んでいた小説と、シチュエーションがよく似ている。

 最期の記憶は結構凄絶なものだったと思うんだが、なんと言うか、さすが死後の世界。

 痛くも痒くもねえ。

 全く反響のない白い世界に、俺の声が吸い込まれていく。

 口にしてみると実感でも来るかと思っていたが、思ったより動揺しないもんだな。

 実は夢でしたー、とか、目を覚ましてみれば笑い話、とかにならないもんだろうか。


「いいや、君は死んだよ。これ以上ないくらいにきっちり、スッキリと。誰が見ても即死間違いなし。法律的には全身を強く打って心肺停止状態とか言われちゃうけどね。ドクターの死亡確認がつかないと色々難しいみたいだねえ」

「あ、やっぱり」


 何もなかった白い空間に、いきなり現れた人影が軽薄な口調で容赦のない宣告をしてくれやがる。

 いや、分かってたよ。覚悟はしてたよ。

 絶対死ぬ、とか思ってたからなあ。


 まあ、死んじまったもんは仕方がない。

 嫁もいなけりゃ子もいない。そもそも嫁候補がいやしねえ。

 両親は健在だが、まあトラック運転手なんて因果な商売を始めちまった息子のことだ。

 それなりに覚悟はしてくれているだろうよ。

 今世のことは、ここでスッパリ諦めるとしようか。


「へえ、たいした切り替えの早さだなあ。いや、感心感心」

 やたら上から目線の人影は、白衣を着た男ガキにしか見えなかった。

 背伸びして医者のコスプレをしてる感じか?

 ムカつくと言えばやたらムカつくガキだが、そんなことよりも見覚えのありすぎるシチュエーションの方が、俺にとっては大事だ。


 今世の事は諦めた。

 じゃあ来世は?

 そいつが一番大事だろうがよ。


「いきなり出てきてお前は何だ? 見た目はアレだが、神かなんかか」

「おやおや、そんな態度でいいのかな? キミの一番大事なこと、それを握っているのがボクなんだけどねえ。まあ、いいや、神、ね。うん、神と思ってもらって構わないよ」

 おお、マジか!

 死後の世界で神と対話、そんでもって来世の話となれば、これはネット小説でさんざん読みまくった異世界チート転生のテンプレそのまんまじゃねえか!


 配送の待ち時間にあらゆる転生モノを読み漁った俺に死角はない。

 ついに俺の時代が来たか?

 土下座神パターンじゃないようだが、俺が死んだのは神のミスって訳じゃなさそうだ。畜生、このガキがミスしたってんなら指差して笑ってやるのに。


「ま、そういうことだね。別にボクがミスしたって訳じゃない。むしろキミがキミ自身の意志で見事に死んでのけたって方が正確じゃない?」

「おいおい、なに人を自殺志願者みたいに言ってるんだよ」

「あれ、もしかしてキミ、自分がどうやって死んだか覚えてない?」

「いや、覚えてるっちゃあ覚えてると思うんだが……」

 最期の瞬間を思い出す。

 目の前に迫る電柱。押し潰される身体、って、いや、最後過ぎるな。その前のとこからか。


 あの時俺は、普通に配送で走っていた筈だ。

 そんでもっていきなり女子高生が飛び出してきたんだよな。いや、たぶん女子高生だろ。セーラー服だったし。

 そんでまあ、やべえと思ったわけだが、もう一人出てきやがったんだよなあ。

 ジャージの男が身を呈して、ってやつ?


 そう、そうだよ。

 自分の身を犠牲にして女の子を庇いやがったんだ。ザンバラ髪でニートっぽい奴がよ。


 こっちこそ本気でやべえ、と思ったね。

 ニートが女の子庇ってトラックにはねられると言えば、チート転生のお約束だろう。

 このままこいつがかっこよく転生していくのか?

 転生先でハーレムつくってウハウハになるのか?

 俺が、俺のトラックで、憧れのチート転生をさせてやる側になるのか?

 いやいや、そいつは羨ましすぎるだろう。

 そうとも、転生なんぞさせてたまるか。絶対にかわしてやる!


 その後の俺のハンドル捌きは、神がかっていたと言ってもいいね。

 まあ、かわした先に電柱が待っているとかが誤算だったわけだが。

「うん、あのハンドル捌きは見事だった。片輪走行になってまで、見事に避けきってくれたわけだからねえ。ただその分、電柱との衝突が悲惨だったわけだけど」

「まあ、完全に横倒しになっちまったんだ。さすがに電柱までは避けられなかったなあ」

「いやいや、そういうことではなくってね。普通に正面衝突していれば、トラックなんて頑丈なもんさ。そりゃあ怪我くらいはするだろうけど、潰されるほどの事はないよ。でもキミは、横向きに電柱に突っ込んでいった」

「あ、もしかして?」

「そういうこと。電柱はフロントグラスを直撃して、ボディを綺麗にかわしてくれたからね。衝撃は緩和されることなく、キミを即死に導いた、というわけだよ。ホント、見事と言うしかないね」

 揶揄するように笑うクソ餓鬼。ムカつく。

 言葉だけ聞いてりゃ微妙に誉めてるっぽいところがまた余計にムカつく。


「ほらね、キミ自身の意志で見事に死んでのけたってわけ。そうでしょ?」

 くっそ。ちっくしょ。

 ということはなにか、あんな無茶な避け方しなけりゃ怪我で済んでたってわけか。いや、そしたらあのニート野郎を転生させてやってたんだろう。

 くっそ、そいつも腹立つ。結局詰んでたってことか。

 俺は死ぬしかなかったってわけだな。


 まあ、いいや。俺が怪我してあいつが転生とか、そっちの方が嫌すぎる。

 俺の方が転生できるってんなら、むしろ本望だろうよ。

「まあ、本望と思ってくれるならそれで構わないよ。話が早くてこっちも助かる」

「おう。で、本題だがな、マジか。マジで期待していいのか」

「そうだね。お待ちかねのチート転生。うん、キミにはその資格が十分にある。特典てんこ盛りの来世を、キミに贈ろう」


 よっしゃあああっっ!

 お父さん、お母さん、先立つ不幸をお許しください。

 俺にとっては幸福のようです!


 まあ、未練がないっちゃあない訳じゃねえが、今更戻れるわけもないだろう。せめてもの慰めに、保険金、下りてくれるといいなあ。

 来世では俺、頑張るよ。


 しかしなんだな。

 特典てんこ盛りの資格かあ。

 言っちゃあなんだが、俺のどこにそんな資格があったんだろう?

「そうだねえ。キミの人助けによる功徳、かな。キミが救った人の数は、万じゃきかないからねえ。福運てんこ盛りってのも当然だね」

 ……なんですと?

 俺が、人助けだって?

 しがないトラック運転手の俺が?


「……あの、まさか、人違い、とかだったりしませんかねえ」

 ここに来て神様のミスかよ!

 さすがに嫌すぎる。勘弁してくれ!


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