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終末ロボ エルフガイン  作者: さからいようし
Re.エルフガイン:世界征服したと思ってたけどおれの勘違いだったのでリターンマッチします。
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6 健太、決断する

 それから、健太は一度だけエルフガインに乗った。

 軌道エレベーターの末端が地上に降りてくる記念すべき日。パプァニューギニア沖の人工島に、残存する全ヴァイパーマシンが勢揃いした(どこの国も新しいヴァイパーマシンを製造する必要性を感じず、資金もないので、「巨大ロボ」はロストテクノロジーになりかけていた)

 きわめて危険なので一般人の立ち会いは許可されず、上空には航空機侵入を阻む阻塞気球が浮かんでいた。

 健太たちの役目はなんの支えもなく空からぶら下がっているおもり……直径200メートルもある円錐形物体の末端を受けとめ、人工島の土台に据え付けることだった。

 エルフガインのパイロットは髙荷マリア以外新顔だ。礼子先生は赤ちゃんの世話で忙しく、みーにゃんも多忙だ。まこも大学受験に向けて勉学に励んでいる。


 VHSの磁気テープそっくりだが幅は5倍ほどある……それが軌道エレベーターの基幹ケーブルだ。そんなのが長さ10万㎞も連なり、36,000㎞上空の静止軌道上からおもりを付けてゆっくり降ろされてくるのだ。

 テープは超伝導コーティングされた珪素単分子繊維(モノフィラメント)であり、自然界のいかなるちからによっても切断することはできない。超伝導なのでレーザーも効かない。そんなのが三本ずつ寄り合わされ、二本のケーブルとなって、その末端に円錐形のアンカーがぶら下がっているのだ……。重量二万トン、ケーブルと〈スミカ〉を加えると12億トンになるそれが雲間から現れ、いっけん宙に浮いていて、ゆっくり降下し続けた。

 まさしく人類が成し遂げた最大の工学的奇跡だった。

 エルフガインたちがそのアンカーを受けとめ、取っ手を掴むと、居合わせたエンジニア数千人から歓声が上がった。

 健太たちは慎重に機体をコントロールして、アンカーを土台に据え付けた。

 「タッチダウン」

 『こちらも』コルトガインのマリーアも言った。

 『システムチェック……接続確認。ありがとうみなさん!最終固定作業に入ります。各ヴァイパーは後退をお願いします』

 エルフガインを後退させると、土台を固定するふたつの建造物がアンカーを挟み込むように移動した。この建造物は軌道エレベーターカプセルの発着駅でもある。全作業が終了するまで拍手は鳴り止まなかった。不安定なロケットの時代が終幕した瞬間だった。

 緊張の5時間が過ぎ……ロープの展張が安定して突風に煽られた凧みたいな動きが生じないと分かると、作業終了が告げられた。

 丸1日後には発着駅は人で溢れかえった。空に向かってまっすぐ伸びるロープという分かりやすいモニュメントのおかげで世界じゅうのマスコミが殺到していた。

 大勢に囲まれインタビューに答えているのは近衛実奈博士だ。

 「すでに人工重力が実用化されているのに、こんなものが必要なのでしょうか?」

 「慣性制御ミラーはものすごい電力が必要なんだよ。でも軌道往還カプセルはちょっとで済むの。登りに使う電力を下りで充電できるからね~」

 「永久機関ですね!」

 「違います(きっぱり)」

 「……これでこの南の島は経済的中心地となります。しかし日本国内には軌道エレベーターを沖縄か父島あたりに据えられなかったのか?という声が根強いのです、いかがお考えですか?」

 「力学的に赤道上に据えるのが妥当って、何度も言ってるでしょ!?もうちょっと予習してよね!」

 「あの……エレベーターが倒れることはないのですか?」

 「もし土台がもげたら〈スミカ〉ごと糸の切れたカイトみたいに飛んでっちゃうから、地上の被害はそんなに無いんじゃない?あ、でも仮にケーブルが落ちてても拾っちゃダメだよ。超合金でも簡単にスライスしちゃうから指なんかスッパリよ」


 健太は髙荷マリアと屋上展望台のカフェテリアに座ってその様子を眺めた。

 「みーにゃん急に背が伸びたな」

 「あいつ~、せっかく美人さんなのに髪がテキトーすぎ!黒縁眼鏡も野暮ったいし……あとでなんとかしなくちゃ。あのまま島本博士二世にさせとけない」

 「そんならもうすぐ土星探査に出かけちゃうらしいから、急がないと」

 「あんたもさ」マリアはあたりを見回して、言った。「まだマリーアといちゃついてんの?」

 「うェっ!?」健太はギョッとしてマリアを見た。「なななんのはなしだよ……」

 「しらばっくれんな。あんた日本に帰ってないから知らないだろうけどさ。あんたとマリーア、熱愛とか言われてるんだからね!」

 健太もマリーアが近くにいないか見回した。彼女はメイフラワー号に乗船すべく、アンカー据え付け作業終了後はドレスに着替えて、マスコミに自分を売り込んでいた。

 「マリーアには許嫁がいるんだ……」

 「知ってるよそのくらい!あんたあたしがマリーアと連絡取ってないとでもおもってんの?」

 「なんだ筒抜けなの……でもおれなんかそんなに注目されるわけないだろ?〈ゲーム〉終了後だって、マスコミなんかろくに来もしやしなかったのに」


 正直言って高校最後の一年間はあまり思いだしたくなかった。東京の慰霊祭に参加した際も、マスコミは健太に責任の一端があるみたいな論調だった。

 そうでなくても〈ゲーム〉の勝利者である健太に対する扱いは無遠慮かつ批判的……テレビ討論会で「被告席」にたたされ、一挙手一投足について妥当性を検討させられたのだ。未成年だからといった手加減は一切無く、故 浅倉澄佳の息子だからズタズタに引き裂いても構わないと言わんばかりに思えた。

 ひょっとしてだれも〈ゲーム〉に勝ったことを喜んでいないんじゃないか?そう疑問視せざるをえなかった。

 「バーカ!アメリカの騒ぎのあとどうなったか知らないのかよ。あんた超有名人なんだからね」

 「おれの母親に無理矢理生活変えられてみんな腹を立ててるだけだろ?それがアメリカでまたやらかしやがったって……」

 「もうそうでもないって!あんた無自覚もたいがいにしな!」

 「おいおまえまでエンペラーオブジアース蒸し返すとか言うなよな!?」

 「蒸し返して悪いか!地球の王様になってやりゃいいんだよ!べつにいいじゃんか。マスコミなんかほっとけ!」

 「そのくらいって……」

 健太は無言でかつてのクラスメイトを睨んだ。髪は短くなり、同世代の女の子らしく突然大人びイヤリングや♀のチョーカーを付け、スケバンルック時代より攻撃的になっていた。マリアも横目遣いで見返していた。

 健太は大きく息を吸って、溜息とともに言った。

 「わあったよ」

 「よし。それでどうする?」

 「日本に行く。どうせエルフガイン回送させるんだし、ついでだ」


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