PALAST CAPRICCIO
シャアが辺境にて落ち着いた頃、王宮に近い者達間では、密やかに水面下で事態が蠢き出した。
☆今回はシャアの出番有りません。☆
建ち並ぶコルベット王宮の城下街を、テラスから眺める第一皇太子ラファエルは、その美しい顔を軽く歪め呟く。
「参ったな…シャアは王位継承権を喪失して居るからもう巻き込まれ無いとは思うが。
他の側妃腹に弟が出来るとか、又貴族達が荒れるだろうな。
ゼハド、済まないがシャアに気を付けるようにと伝えてくれ。」
スチャッ、と音も無くラファエルの真側に傅く全身黒装束の男。
ゼハドと言う影護衛は、ラファエルへ顔を向けずに淡々と言葉を紡ぐ。
「ラファエル殿下、シャア殿は現在貴族達と距離を置かれております。
それと伝言が。」
「そうか、彼奴らしいな。
良い、申せ。」
「結界に強力な精神系魔法を弾く術式を組み込む魔道具作成に成功。
俺の様な未熟者が出ないとも限りません。
ご使用下さい。
との伝言と、この魔道具一式を我に渡されました。」
アイテム袋から出された魔道具一式は複数あり、身につける物と人の多く集まるところに設置する物が有った。
「して効果の有る範囲は?」
「置き型の物は建物全体。
身につける物はアクセサリータイプで、範囲は室内ならその部屋いっぱい。
外なら殿下の部屋位が範囲だともうされておりました。」
相当トキと言う娘の魅了に負けた事が、シャアは悔しかったのだろうな。
と少々微笑ましく思った。
何だかんだとラファエルは、弟のシャアの行動が可愛いのだ。
毒の有る貴族達と違い、彼のラファエルへの対抗心は、至って真っ直ぐ過ぎたから好ましいし、嫌悪感は湧かなかった。
まあ、だからこそ心の隙を狙われたのだと思う。
王族で居るには、清廉だけでも正義感だけでもやっては行け無い。
だからこそ、王族から逃れられた事は、シャアにとってはプラスに作用したのだろう。
影から聞かされる情報も、周辺貴族達からの評判も庶民の反応も、王族時代からは考えられ無い程余り悪い事は聞かなくなったし評判も良くなって居る。
それだけ優秀で自慢の弟の、本来の姿が認められるのは誇らしく。
そして何処かこそばゆい。
「分かった、アクセサリーは、城の王族と重臣達に、父王から精神系魔法除去作用の物とは言わずに、お守りで身につけろとでも言って配布して頂こう。
置き型は、父上に許可を頂き。
広間や劇場、会議室や学園、各地ギルド組織などの見え無い箇所に設置させる。
材料費や足らない材料でこちらで融通できそうな物は回して上げるから、追加で今回と同じ量作って欲しいとシャアに言っておいてくれ。
効果が認められれば国家予算から回せるが。
今は僕のポケットマネーで我慢してもらうとするよ。
まぁ、タイミングは偶然だろうが、シャアの機転に感謝せねばな。」
「は、では我はこれにて。」
「あ、待て。
ジブリール側妃と産まれた息子ガウリイル。
あやつらの周辺にまとわりつく貴族達を、一度洗い出せ。
どうも嫌な予感がするのだよ。」
ラファエルの言葉に頷くと、ゼハドは姿を消した。
テラスから室内に戻ると、ラファエルも又動き出す。
*とある貴族館*
「ふふふ、あのクソ生意気なシャアを殺せなかったのは残念だが。
ジブリールの息子が産まれた。
とうとう王座が我がストラトス侯爵家に転がり込むぞ!
そうだ我が家から国王を出せるのだ。」
男はイカレタ様子で玉座を望んで居る。
側に居る男は、その男よりも踏ん反り返ってニヤニヤと椅子に座る。
青みがかった肌、サラサラな銀の髪。
人とは違う優れた美貌。
そして、特徴的なのは、角が二本、背にコウモリの様な羽根をはやしている。
彼は魔族、比較的友好的な魔族では無い。
魔族の中でも凶暴で稀に現れ、人の魂の絶望を喰らう魔王の眷属だった。
魔王は既に勇者に倒され、数十年が経過して居る。
しかし、生き残った眷属達が雛に餌を与えがごとく、人の世に災厄をばら撒くのだ。
魔王の復活か、新たな魔王の誕生の為に。
忌々しい召喚勇者が居ない今がチャンス、とばかりに暗躍する。
コルベット王国が今回のターゲットになったのだ。
そして先程からイカレタ発言を繰り返すストラトス侯爵は、既に魂を穢され人形の様に操られて居る。
人の悪感情しか残って居ない。
術が解けても、廃人の様に生きる抜け殻と化すだろう。
「ふふふ、ははははは!」
男の声だけが、ストラトスの地下から不気味に響く。
館の人々は、既に傀儡かゾンビになって居るから、誰も反応し無い。
果たして、産まれたガウリイル王子は国王の子供なのかも現状疑わしかった。
いや、人なのだろうかさえも…。
パラストカプリッチョ
王宮狂想曲
ぶっちゃけ伊独語繋げた造語です
狂想曲のイタリア語読みが、何処かのお菓子かイタリア料理にありそうとか思ったのは、クラスの皆には秘密だよ!