元婚約者とのエトセトラ
兄との再会から二時間後、客室へと俺は向かった。
武術も魔法も俺よりは基本スペックが上のラファエル兄上が、即座に転移避難せずにあれ程の大怪我をした半分の原因は、俺の元婚約者で現在ラファエル兄上の婚約者になった公爵令嬢エンヴィを庇ったからだ。
他種族に対して友好的魔族は、膨大な魔力量や魔法技術や長寿な以外人と差ほど変わらない。
だが、高慢な典型的魔族は、卑劣で陰湿で攻撃的だ。
多分、相当卑劣な手でエンヴィを人質にでもとられたのだろう。
兄上はフェミニストだから未来の王となる玉体でもある自身を護らせる前に、つい彼女を護っちゃったのは条件反射だったのだろうなぁ。
皇太子としてはアウトな行動だが、男としてはイケメン過ぎるぜ。
本当兄上くそカッコイイな。
エンヴィはここに来るまでの間、ずっと兄上に付き添っていたらしい。
だが、結界内にたどり着いた途端、張り詰めた気が緩んだのだろう。
兄上同様気絶したそうだ。
あいつはいつも生真面目で一生懸命で理想も高く、俺には眩しすぎる女の子だった。
嫌いじゃ無い。
と言うか初めて見た時は、とんでもない美少女で不覚にも見惚れた。
けれど、何ていうか、コンプレックを刺激して、地雷を踏み抜いて来るタイプだ。
だから人生甘く見ていた素直じゃなかった昔の俺とは、気付けば思考が乖離してしまったのだと思う。
まぁ、正直何事も無く結婚したとしても、ガッツリ尻に敷かれそうだよな、あの手のタイプには。
そんな彼女が先程目を覚ましたので、こうやって部屋の前に来たわけだが…。
「き、気まずい…何話せばいいんだ?」
と、扉の前でウロウロキョドってます。
気を利かせ誰も共が居ない。
うん、優しいスパルタだよねみんな。
軽く深呼吸して扉をノックする。
「はい。」
凛とした返事が聞こえる。
懐かしい声だった。
「入ってもいいか?」
「…どうぞお入りください。」
扉を開けると、既にベッド脇の椅子に腰掛けて。
この砦に魔法で保存してあった未使用のメイド服に着替えていた。
着ていた豪華なドレスも、戦闘と避難でボロボロだったそうだから誰かが着替えさせたのだろう。
パルーニャがこの砦に居た頃作った衣類や武器防具は、魔法で臭や汚れや布の傷みを劣化予防する術が掛けてあり。
20年程使うと魔法の効果が切れる為、まぁ大半は残っていないのだが。
完全な未使用の物にはその効力が残っていて。
デザインが多少古めかしい位で、新品同様だ。
なんか、エンヴィが着たらインテリ女子度が上がった感。
「久しぶり…だな?
いや、失礼、お久しぶりにございます、エンヴィ公爵令嬢様。」
ふと身分が落ちた事を思い出し、昔の尊大な態度を改めて臣下のような対応する。
「おやめください、シャア殿下。
公の場ならともかく、ここにはわたくししかおりませんわ。」
「しかし、俺が王子で無くなったのも事実です。」
じっと見つめると、エンヴィは溜息をついて苦笑を浮かべた。
「本当、変わられましたね、シャア様。」
「変わらなければ、死んでいたでしょうね。
俺は世間知らずの馬鹿でしたから。
貴女にもかなり迷惑をお掛けしましたしね。」
自嘲気味に笑う。
有る意味シャアという本来の存在は、身分を失った時に死んだと同義だ。
身分を失い前世異世界記憶と言うチートを得なければ、魔物に殺され野たれ死ぬか暗殺待った無しだったと思うよ。
農業だって、知識は有ってもやれたかどうか…。
まぁ、エンヴィにそんな事を言っても仕方無いから、思考を戻す事にした。
「兄上は無事だ、怪我の治療も完了したそうだ、後は出血のショックと出た血と魔力枯渇の自然回復の為に暫く療養して頂くだけだ。」
「そう…良かったですわ。」
半泣きで嬉しそうに微笑む。
俺はそんなエンヴィの表情は知らない。
ああ、兄上はエンヴィに本気で愛されてんなぁ〜。
と分かる表情だった。
少しだけ、複雑だ。
俺がまともな男だったなら、婚約者だった俺に向けていた表情かも知れなかった。
まぁ、たらればだな。
オレ達は既に道を違えたのだから。
少しして、俺はその部屋から退出した。
エンヴィはラファエル兄上が完治するまで側で看病する事にしたらしい。
兄上に用意した部屋の隣にエンヴィの部屋を用意したので、何時でも看護できるだろう。
その後、エンヴィから聞き出した王都や魔族達の事は、大体兄上の説明と対して変わらなかった。
王族や貴族側にも魔族の兆しは微かにしか漏れなかった、と言う事らしい。
パルーニャが言ってた。
「魔族の暗躍には幾つかパターンが有るの。
スタンピードを増発させ犠牲者を増やす。
怪事件で生贄になる人死を不気味に増やす。
貴族や王族の腐敗が進む。
戦争を起こして国力を削る。
神殿や聖遺物を破壊する。
宗教弾圧をする。
国の中枢に潜入して国を挙げ操る。
生贄になり、洗脳して魔族の為の死兵にもなる子供を浚う。
その兆候は少ししか無かった。
でもゼロでも無かった。
スタンピード、神殿破壊、怪事件…。
魔族と繋げるにはまだ弱い案件だった。
今回中枢に潜入しての暗躍の方が強かったみたい、抜かったわ。」
見落とさないように動いても限界があるものだ。
神の使徒たるパルーニャですらそうなのだ。
パルーニャは渋い顔をしていた。
「ゲームと展開がズレたのにフラグ展開に擦り寄っているの。
ちょっと今回は変なのよ。」
パルーニャによると、元ネタにしたゲーム的展開は、余程フラグを踏まないと進まないし、フラグクラッシャーな行動を取れば、ゲーム展開からは外れて行く。
要はそれっぽい事にはなっても、既に主人公のシャアが全くゲーム展開から行動がズレているのだ。
修正する為の強制力が働くのは可笑しい事になる。
何故ならこの世界の創造者たるパニマ神は、異世界の物語をぱく…サンプルにしても、人の想定外の行動をむしろ推奨すらしているのか、本来の展開とは違う行動をしても罰とかは無かったし強制力も無かった。
チリンチリン…。
又妖精の鈴の音が聞こえる。
今ここを留守にしても、大丈夫だとは思う。
ぶっちゃけ王都よりも、魔族に対しての結界や戦闘力は高いからだ。
少し前にパルーニャ達としたゲームの話を思い出す。
俺がここに来た展開は、前作ヒロインと結ばれていたら大公となってこの地をもらった事になっている。
ヒロインに選ばれないエンドの後なら、ここに1人来ているが、王子のままだった。
その後、戦略シュミレーション的なせんとうとフラグを踏みつつ、砦周りの育成シュミレーションも出来たりする。魔族や魔王は確かに発生するのだが、行動次第で魔族達との関わりも皆無だし、発生すらし無い。
俺は砦周りの育成に重点を置いていた為、フラグを自主的に発生させて居なかったらしい。
だから想定外が重なっていたし、魔族達の暗躍がスルッと通った遠因にもなったのかもわからない。
でもまぁ魔族が発生したのも確かなので、検証は二の次だそうだ。
「パルーニャ、又鈴の音が聞こえる。」
頷くパルーニャに、ミシェルアも反応する。
「うん、ボクにも聞こえたわ。」
「んじゃまぁ、砦内で妖精の鈴聞こえたか確認して、聞こえた人達連れて行きましょか。」
「行くって何処へ?」
「迷いの森!」
「「はぁ?!」」
そして、俺とパルーニャとミシェルア。
それ以外だと冒険者からはグレーシアとセルドラとテレサが、後はイケメン五人が加わった大人数で迷いの森に行く事になりました。
パルーニャ曰く、妖精の鈴は呼び出し音。
そして、迷いの森への入場券みたいな物らしい。
少なからず、妖精に愛されてい無いと聞こえ無いそうだ。
ミシェルア曰く、妖精の鈴イベントで、本来なら冒険者だけかイケメン五人のどちらかが選ばれるらしいが、やはり何か想定外が続いたのだろう。
全員が選ばれたそうだ。
能力的にはエンヴィも選ばれそうなものだろうが、選ばれなかった。
婚姻を来月に控えた彼女は気付いて居なかったのだが。
今回の治療で妊婦だと判明した。
まさかの出来婚かよ!
女性は余程の能力者か、幼少から妖精達と契約してい無い限り、妊婦や妊婦経験者は妖精の鈴が聞こえづらくなるそうだ。
妖精は処女厨、俺覚えた。
まぁ、そんな訳で?エンヴィは選外デス。




