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闘いの挽歌を報せる伝令はハーレムチート君だった

こんこん

と、シャアの部屋の扉がノックされる。

シャアの部屋と称する元男爵家執務室だ。

なので完全に書斎と事務所的な大きな古めかしい机と椅子。

客が座れそうなサイドボードと長椅子。

更に壁には大きな図書館のような本棚が埋め込まれている機能的な部屋だ。

その本棚には男爵家所縁の書物は地下施設に移動隔離されており。

現在避難村に必要な細々とした書類や、運営している農作物や施設の会計収支決済や名簿といった事務的な物が収めてある。

「はい。」

シャアが書類を作成する手を止めずに答える。

「シャア殿、王都より書状と使者が参られました。

お会いなさいますか?」

老執事ハイドの声に手を止め少し考える。

「…少し待ってもらっていいかな?

そうだな、今から支度すると10分程したら待合室に行けるから。」

「承りました。」

ハイドの渋いテノールが静まると、扉の前の気配が見事に音も無く消えた。

「執事とかメイドって、アサシンとか忍者的なスキル持ち多いよなぁ。」

と、頬をぽりぽり。

小さく溜息をついてから手元の書類に後で分かるように栞を挟んで、小箱に入れてから引出しにしまう。

そして立ち上がって伸びをしてから来客相手用の服へと着替える。

既に着替えはハンガーに掛けてある物を着替えるだけだ。

王宮にいた頃は、正装の様な着るのに難しい物だけでなく、簡単な着替えすら数人係りだった事を考えると大分生活が変わったなぁと思う。


待合室の扉の前にハイドが控えていた。

「シャア殿が参られました。」

ハイドが声を掛けてから上品に扉を開ける。

「チョリーッス!お手紙お届け〜。」

中には凄く軽薄そうな伝令姿が似合わ無いイケメンが手を振っている。

まさになんちゃってコスプレだった。

「ファルコ…何で次期公爵が伝令ごっこしてるのさ?」

乙女ゲームに出番は無かったが、トレシア公爵のファルコ公子は、シャアの二つ歳下で。

文武両道な歩くハーレムチートである。

既に他国に婚約者が3人おり。

シャアとは違って世渡り上手で順風満帆な男だ。

仲は比較的良かったので来るのは構わ無いが。

シャアは現在王族では無いから、次期公爵に会うのは本来なら身分的にも憚られる。

「細かい事気にしてたらハゲるよぉ?

はいこれ。」

うふふと笑うファルコにイラっとしつつ、彼からの手紙を受け取る。

兄であるラファエル皇太子からの手紙だったから固まる。

「僕を使いっぱに出来る者は限られてる。

でしょ?でしょ?」

あくまで楽しそうにファルコはシャアのリアクションを楽しんでいる。

「はぁ、まぁ、そうだな?」

くすくす笑った後に、ファルコは消音魔法を部屋に掛けた。

ピクッと眉を動かしたが、手紙の内容的に仕方無いかとシャアは言葉を返さ無い。

「幾つか村が消失した。」

スッと表情を消し、ファルコは淡々と言葉を紡ぐ。

「ガウリィル王子が産まれてから、小さいがどーにもきな臭い事件が増えてるんだよ。」

「血糊と消失事件も?」

先日発生していた魔族の嫌がらせ事件を思い出す。

「教会も幾つか燃やされてる、ボヤ風にしてるけど多すぎだ。」

「神の結界と加護を物理的に削ぎに来てるのかい?」

「そうなるね。」

「んで、ガウリィル王子がなんで関係してると?」

「王子が産まれた時期とストラトス侯爵家の黒い噂が増えた時期が重なり過ぎ。」

「ストラトス侯爵家か…。」

ストラトス侯爵家、ジブリール側妃をねじ込んできた上級貴族家だ。

だが元々ジブリールを王妃にと喧伝して、正妻戦争に負けて大恥をかいた過去がある。

相性も悪かったのか寵愛も薄く、子供にも恵まれなかった。

その側妃が王子を産んだ。

その王子は本当に王の息子なのだろうか?

そう噂を立てられる程に王は側妃へ通っていなかった。

定期的に通う公式な閨の日取り以外は。

全くの疎遠ならいざ知らず、少ない回数でもお手付きだ。

新たな王族の出現は波乱を呼んだ。

王位継承権を剥奪されたシャアはともかく。

野心の塊の様な侯爵家に火を点けた。

マトモな男だったら、ラファエル皇太子を立てて他国へ婿に入るか、新たな公爵家を作る事に力を入れる。

だが、ストラトス侯爵は暗躍していた。

ラファエル皇太子が不手際でシャアの様に没落する為に、クーデター染みた暗躍を始めたのだ。

現在、ストラトス侯爵家はお化け屋敷か何かの様な禍々しい気配に覆われ始めているという。

「ストラトス侯爵は、魔族の傀儡になってたりしてね!」

ファルコが何時もの調子で言うのだが、目が笑っていない。

「ガウリィルがもし父上の子供では無く、魔族の子供だったりしたら、目も当てられないぞ、それ。

まったく、手段選ばぬ貪欲な連中は、魔族に傀儡にされ易いらしいから面倒だよな。」

シャアが力なく呟いた言葉が、訳も無く静かに部屋に響く。

それは最悪の答えだった。

王宮に魔族が進入していると言う事だから。

何か言う前に扉が大きく叩かれる。

「シャア様大変です!

お父上様国王陛下が亡くなられ、ラファエル皇太子兄上様が重体。

王宮が魔王に破壊されました!」

ハイドの声に、シャアは真っ白になって固まる。

それは、新たな闘いの開幕だった。

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