とある研究へのエトセトラ
数ヶ月遡るレデュウ砦館の出来事である。
「なあなあ、アレどうなった?」
「んー、まだ不安定だな。
アレじゃ結界壊しかねないから、術式練り直し中だよ。」
「こことココ繋げて、ショートカットしてから、こっから消して見たらどうかな?」
「いや、てもそれだと効力減らないかな?」
「よし、試してみようぜ!」
「うわっ、バカやめろ!」
ボフッ!
と言う音と共に、一同は小規模爆発に巻き込まれる。
まぁ、耐魔術を施した服のお陰で、髪の毛が少しの間パンチパーマになるだけだすんでいる。
うん、コントとかギャグ漫画の良くあるぷすぷすする状態のアレだ。
それはさて置き、先程から何をしてるのかと言うと。
結界の中でも大丈夫な、精神系魔法を弾く術式練りこんだ、イカした魔道具を作っているのだ。
もうね、悔しいじゃん?
魅了とかマトモに喰らうのがさ。
俺ら全員、精神系魔法にトラウマったから、すごいのめり込み具合の研究だった。
同じ女に惚れてふられただけあって、波長が合う部分が有ったのかも知れない。
俺らいい感じに仲良く慣れたと思うよ。
幸いモンスター退治ばかりして居たからか、材料には困らなかった。
しかし、強過ぎても結界がダメで、弱いと効力出す意味が無い。
正に難産だった。
「にしても、最近魔物増えてないか?」
トリトンが困惑顔で呟く。
「んー、魔族でも出たりして?」
ぽやーっとカシューたんが嫌な事を言い始めた。
この天然、やりおる。
抉るような天然発言は、きっとトリトンの影響だな。
俺らの無垢なカシューたんが、立派になって…。
あーうん、面白いから止めないでおく。
「おい馬鹿ヤメろ!
魔族とか、縁起でも無い。
もし高位魔族が精神系魔法を使ったら、この魔道具程度じゃあすぐ破損するぞ?」
リュークが渋い顔で睨む。
「逆に目印じゃね?」
ヴァイオがボケる。
「お前頭イイな!」
俺様もボケる。
ツッコミが足らない。
真面目なのか不真面目なのか、さっぱり分からない会話が繰り広げられている。
因みに俺様とリュークとヴァイオとトリトンとカシューで得意箇所を擦り合わせながら研究を重ねて居る。
あ、ジェイダは魔法からっきしなので、戦力外だ。
研究の日は、やつは俺の配下と一緒にモンスター退治に行ってもらっている。
皆がレデュウ砦避難村に来てから、ソロソロ二ヶ月が経過した。
その頃には、結構砕けた会話もできる様になったようだ。
余り堅苦しいのは庶民達が嫌がるしな。
「んー、じゃあ魔族対策で破邪の術式も入れちゃう?」
トリトンが提案。
「あ、それイイな。」
ヴァイオが乗っかる。
「馬鹿!
トリプル重ねとか、その次段階だよ。
二重ですら不安定なんですよ?」
リュークがツッコむ。
そうか、ツッコミリュークだけなんだ。
そりゃツッコミ足らねえな。
「なぁ、逆にトリプルのが安定するとか無いかな?」
カシューたんが提案。
「良し来た!これでどうだ?」
俺様乗っかりすぐ術式発動。
「おい馬鹿ヤメろ!
…あれ?爆発…し無い?」
ツッコむつもりが、茫然とするリューク。
「やっべ、俺様天才か?」
姦しく成功させた術式を刻み込んだ魔道具を創り出し。
俺はこのレデュウ砦館と避難村の各家庭と、ギルド二つの見え無い所にその魔道具を埋め込む。
更に、レデュウ砦館に住む者達にと王家家族向けに配布。
この村に住む者達には安価で売って見た。
名前は耐精神系魔道具、まんまだな。
反響はとんでもなかった。
初めは半信半疑、だが精神系魔法を使う魔物と対決した冒険者の被害が激減。
更に、呪い返しが発動すると、その手の魔物はかなりの攻撃を喰らう。
これは魔物だけで無く、悪意のある人が精神系魔法を使っても、同じ効果が有る。
命を狙われやすい貴族には、いずれ高値で売りつけようかな?とか思ってたりする。
まさか、本当に魔族が出て来ちゃうとかこの時は思って無かったんですよ。
いやマジで!
そして更に数ヶ月が経過したある日の事。
避難村入口門に、1人の女の子が行き倒れて居た。
「す、すみませーん。
あの、この村宿屋とか有りますか?
長旅でやっと人里に出たから疲れがどっと…ぐう。」
「え?やっちょっとお嬢さん?
もしもし?
…寝てる。
つーか、背中の白い翼とか、レアな有翼族とか神族とか?
一体何処から来たんだろ?」
俺が呟くと、女の子はモゾモゾと起きようと反応する。
「そこの森の反対側から来たのぉ〜。
精霊さん達が引っ張るから、どうたどり着いたのか全然分からないけどね。」
エヘヘと笑う。
その笑顔にすこぶる懐かしさを覚えた。
「んー?パニマさまぁ、着いたよぉ。」
女の子はそう言うと、完全に寝入ってしまった。
俺は途方に暮れながら、取り敢えず避難村の端の民家に彼女を入れた。
悪人には見えないし、パニマ様の名前を出して居るから、多分問題無いだろうが。
流石に全然知らない者を、初見で砦館に入れるわけにも行かないしな。
民家は封鎖を解いて、浄化魔法を使って部屋を使用可能にする。
そして、その女の子をベッドに寝かし付けてから、近くのテーブルに、多めのパンと水と蓋を開けると温かいスープを置いた。
後、服も身体も汚れて居たから。
浄化魔法を掛けて置いた。
ふと我に返る。
俺なんでこいつの世話してるんだ?
森の反対側って外国人か?
てか迷いの森を精霊さんに牽引されて抜けて来るとか、反則じゃね?
マジでこの娘何者なんだろう?
取り敢えず、着替えられそうな服をアイテムボックスから引っ張りだして、壁のハンガー留めに掛けて置いた。
スカートは無いが、どうも俺と体格が似てるんだよこいつ。
マジで小柄だな。
うん、俺様全然背が伸び無いんだが、止まってないよな?
小ちゃく無いよ!
そんなわけで、俺は風呂とトイレとキッチンの場所を書いた紙をテーブルに置いて民家を出た。
まあこれが、とても懐かしい再会だったりしたのだが。
彼女が目覚めるまで、その驚きはお預けになってしまった。




