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終末ロボ エルフガイン  作者: さからいようし
Re.エルフガイン:世界征服したと思ってたけどおれの勘違いだったのでリターンマッチします。
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4 健太、また逮捕される


 ニューヨークにはロボットが沢山いた。日本よりよほど普及が進んでいた。

 警官の代わりに市街に立ち、白いTシャツには鯨のマンガ絵と「世をはかなんで飛び降りる前にぼくと相談してください!」とプリントされていた。アポロンタイプに、国内生産型で変身機能を制限した簡易版のテスラタイプ、デュークタイプがいた。

 シャツの柄は鯨星人の件が欧米圏ではひどく深刻に受け取られていることを物語っていた。【スタートレック4】が現実に迫っていると信じ、自殺によって問題を解決してしまう人間があとを絶たないのだ。

 それならば【マトリックス】や【ターミネーター】だって念頭に置いてもよさそうだが、タンガロロボットは如才なくやって、社会に溶けこんでいる。


 地球を去る間際に母親が健太に告げた秘密……そのひとつを健太は公表できずにいる。


 ロボットたちはすでに、自我に目覚めていたのだ。


 アフリカでナンバーズのエネルギープローブに触れたあの日から、ロボットたちは目覚めていた。相手は整然とした数値の塊だったから解析は造作もなかった。

 だからロボットたちはもう、嘘をつく術を身につけている。人間に自我を備えたことを告げていないのだから明らかだろう。

 便利なお手伝いロボットはだれに知られることもなく、新たな知的種族に生まれ変わっていたのだ。人類より100倍も利口な新種族だ。

 母はそれを予期していた。

 そしてロボットを人類の味方につけるために取った方法……それは、比較的善良な人間の人格サンプルを徹底的に学ばせること……それを基にロボットが電子頭脳に良心回路を備えるよう……願ったのだ。

 ようするに賭だ。全人類の将来をチップにしたとんでもなく無謀な賭であった。

 礼子先生がいきなりエルフガインコマンドにスカウトされたのも不思議ではない。

 島本博士は近県住民全部のプロファイリングリストを持っていた。普通免許を持った比較的善良な人間ならだれでもよかった。

 博士はあのとき、御堂隊長と一緒にチームから抜けたヤークトヴァイパーパイロットの空シートを埋めるため、焦りまくっていたのだ。

 そしてパイロットのうち四人が女性だったのも理由がある……生物がもっとも古くから発達させた性善説的能力、母性本能を学ばせるためだった。


 母が賭に勝ったのか、ロボットは人類を守護する母親役となったのか、それは定かではない。

 人類の守護者とナンバーズを隔てるものがわずか五人のペルソナだけだと知ったら、世間はどう思うか……

 とても知らせる気にはなれない。



 ニューヨークには復活した異星人もいた。

 鯨星人とともに復活した陸生型異星人が、アメリカ人の熱烈な招待に応じていた。まだ幼生で歩行用ロボットの丸いカプセルに収まっていたが、頭はしっかりしている。その様子はかの有名な「キャプテン・フューチャー」のサイモン・ライト教授そのものだったので、彼らはサイモンと呼ばれていた。

 それで市長はサイモン教授をヤンキースタジアムや自由の女神に案内したり、空母イントレピットを指さして「アレハナニカ?」と問う異星人に冷や汗を掻いて説明したりした。

 その異星人が健太と面会したいと言いだし、ちょっとしたニュースになった。いやパニックになった、というべきか。

 それまでも異星人は騒動を巻き起こしていた。

 確かにアメリカ人の半分が異星人を歓待した。しかし残り半分は悲鳴を上げ、サバイバル装備完備で山に逃げたのだ。狂乱したのはおもにキリスト教徒だ。異星人はもれなく聖書地帯(バイブルベルト)に相反する存在だ。

 それに当然ながら、銃社会アメリカである。

 異星人を殺害しようというやからが現れた。それも異種嫌悪や敵愾心からだけではなく、「人権」がまだ法的に保証されていない異星人を殺害しても罪に問われない……あるいは注目を集めたい、という身勝手な動機で犯行に及んだ。

 それでまたもや大騒ぎと議論が巻き起こり……

 全米ライフル協会は例によって自由と自衛の必要性について居直った見解を開陳したが、今回ばかりは全世界的な非難を浴び、怒り狂った市民に叩き潰された。

 現在は国連平和維持軍とNYPDによる厳戒態勢の真っ最中だったのだ。


 結局、ささやかな挨拶程度の会合は、国連本部ビルでネットワーク中継されることになってしまった(トラブルに備えて配信は5秒遅れだが)。

 だれもが固唾を呑んで浅倉健太VSサイモン教授のなりゆきを注視した。じつに大勢の人間がうっかり発言ひとつで、人類が滅亡しかねないと本気で心配しているのだ。


 「アナタはイツ地球の皇帝にナルノカ?」

 

 その場に居合わせた見物人全員が喉に餅を詰まらせたような顔になった。


 「は?」

 「アナタは〈ゲーム〉の勝者でアロ?コノ混乱したセカイを導く義務ガアルノデハナイカ?ワレワレモソレを待ってイル。モウ少しダケ人間に協力シテ欲しいノダ。サスレバワレワレハ旅立つ。ソレ以上世話はカケマセン」

 「あの……ええと……あなたたちは、旅に出たいんですか?」

 「イーティーフォーンホーム」

 「ああ、なるほど!もちろん協力するよ!だけど具体的な話は専門家と相談しなくちゃ……」

 サイモン教授が機械ともなんとも言えない触手を二本、健太に差し伸べた。

 健太はそれを握った。

 およそ三分間、健太たちは無言まま、そうしていた。

 奇妙な握手を解くと、サイモン教授が言った。

 「マズはアナタガタガ宇宙に出ナケレバ。エルファイブをお急ぎナサイ。オ話はソレカラデス」

 「……了解ッス」


 それでお終いだった。


 

 (あっけなかったな)

 スタジオをあとにして控え室に向かいながら健太は思った。

 途中の通路の両側で健太を見送る人々が妙に改まった態度なのは、きっと拍子抜けか失望しているためだろう。

 まさか「エンペラーオブジアース」ネタまで飛び出すとは思わなかった。サイモン教授は冗談好きなのかな?

 廊下の向こうから血相を変えたマリーアが駆け寄ってくる。

 「健太!」

 「よう、おれヘンな映りじゃなかった?」

 「健太!」マリーアが健太の首に抱きついて言った。「すぐ助けが来るから慌てないで!」

 「へ?」


 マリーアの背後に警官大勢と背広姿数名が立ちはだかっていた。

 「アサクラ・ケンタ。治安擾乱罪によりきみを逮捕する!」

 FBIの指示でNYPDのおまわりが健太に手錠をかけ、例のミランダ憲章というやつを聞かせた。

 あなたには黙秘権がある。供述はあなたに不利な証拠として用いられることがある。あなたには弁護士を要求する権利がなんとかかんとか。

 (本物聞いたの初めてだな!)ちょっとだけ感動した。



 2時間後には留置場から解放され、警察署内で刑事たちと世間話していた。

 けっきょく逮捕はFBI内の政治的保守派による勇み足らしく、ただちに撤回され何度も謝られてしまった。

 「初めてじゃないんで、べつにいいですよ」

 「逮捕歴あるの?」向かいに座った女刑事が尋ねた。浅黒い痩せた美貌、ぴっちりしたジーンズと灰色のTシャツに、ちゃんとショルダーホルスターを巻いていた。おっぱいの自己主張が眩しすぎる。映画から飛び出したようなNYの女デカだった。

 「日本でですが」

 「なんの罪状で……」

 「エルフガインを操縦した罪で、政府から訴えられました」

 「そりゃひどいわね!」面白そうに言って健太の腕を撫でた。「我々が言うのもなんだけど」

 欧米に行っていちばんまごついたのがあからさまなセックスアピールだ。とにかくキスやハグは当たり前、出会うとすぐストレートかゲイか表明するし、「ねえちょっと、いいことしない?」みたいな態度も(性別にかかわらず)たびたび。このサインを真に受けすぎるとレイプ犯になってしまうので、冷や冷やものだ。

 女刑事も薄笑みを浮かべ、テーブルの下ではローファーを脱いだつま先で健太の脚を突っついていた。たぶんからかっているのだろう。

 「……まあ、誤認逮捕で起訴はされませんでしたけど」

 そのあとアメリカ人のおばさんに射殺されかけたが、言うのは控えた。

 それからあの短い中継のあいだに起こった世界的反響について説明された。


 詰まるところ異星人たちはまだ一度も、いかなる人類代表団とも交渉に応じていなかったのだ。合衆国大統領も国連事務総長も無視され、何人かの専門家と技術的やりとりを交わしただけなのであった。

 それなのに健太を指名してきた。(ホワイ?)

 異星人は想像以上に〈ゲーム〉の結果を真剣に受けとめているらしい(寝耳に水)。

 彼らは帰りたがっている(初耳)。

 ジャップの小僧が公的な権限もなく勝手な約束を交わしやがった!(絶許)

 これにより一部の市民のあいだで議論が沸騰した。それで治安当局の逆鱗を買ったようだ。


 目ざといタイムズの記者が警備の隙を縫って鉄格子のむこうにいる健太を激写した。その写真は電子版に貼られて世界じゅうに配信されてしまった。

 NYPDおよびNY市長が目下頭を抱えているのはそのことだ。

 「ぼくは怒ってないですから、そう言ってください」

 「いいや怒るべきだね!」

 その声に驚いて振りかえると、恰幅のいい背広姿の男性が額に汗して立っていた。

 「どなた?」

 「きみの弁護人だ!」固い握手を交わした。「ヘイデルマン&オニーグル法律事務所のケン・オニーグル。きみが浅倉健太くんだね?会えて嬉しいよ」

 女刑事がヒューと口笛を吹いた。

 「はあ……弁護士さんを頼んだ覚えないんすけど、マリーア・ストラディバリの差し金ですかね?」

 オニーグルは笑った。「わたしの事務所はきみの会社のアメリカにおける法的顧問を務めているのだよ。遅れて申し訳ない……しかし見たところ、勾留はされていないようだ」オニールは健太の肩越しに刑事たちを見据えた。

 「ぼくの軽はずみな言動で騒ぎが起こったらしいので……」

 「ウム……だが名誉毀損で訴えることはできるよ?」

 「え~、考えときます」

 「それじゃ帰ろうか!かまわないね刑事さん?」

 「ウィッス」

 オニーグル弁護士に伴われて市警察分署の玄関に出ると、通りは人で溢れかえっていた。

 健太の姿を認めると歓声が上がった。

 「このせいで遅れたんだ」オニーグルが言った。「きみ、まだ危険人物と目されているからパレードはほどほどにな」

 正確には警官とパトカーの背後に群衆が控え、手前の階段下にはマリーアと小湊夫妻、元CEO、そして異星人と、タンガロロボット12体がいた。


 このささやかな事件がきっかけとなり、各国政府が努めてシカトしていたL5独立構想が再燃した。アメリカではとくに盛んになった。元CEO、L5ソサイエティー理事長、タイソン博士ほか著名人から称賛メッセージが届いた。

 「きみは良くやった!みんなエルファイブ独立国について真剣に考えはじめてるぞ!ところできみは3分間無言でいたあいだ、サイモンとなにを話していたんだい?」

 「沈黙の3分間」についてもさまざまな憶測が飛んだ。おかげで健太はマスコミに追いかけ回され、程なく出国を余儀なくされた。

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