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アスカの過去

朝、一人で剣を振る。

フェリティアの剣筋を真似るように、幾度も振るう。

フェリティアだけではない。

僕が見た強者達を次々と真似て行く。

僕は一つの剣技で強くなどなれない。

だから、沢山の種類の型を振る。

そうすれば、いざという時に一つの技に捉われずに済む。

そして、最後に茜の剣技を真似る。

茜の剣は今でも覚えている。

僕も一緒に習っていたから。

刀があれば、僕はもう少し強くなれるのに。


練習を終えて、少し待つと皆が起きてくる。

僕の手はどれだけの血に汚れただろうか?

今までにこの汚れた手でどれだけの女に触れただろうか。

僕はいまだに、茜を大切に思っているようだ。

モブキャラの一人なのに、僕は茜にこの手で触れたくないと思っている。

もう、会うコトもないのに。


「おはよう、アスカ。」


「あぁ。おはよう、フェリティア。」


フェリティアはそれだけ言って、剣を振り始める。

美しいと思う。

凛と伸びた背筋、真剣な横顔、振るう度に揺れる金髪。

自然と目が惹かれる。


「おはようございます。アスカさん。」


次に起きて来たのは、イリスのようだ。


「おはよう、イリス。今日は朝の瞑想は終わったのかい?」


「いえ、これからするところです。」


イリスはそう言って、森の中に入っていく。


僕が殺した人の数はもう覚えていない。

僕の体がどれだけ血に塗れたかなんてもう覚えてやいない。

代わりに、どれだけの人を助けたかなんてコトも覚えていない。


「アスカ、何を考えているんですか?とても、悲しそうな顔をしていますが?」


僕の顔をいつの間にか見つめていたフェリティアが僕に話しかけてきた。


「なんでもないよ。」


「また、元の世界のコトを思い出していたのですか?」


「そうだね。あそこは地獄で天国だった。」


残酷な程に幸せだったが、残酷な程に僕を幸せにはしてくれなかった。


「私達では、元の世界の代わりにはなりませんか?」


「君達に代わりがいないように、あの世界にも代わりはないんだよ。」


フェリティアは、僕に口付けをする。


「茜さんの代わりも、いないんですね?ここまで尽くしても、貴方の一番は、いつも、茜さんですものね。」


僕はフェリティア達に茜のコトは話していないはずだ。


「貴方の寝言で、何度か聞きました。本当のコトを教えてくれますか?」


「ごめん。僕は言うつもりはないよ。」


僕は立ち上がり、森へと歩く。


「少し、外を見てくる。」


僕は勇者なのだから、僕の過去など、どうでもいいはずなのに。

いつまで僕は、過去に拘り続けるのだろう。


黒い物体が、脇芽も振らずに僕の元へと駆けてくる。

僕の体と交差する瞬間に僕の剣は道を作る。

道から血が溢れる。


「強くなったのは、何でなんだろうな。守るためだったはずなのに。僕はまた…。」


森の中から、一人の女が出てくる。


「アスカー!?何をしてるの?」


駆けてくる少女は僕の名を呼ぶ。


「エリカ、どうしたんだい?」


「フェリティアが、なんか気にしてたよ。」


そんなわかっている。

でも、僕には僕の心をコントロールできる程に僕は過去を捨てられていないのだ。

いつか僕は、過去を捨てられるのだろうか。

この世界を守るために。

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