異世界、初のお泊りはなんだか味気が無かった。
大きな門のまえに着くと、もう辺りは闇に飲まれ始めていて、門番であろう男たちが大きな門を閉めようとしているところだった。
ジェドさんは腰につけた茶色い皮袋から金色の硬貨を5枚とりだして手に握り締めると、周りから見えないように門番の腰辺りに手を持っていく。
門番の男はそれを静かに受け取り、まわりに誰もいない事を確認すると僕たちをこっそり中に入れた。
これはきっとワイロというやつだろう。こんなザル警備で大丈夫なのか、ここ。
「そうだ、坊主。そんな格好でいたらココでは目立つからな。これでも羽織ってろ。」
門を潜り抜けて丁度。ジェドさんが僕に茶色いマントを手渡してくれた。
お礼を言おうとして口を開きかけたのだが、ジェドさんの話はまだ終わっていなかったらしく言葉がさえぎられる。
「なぁ、坊主。お前さんこれから行くところあるのか? ないんなら俺の家に泊まっていかないか?」
一瞬なにを言われたのか理解できずにキョトンとしてしまった。
え?泊まる?何が?誰が?どこに?
「だから、俺の家だよ。見た限り金もなんも持ってないんだろ坊主。」
2回言われてようやく理解する。ジェドさんが家に泊まらせてくれるのか!!
ラッキーすぎるだろうこれは。
「あ、ああああ!? ありがとうございます!ジェドさん、本当……何から何まで!」
決めた僕、城野 努は一生かけてこの人についてく。
なんだろう、めっちゃ兄貴って呼びたいわー、このおじ様。
お礼を言った後、しばらく僕は黙ってジェドさんについていく。
おそらく日本では見ることの無い、ファンタジー感が満載すぎる町並みは一歩踏み出すごとに平均的日本人男子庶民派の心を大きくふるわせた。
赤レンガや茶色いレンガの綺麗な洋風の建物。
金色の文字で描かれた酒屋の看板。
雑貨屋の窓際に飾られた本物かと見間違うくらいの可憐な薔薇の造花。
ガラスのように透き通った橙の街灯がそれらを美しく彩っている。
思わず立ち止まりそうになったその時、ジェドさんが路地裏に入っていったのであわてて彼のあとを追った。
するとジェドさんはさらに奥へ進んでいき、小さな建物のドアの前でその歩みを止めた。
なんだろう、と思い。僕が話しかけようとしたその時。
ジェドさんがこちらに向き直って豪快な笑みを浮べた。
「はっはっはっはー!!!!!!!」
「ここが俺の家だ! ようこそ客人シロノ! 何もないがゆっくりしていってくれ。」
いまにも壊れそうな木製のドアと建物を見て顔がこわばる。
所々にヒビも入っていて、「廃屋か」と言いそうになってしまった。
……めちゃくちゃぼろくないか?地震きたら一発だぞ。
「あ、あははは……。」
「どうした? 早く入れ坊主。」
それでも野宿よりは多分、たぶん……いいので、ジェドさんの好意に甘えて入ることにした。
ゆっくりと僕はドアノブに手をかける。
「お、おじゃましまーす。」
ぎぃいぃいいいぃ
……その耳障りな音は僕の不安を掻き立てた。
テンポわるくて、すみません!