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Dead or Die  作者: 芳乃ユラ
1/7

生きるか死ぬか

 いつもと同じ朝を迎える。目覚ましが鳴る少し前だが伸びをして起き上がった。


「んー!」


 しかし、いつもと同じはずなのに違和感があった。記憶の欠落のようなもの。時間はある、最初から思い出してみよう。

 俺は桐島遊乃(きりしまゆうの)、弱冠17歳の高校2年生、親はゲーム会社の社長と秘書で二人とも海外出張中、同じ高校に通う一つ下の妹がいてそろそろ俺を起こしにくるはず、そして俺自身は自室にて自問自答中……と。


「うん、とくに忘れてることはないな」


 そう言って足をベッドから降ろした途端、突然声が聞こえてきた。


『何を言っている、一番大事なことを忘れているぞ』

「!?」


 女性の声だ。しかし辺りを見渡すが俺以外誰もいない。


『探しても無駄さ。私はお前の頭の中にいるからな』


 寝ぼけているのかと思い頬をつねってみる。とてつもなく痛かった。とにかく声の正体を探ってみよう。


「お前は……何者だ?」

『私か?私は、そうだな……妖精かな?』

「妖精?」

『そうだ。名前は、まあ、ありきたりにアリスとでも呼んでくれ』


 姿なきアリスと名乗る妖精(?)は続けて話しかけてきた。


『最初だからショックで忘れているようだな。ならもう一度教えてやろう、お前は近いうちに……死ぬ』

「……は?俺が、死ぬ?」


 訳が分からないやつに死を宣言された。理解するのが一瞬遅れてしまった。


『そうだ……いや少し違うか。お前はもう既に一回死んだ』


 ますます訳が分からない。こいつの言っていることが信用ならなくなってきた。


『お前は死というものにまとわりつかれている。そんなお前を、私は救いにきた』

「もはや絵空事だな。死んだというのならどうして俺はこうやって生きている?」

『私が生き返らせた』


 さらっと、こともなさげに、さも簡単なことだと言わんばかりに即答された。


『しかし、生き返らせると副作用として死んだその日の朝になるのだ』

「だから今は朝だと言いたいのか?」

『そういうことだ』


 非現実的だ、と、割りきるのは容易い。だがアリスという非現実的な存在が今俺の頭の中にいる。どこまで本当のことなのかはハッキリしないがアリスが害を加えることはなさそうだ。


「まあ、だいたいの事情は分かった。でもなんで俺を助ける? そっちになんかメリットがあるのか?」

『私は妖精だ。人間が困っているのなら助けるさ』

「そういうものなのか」

『ああ。飲み込みが早くて助かる』


 死から救うという妖精アリス。俺は不思議とすぐに慣れてしまった。

 とりあえず制服に着替えようとベッドから立ち上がった時、何の前触れもなく俺の部屋の扉が開いた。


「兄ちゃん、起っきろ~! ってあれ? もう起きてたの?」


妹の遊利(ゆり)が俺を起こしにきたのだ。そして相変わらず朝から元気だ。


「おう、今から着替えるところだ」

「そうなんだー。邪魔しちゃったね。じゃあ早く朝御飯食べよ!もうできてるから」

「ああ、分かった」


 急いで制服を着用、洗面所で顔を洗ってからリビングに行くと遊利が目玉焼きを頬張りながらテレビを見ていた。俺も一緒に朝食を摂りながら遊利に話しかけた。


「あれ? お前、陸上の朝練はどうした?」

「ん~? 今日は休みだよ。だから今日は帰ったら優子ちゃんを攻略するのだ!」


 元気いっぱいに片手を上げる。ちなみに優子ちゃんとはギャルゲのキャラである。遊利は相当なゲーマーで特にギャルゲが好きなのだ。多分、親の影響だと思う。


「部活、大変そうだな」

「私は帰宅部の兄ちゃんが羨ましいよ……」

「そんなことないぞ。俺は幼馴染みを送るという大事な使命があってだな……」


 というと、タイミング良く玄関の呼び鈴が鳴った。噂をすればだな。


「ほら兄ちゃん! 礼良さん来ちゃったよ。早く早く!」


 いつの間にか食べ終わった遊利が俺を囃し立てる。


「ちょっと待てって……」


 朝食を口の中に放り込み、咀嚼しながら遊利の後を追う。玄関を出ると幼馴染みの立原礼良(たちはるれいら)が俺を出迎えてくれた。


「おはよう遊乃くん」

「ああ、おはよう」


 礼良は中学校時代からの付き合いで隣に住んでいる。礼良は小さい時に親を亡くしていて今は叔母の仕送りで生計を立てている。一人暮らしだそうだ。


「おはようございます、礼良さん!」

「遊利ちゃんもおはよう。今日は部活ないんだ?」

「はい! 礼良さんと登校できるのって久し振りですね! 私、嬉しいです!」

「私も嬉しいよ」


 遊利の笑顔に微笑みで返す礼良。

 女性同士ということもあり、礼良と遊利はすごく仲が良い。歩きながら二人は談笑を続けている。


「……」


 ふと俺は考えてみた。さっきのアリスの話だ。アリスの話が本当に本当ならば礼良や遊利に伝えておくべきなのだろうか? しかし伝えたところで何が解決するわけでもないし、むしろ不安がらせてしまうだけだ。


「遊乃くん? どうしたの?」


 あまりしゃべらないでいたせいか礼良が俺の顔を覗きこんでいた。心配そうな表情だ。


「なんでもないよ」


 ごまかしてみるが礼良の顔は曇ったままだ。やはり言わないでおくべきだろう……。

 もうすぐ校門が見えてくる。校門の前では俺の悪友とも呼ぶべき人物が待っていた。


「おはよ礼良、遊乃! あと遊利ちゃんもおはよ」


 こいつは岡山龍馬(おかやまりゅうま)。こいつとの付き合いは礼良よりさらに長い、幼稚園の頃からの腐れ縁だ。早速俺と肩を組む。


「なんだよなんだよ。一人だけ美少女二人連れて俺に自慢か?」

「んなわけないだろバカ」


 冗談混じりの会話。龍馬のおかげで不安な気持ちが吹き飛んでいく。


 --------------------


 授業も前半終了し、昼休みが始まる。


「さーて、飯だ飯! 遊乃は昼飯どうすんだ?」


 早々と龍馬が俺に話しかけてきた。


「そうだな。とりあえず購買にでも行こうかな……」


 そう言って立ち上がると礼良が制止の声を上げた。


「あ、待って遊乃くん!」

「ん? どうした?」

「私ね、今日は遊乃くんのお弁当作ってきたんだ~。もちろん龍馬くんのもあるよ」

「マジで!?」


 金欠気味だったからありがたい。礼良はなんだか嬉しそうに鞄の中から弁当箱を取り出そうとした。しかしその動きが途中でピタリと止まる。


「どうした礼良?」


 礼良は目を丸くして鞄の中を見ていた。まるで存在するはずのないものがそこにあるかのように。礼良は俺がもう一度声を掛けてようやく気がついた。


「う、ううん!なんでもないよ……」


 笑ってごまかす礼良。鞄から出した手には弁当箱が握られていた。

 弁当箱を開けると旨そうなおかずがたくさん入っていた。おそらく俺たち三人で食べるためだろう。


「この玉子焼きうめえ!」


 龍馬は箸も使わず玉子焼きを一口に頬張る。よっぽど腹が減っていたんだろう。


「んもう、龍馬くんったら」


 礼良は呆れつつも龍馬に箸を渡す。次いで俺にも箸をくれた。


「いただきます」

「はいどうぞ」


 礼良がおかずを小皿によそってくれる。俺はそれを受け取り口に運んだ。


「うん。やっぱ礼良の料理は美味いな!」

「そ……そうかな? えへへ……」


 照れくさりながら自分も弁当をつつく。そして他愛もないような会話が続く中、ふと廊下から視線を感じた。


「ん?」


 見てみると生徒会長の千松里奈(ちまつりな)が俺をじっと睨みつけていた。一瞬だけ目が合うと何事もなかったかのようにどこかへ去ってしまった。


「余所見してるならその唐揚げもらった!」

「あ、おい、こら!」


 龍馬が俺の唐揚げを盗み食いする。千松会長のことは杞憂だろうと思いすぐに忘れてしまっていた。


 --------------------


 放課後になり校門まで礼良や龍馬と一緒に行く。


「俺だけ反対方向だからなあ」


 と、いつものように名残惜しく龍馬と別れる。俺は礼良と同じ帰路に着く。


「遊利ちゃんは待たなくていいの? 今日は部活、ないんでしょ?」

「ああ、遊利は先に帰ってゲームしてると思うよ」

「そう、なんだ……」


 礼良と二人だけで歩く道。人気が少ないこともあって会話が続かないと雰囲気が悪い。


「……」

「……」


 それでも足は動いているので自宅に到着することはできる。隣に住んでるとはいえ方向的に先に着くのは礼良だ。


「それじゃあ遊乃くん、また明日」

「おう、じゃあな!」


 礼良とも別れて少し歩いて俺の家にも着いた。


「……あれ?」


 だが先に帰っているはずの遊利がいないことが外からでも分かった。もう夕暮れだというのに部屋の明かりが点いていない。それに玄関の鍵も掛かったままだ。まだ遊利は帰っていないのだろうか?


「ったく、早く帰ってギャルゲするんじゃねえのかよ」


 文句を言っても仕方ない。自分で鍵を開けるしかない。俺は鍵を取り出すためにポケットに手を入れた。その時だった。


「!!?」


 突然背中に激痛が走った。何か刃物のようなもので突き刺されたような感覚。誰か後ろにいる。


「う……ぐっ!」


 その『誰か』は俺を振り向かせまいと玄関の扉に叩きつけるようにより深く刺し込んでいく。血が溢れて止まらない。早く、なんとかしないと……。だがどうすることもできない。ものすごい力で扉に押さえつけられて身動きが取れないでいるからだ。

 くそ……俺はここで、死ぬのか? そう考えた時、アリスの言葉を思い出した。


『お前は近いうちに……死ぬ』


アリスの言っていた通りだ。じゃあ俺がここで死んだらまた今日の朝になる、ということなのか?そんなことを思いながら俺はゆっくりと目を閉じた---。


 --------------------


「……」


 朝を感じさせる雀の鳴き声が聞こえてきた。やはりアリスの言っていたことは本当のことらしい。


『分かったかな? 私が助けなければお前はもうこの世にはいなかった』


 ここぞとばかりにアリスが喋りかけてきた。


「ああ、十分分かったよ。だが俺が死んだ原因は誰かが俺を殺したからだ。犯人は誰なんだ?」


『それは私にも分からない。自分で見つけ出すのだな』

「他人事だと思って……しかしいつどこで殺されるかは分かったんだ、回避するのは容易い、そうだろ?」

『言っただろう? お前は死にまとわりつかれている。一度や二度回避した程度ではこの死のループからは抜け出せない』

「じゃあどうすれば!」

『死を回避し続けろ。今はそうするしかない』


 愕然とする。あんな恐怖体験を何度も味わえというのか? 地獄以外の何物でもない。だがやらないわけにはいかない。俺はまだ、死にたくないから。

 そして同じ一日が始まる。


「兄ちゃん、起っきろ~! ってあれ? もう起きてたの?」


 やってやろうじゃないか。必ず犯人を見つけ出してこの死のループから抜け出す。

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