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大変お待たせしました。毎度詰め込み文章です。
失敗した失敗した失敗した。
何がっておま、実力テストだよ!
学校内を部活見学を名目に遊んでいた俺。かなり校内に詳しくなったとドヤ顔。
そんなこんなで日々過ごしていたら、いつの間にやら実力テストの結果が廊下に貼り出されていた。各学年用それぞれの掲示板には総合、各教科ごとに上位五十位の名が貼り出される。
ごくろーさんである。誰がって、そら先生だろ。
採点してパソコンに入力。データ化、集計までは当然として、わざわざそれなりの大きさの文字に編集してプリントアウト。大した作業じゃないことは確かだけど、地味に面倒くさいぜ?
それにだ、例外もいるけど案外教師連中ってパソコンスキルが低かったりするのも結構いる。
となると、押し付けられる哀れな先生っていそうじゃね? これに限らずなんかあったらアノ先生にやらせとけみたいな。
誰とは言わないけども! ホストだったりなんて言わないけども!
俺って優秀なデキル男だぜってドヤ顔して俺様してる分、褒め称えられて是非よろしくお願いしますとか持ち上げられちゃって断れねぇプースク展開なんてありがちとか、面と向かって言わない俺のマイルドな優しさッ。
まさに押し付けられて顔面引きつってるとこ目撃したなんて……そんな……。他の先生に俺様ホストが手玉に取られてたなんて俺の口からそんな事。ぷ。
なんて思いつつ見に行った。
なんか本当に相変わらず当たり前のように鷹成が隣に並んでついてくるし、反対側には羽柴までついてくるんだけど。注目度が無駄に上がってなんだかなーなんだけど。
こそこそ隣の平凡ダレーとか言ってる輩がまだいるんだが、お前情報遅すぎだろう。
情報は速さが命のこの世の中でお前のその姿勢は間違っている。どうせどこぞのお坊ちゃまお嬢ちゃまなのだろうが、さてはオトモダチいないだろう! 有用な取り巻きすらいないと見たっ。
そんなでいいのか、未来の重役だか経営者。迅速な情報入手に、瞬時に的確な判断をして指示が出来ない奴はダメだぞぅ。生き残っていけないぞぅ。
そもそも平凡とはなんぞや。
お前のご面相と中の人は俺を平凡と侮れるほど凄いのか。まあ未だに俺の事ダレーなんて言えるあたり知れてるけどな!
俺は平凡ではない。普通と言え。標準日本人健全高校生男子といいたまえ。普通は全人類の圧倒的多数を占める種族だ。多数派だ。与党だ。平均だ。
革命だってなんだって、平凡・普通な多数派の支持があってこそ成功するんだぜぃ。
てめぇらの企業がまともな利益を出して運営出来るのは普通人のおかげだろう。製品を作るのも、売るのも買うのも平凡だ、普通派種族だバカ野郎。
世の中循環させてんのは平凡だ。畏れ敬え舐めんなし。
そもそも平凡で何が悪い。平凡こそ至上。平々凡々人生こそ最上級の勝ち組ではなかろうかッ。反論は認めない。決定である。
ハイスペックな波乱万丈人生など焼却炉に捨てて燃えて灰になってしまえ。塵となって消えてしまえ。ペッだ、ペッ。
前世ザ・庶民のオバちゃん辞書が脳内で自己主張をしている。
平凡上等。平凡最高。平凡に勝るものなしっ。小市民で何が悪い。
ふと先日の時雨先輩とのやり取りを思い出す。
俺が鷹成の側近て。んなアホな。なんの冗談だ。
それこそハイリスク・ハイリターン人生である。
上手く立ち回れば見返りは確かに大きかろうが、なにそれ無理ゲー。デッドラインギリギリで踊れと言ってるようなもんじゃね?
大人になればさらに厳しく、嫌な意味で強くなるだろう周囲からの妬み嫉みを片端から蹴り落とし打ち勝てって?
冗談止めれ、わろえない。俺にはそんな能力ないんだよ。
向かうところ敵なし……な訳はないが(世の中上には上が必ずいるもんだ。
経験、年期の差も含めてな!)、完璧に近い男の側近て有り得ないだろ。
今は前世貯金の残高とヲノレの努力でなんとかなってるが、大学受験で尽きる筈だ。素はオール平均値なスペックな俺だ。ついてける筈ねぇだろう。
側近たり得るのはそんなゲタなど無い努力根性は当たり前の話で、それ以上に純粋に才能・能力のある連中だ。それこそアズモ会に参加しようなんて連中。その中で実践に耐えうる者、かつ信頼に足る者がどの位残るか分からないが、確実に俺より優秀だ。
信頼だけで鷹成の隣にいられるほど東雲財閥は甘くない。そんなものだけでいられるほどちっぽけな組織じゃない。
優秀であることが要求される側近連中の中で、生き馬の目を抜くように切磋琢磨し、時に出し抜き、蹴落とされるような事態を回避し反撃し……なんて芸当できるわけねーだろ。
地位が上であればあるほど責任は重い。
そんなストレス過多なハイレベルな暗黒バイオレンス人生は嫌だ。断固断る。ストレスで早死ねる。
人生お気楽能天気お花畑な平々凡々が一番である。
そんなことは百も承知だろうに、なにをトチ狂って俺に声をかけるのか。
“二十歳すぎれば只の人”
俺なんぞその典型例だと断言してやるが。ほんと、買い被ってやがる。
どのみち俺は俺のしたいことをして、行きたい進路に驀進してやるけどな。鷹成に付き合うのも高校まで。
この学校ブランドは俺にとってもプラスになるから許容範囲内だから付き合ってやるが、そのあとはサイナラ。
いくらなんでも大学まで同じは有り得ないから! ただの幼馴染な友達に戻りマース……って言ったら今は何だって話だな。
……。……。……。
うーん、将来は疎遠な幼馴染み。なんか違うな。いや、あながち間違ってない、か?
違う大学行けば今までみたいにそうそう会うことないよな。週末に強制お勉強会は無くなるし。
あったら怖いわ。
ともかく適切な言葉がさっぱり思い浮かばんな!
なんて思考があらぬ方向に逸れてしまうのは俺の仕様。仕方ない仕方ない。
ざわつく廊下を歩けば人だかりの前に到着した。
本日のメインイベント、掲示板である。
これほど掲示板がもてはやされるイベントは他にあるだろうか、いやない(反語)。
全校生徒(誇張)に熱い視線が注がれ、黄色い悲鳴を浴びる掲示板。晴れの舞台である。
ただし赤点追試の名前を見たやつは絶望と呪いの叫びを浴びせていたが。
掲示板の前の人だかりは、鷹成の姿を認識した途端ぱっかり左右に割れる。
モーゼか。お前ら海か。
うわもうこんなことになるなら一人で来れば良かった! なにこの注目度。道ができるって有り得ねぇだろ。
内心でうぇえええええと思いながら、仕方なく鷹成と並んで掲示板を眺める。
いやそこはお前が真ん中に立ってくれまいか。馬鹿みたいな注目の中、方向性の違うイケメンの真ん中ってどんな拷問だよ。
もうお前らユニット組んじまえよ。アイドルか。
なんだよ、そしたら俺は冴えない引き立て役リーダーのポジか。
まてまて、俺は平凡な脇役A。画面に映っちゃいけねぇぜ。見切りが限界。突破しちゃいかんのよ。俺は画面の外で踊る役。フレームに映り込むモブ役は他にいるはずだろう。
どうした乙女ゲー世界よ。キャストをきちんと正しく配置しとけや。
そもそも本来鷹成のそばにいてフレーム内に入る奴って、誰。
俺、本当に詳しく知らねぇんだよ元ゲーム。時雨先輩じゃ学年違うし、本編の時には卒業してるから除外。
羽柴が隣ってのは今の状況見るとなぁ。
この先親しい友人になれるかどうかは未知数で、絶対有り得ないとは言わないが。気を許せる友人同士になって欲しいとは思うけどさ。いずれ生徒会役員同士になるんだし、親しくなるに越したことはないんだが。
あとは誰がいるのかね。
心当たりとしてはアズモ会関連だろうか。いやむしろその関連の中で信頼できる奴を見つけといてくれよ、頼むぜ鷹成って感じではあるが。なるべく友好関係を結んでおいてくれと思うんだ。
どう考えたって将来有望と目されてる奴らを集めてるわけで。そんなの他からも一目瞭然で、会に入っているということ、イコール有望と認識してる奴は掃いて捨てるほどいるはずだ。
東雲家が目をつけた人物なら……と横から奪ってしまえという奴。自ら労力を割かず掠め取ろうという輩ほど胸糞の悪いものはない。
なんだかんだで俺は鷹成びいきだ。そんな事態にはなってほしくない。
多分鷹成自身わかっていることだろうとは思うのだが、俺様化している奴に一抹の不安が拭えない。
自分ハイスペックだから誰が下でも一緒とか、眼中にありませんとかいわんよな?
人は損得で動くけど、情だって花丸重要項目。時として理性的な損得勘定より衝動的感情で動いちゃうのが人間様よ。
わかってるよな? ないがしろにしちゃアッカーンのよ。
時雨先輩のあの態度もな、気になる。めっさ気になる。ひょっとして会の生徒と鷹成を円滑に繋ぐ役をやらせようと計画してたんじゃなかろうな!? ってな……。
なんか校内での誰も寄せ付けない鷹成の孤高ぶり見るとあながち間違って無さそうで嫌だっ。なんで高校生になってまで、んな世話!
若干恨めしい思いで隣で掲示板を眺める鷹成を見た。つまんなそうだ。どうせ主席だろうからな。
気を取り直してさて俺もと真っ先に赤点を見たら羽柴の名前はなかった。
なんで赤点から見るんだって?
いやそこはお約束だろう。第一本人からしてまず先にそちらを確認したんだからさ。
どんだけ自信ないんだよ。一応外部受験クリアして来たんだから普通は大丈夫なんじゃねーの?
「お前……」
「ちゃんと受験して合格したけどね!? だけどそれなりに寄付金上乗せしたわけよ。一応“羽柴”だし名前でって分もあるし、ゲタが!」
……おいマテ。こんだけの大注目の公衆の面前で裏口疑惑自分で言うなし。本気でどんだけ成績に自信ねぇんだよ! 鷹成に鼻で笑われてんぞ。
中学ん時どうだっけな、こいつ。
正直自分と眼鏡君で首位争いしてて、その下ってろくに気にしたことなかったんだよな。
だけどいつも上位に食い込んでたような記憶はあるぞ。第一テメぇ攻略対象で未来の生徒会役員だろうが。そんな奴が成績悪いってことはないだろうよ。
と、思って順位見れば総合五十位。
見事なギリギリ。
なんか隣で雄叫び上げやがった。良いのかそんなキャラで。
俺は総合二位の成績。
鷹成越えは絶対無理だってわかってたから俺としては一位の気分。学力特待生の中ではトップだし。幸先良いな!
こればかりは鷹成に感謝するしかない。確実に中学三年間の強制勉強会のお陰だからだ。
……もっともそれが無ければこの学校に入学する羽目になることは無かっただろうと思うと非常に微妙な気持ちになるが。
しかし結構点差開いてるのは悔しい。その天才肌をちょっと分けやがれ。
三位は俺とは十点差の男子、その次は女子か。優秀なんだろうなあ。
しかし周囲のざわめきがちょいと煩い。
なんとなく聞き耳を立てれば……俺か。俺のことか。二位の芦沢って誰だってね。まあ外部生ですし? 聞いたことないだろうし?
鷹成の幼馴染みが入学してきて最近一緒にいるって事は情報として流れている。あと顔も四六時中隣で校内闊歩してれば知れる。だけど正確な氏名は把握されていなかったとみえる。
その辺は地味で目立たない脇役体質のお陰かもしれない。ステルス機能は搭載されてなかった筈だが、根本的に存在が地味だからな!
情報に敏感な奴以外の関心の薄い一般的な奴は噂を耳に入れたとしても、詳しく調べることもなかっただろう。だけどこれでフルネームが知れ渡ることは確実だ。
だがそれだけにしては、やけに驚いているが何なんだ。可能性としてはベタな展開しか思いつかないが。
「なあ、鷹成。今まで上位の順位って変わったことなかったのか?」
「俺が覚えてる限りじゃ無いな。俺を含めて三位までは変動したことは無かった」
……なんか嫌な予感がする。
だがしかし男には確認せねばならん時もあるッ。
「もしかしてさぁ、三位の奴ってお前が入学してくるまで主席でしたよーとか、王子様呼ばわりされてたりするか? しかも中等部で副会長でしたとかっ」
「よくわかったな」
「ぱ、パーフェクトにドンピシャリだと…!?」
「ああ。直也に話したことなかったのによくわかったな」
あああああ! やっちまった感満載!
やべぇ、俺ヤバくね? テンプレな腹黒王子様とか言うんじゃねーの? 攻略対象だよな、多分。ひょっとして、ひょっとしなくてもプライドへし折っちまったんじゃなかろうか!? ぽっと出の脇役平凡に負かされたんだぜ。鷹成相手なら家柄能力共にパーフェクトマンで諦めついても、なんたって俺相手だからね?
顔バレする前に逃げるか。逃げるべきだな、さあ逃げよう! 今すぐ逃げよう、さあ行こう! 皆の者静かに密やかに速やかに一人分の隙間を開けるが良い。俺の逃走経路を今すぐよこせぇえええええっ。
鷹成と羽柴を置いて脱兎のごとく逃げました。
いやマジで間一髪だったらしい。
後から教室に戻ってきたクラスメイトが言っていた。
麗しの第三位サマは、それはスバラシイ笑顔で呟いたそうだ。
「……へぇ。二位は外部生の東雲の幼馴染なんだね。これは直接会うのが楽しみ…だね?」
次は叩き潰してあげるよとかなんとか副音声が聞こえたとか聞こえないとか。
初っ端から敵認定かよ。顔を合わせたこともないのに。
脇役のくせして目立ってすんませんでした! 手を抜けばよかったーって、そんな訳にいかねぇ。
細かい点数コントロールなんて、んなことド器用な事出来るかよ。俺は学力特待生で手抜きなんか出来ないんだよ。
察しろよ頼むから。
王子フェイスで寛容力見せようぜ。立場上全力でやるしかないんだから見逃せーっ。
いやもうターゲットロックオンは止めて。次は中間テストになるだろうが……前途多難。
四位の女子が気になりつつもテンションだだ下がり。
腹黒(仮)王子様がどんな奴なのか鷹成に聞いてみたが、さっぱり収穫なし。名前と簡単な容姿だけって、お前……。
仮にも一年生徒会で一緒だったやつだろう!? 性格も全然知らないってどんだけ興味無いんだよ。ダメだこいつ、本気でダメだ。
きっと女子の方はもっと知らんだろうと聞く気にもなれなくなって脱力した。
気疲れ半端ない俺だったが、そろそろ部活に仮入部の手続きに行かねばなるまい。
ちなみに羽柴はテニス部。
幼少のみぎりからやっていて、そこそこ上手いらしい。このセレブめ。キラッとエセ爽やかにプレイする姿が目に浮かんでうぜぇ。テンプレだテンプレだ。
ともあれ帰りのHR終了後、いよいよ弓道部に入るべく入部届けを手に立ち上がった。
行く先は武道場。あれから二度ほどお邪魔したがやはり入ることにした。
先輩も入部予定の新入生も平凡仲間だったこの部はオアシス。
和むんだよ、ほんとに。
女子部の方も普通な感じでまじ癒し系部。他の運動部みたいに熱血な血潮な暑苦しさはないし、平和でイイ。平和ってイイ! 突出した美形だのカリスマいないと平和だよな。落ち着くよな。家柄ってやつもそこそこって感じだし、平凡最高だぜ。
なんて呑気に構えて鼻歌交じりに武道場へ行ったらば、すっかり存在忘れていたセンパイ約一名様とばったり玄関口にて遭遇してしまった。
しまった。時雨先輩と遭遇した時点で気づいておくべきだった。
目の前の黒髪短髪キリリ仁王立つ男は東雲家護衛軍団隊長のご子息様。いずれは父親の跡を継いで隊長になるお人であると同時に、なんつーか、俺の兄弟子みたいなもんで……。
「芦沢、柔道部入りに」
「全く全然からっきし違います」
言 わ せ ね え よ。
速攻で断ったった。顔が引きつってたけど気にしない。気にしないのが俺クオリティ。
「……そうだな、その前にご挨拶が先だよなぁ。時雨には会ったって言うが、可愛がってやってる兄弟子様には何の音沙汰も無かったよなぁ、お前は」
「サーセンでした! 先輩が先輩で存在するっての部活見学ツアーに熱中してキレイさっぱり完璧に忘れてましたー!」
遥か銀河の彼方くらいどっか遠くに。
「意味不明なこと言ってんじゃねぇッ」
「イデデデデデっ。ギブっギブっ!」
頭鷲掴みにされてギリギリと。潰れるから、砕けるから! 握力無駄にあるんだから止めろくださいっ。
ちなみに先輩がこの学校に在籍していて、俺が入学することによって文字通り「俺の学校の先輩」としているってことを忘れてたって意味であったのだが。
「ということで、二年間よろしくお願いします。柔道部なんて男祭りなむさ苦しそうな部には入りません。以上」
「バカ正直に言いやがったなこの野郎。まぁ期待してなかったけどな。お前別に強くねーし、無理やり入れるメリットねーし。年齢相応の標準だからな」
やっと頭ギリギリ攻撃を止めたかと思えば酷い言い草である。
ああそうだよ。俺は平均値だよ! あんたの親父さんに「護衛軍団入っても万年平隊員」と言われた男さ。ほっとけ。
ついでに身長・体重もスポーツテストも平均値っておまけ付きだよ、モッテケドロボーッ。
「そりゃどうも。ところで先輩、鷹成の護衛に行かなくていいんですか」
「は? お前聞いてないのか。学内では特別指示が無ければ自由だぞ」
鷹成周辺で全然見なかったから余計存在を忘れてたんだが。
外では実務につくことは未だ学生であるから稀だ。しかし学内で傍にいることが出来るのは同じ学生だけなわけだから、てっきり護衛任務を任されてるんだと思っていたが違ったらしい。
「あれ、そうなんですか」
「そりゃお前、学生なんだから学業優先だろ。俺はまだ警備部に就職してねぇよ。第一んなこと言ってたら、学内護衛だらけになるぞ。考えても見ろ。この学園はどこぞの御曹司だのご令嬢だのゴロゴロしてんだぞ。セキュリティ万全に決まってんだろ。それがあるからここに通わせたい家も多いんだからな」
ちなみに教師、職員は例えどこの家に属していたとしても、学園に所属した時点で公平の立場を取ることになっている。例外は認められていない。そういう雇用契約だそうだ。
余談だが護衛軍団は正確には東雲総合警備保障って会社の東雲家警備部って部署にあたり、先輩の父上は部長と呼ぶのが正しい。しかし護衛は幾つかの隊に分けてやっているわけで、その任務中は隊長と呼んでいるだけの話である。
「あー、学園の出入りも門番いますもんね。そういえば」
登下校で礼儀として挨拶はするが、正直あまり意識してなかった。でも必ず最低表に二人はいるし、いつでも動ける態勢にはなってたな。
誘拐その他の危険性があるような家柄の生徒は車での送迎になるが、それ用の門も生徒が乗り降りしたり待機する場所というのがあって、そこもしっかりと警備員が配置されていた。もちろん監視カメラも学内いたるところにある。確認はしていないが警備員は結構な数が雇われているそーな。その他もろもろ考えると学費以外の費用も色々高いのは納得だ。
……そういえば最初、鷹成を門まで送り届ける護衛もどきをしたが、必要なかったじゃないかと今頃気がついた。あほくさー!
「で、結局どこの部活に入るんだ? ここに来たってことは武道系なんだろうが」
「弓道部です。ちょっとやってみたかったんですよ」
平凡率が高いのも重要なポイントです。……なんてことは言わないが。
「じゃあ時雨はフラレたわけか。それともアズモ会と兼部するのか」
「あそこに入るわけないじゃないですか。激しく無意味でしょ。俺にとって」
「お前らしいがな。相変わらず鷹成様閥に取り込まれるつもりはないか」
さすが兄弟子。鷹成周辺で一番俺と付き合いがあるだけあってわかってるー。
以前、最悪就職先無ければ護衛軍団入れてもらうかなーという軽口をたたいた時も一緒にいたし。実際には欠片もンなこと考えてないってお見通し。
鷹成の将来の核となる布陣を考えるに、俺という超庶民はイレギュラーすぎる。
そりゃあね、組織全体から考えたらたかが幼馴染みって人間でも、ピラミッドの末端であれば十分駒としてありうる。だけど中枢となると話はがらりと変わってくる。
東雲は古くからある家柄であり企業体だ。財閥と呼ばれるほどの。
となると、それこそ分家やそこから更に枝分かれしていった血統、それとは別に古くから従う家というというものもあるし、現在側近・重役となっている者の子息なんてものもあるわけで、幼い頃から教育され身元がはっきりとしたサラブレッドがわらわらといるわけだ。
そんだけいれば年齢も含め、能力・信用・人柄・相性等、条件を満たす者が居ないはずがない。選り取りみどりだ。側近足り得るものを見つけ出すのが現在学生である鷹成の第一の仕事であり課題とも言えるんじゃないかと推測している。
だからこそのアズモ会だ。
今回学内で同好会として作ったと言っていたが、実際にはその範囲は学外にも及び、さらに年齢も高校生枠だけでは無いとみる。鷹成の年齢を中心とし上下を選抜していると思う。
つまり、外部からわざわざ見繕わなくても人材は捨てるほどある。故にはっきり言って俺なんぞお呼びではない。
もちろん彼らは大きな括りの「身内」だけに固執する訳じゃない。本物の優秀な人材であれば部外者だろうと取り込みに動くのは当然のことだが、凡人である俺には関係のない話である。
「まあ進路はまだ決めてないから絶対とは言わないですが。ただ今のところ友人やってることはあっても、人生丸ごと突っ込む気は全然ないですよ。むしろアズモ会なんぞに顔出したらお邪魔虫だと思います」
「時雨はそうは思っていない。諦めないんじゃないか?」
「それでも断りますよ。それに鷹成からも特に何も言われてないんで」
鷹成が何と言おうが断るけどなー。
実際、幼少時から振り返っても側近だの将来だのといった話をされたことは無い。と思う。……無いよな? 記憶にないからない。うむ。無いったら無い。もちろん親父さんからも無い。
唯一あったのはアレだ。高校は同じところにってアレだけ。
あくまで幼友達であって、将来の仕事上の人間関係とは別と思ってる筈だ。考慮にすら入ってないと見る。
だから騒いでるのは妙な気を利かせる勘違いした周辺ばかり。もう東雲家にははっきり否定して欲しいんだが。特に時雨先輩とか時雨先輩とかアズモ会とか。
「……ふーん。俺としては鷹成様のお側にお前がいてくれると助かるんだがな」
「護衛的にでしょ」
「当然。適当に第七秘書とか第十秘書なりになっていてくれれば、護衛が傍に付けない時も必要最低限の守りになるからな。お前って両面使えて案外いい駒なんだぞ」
「なんかえらく酷いこと言われた気がする!」
「貶してはないぞ」
さり気に第十秘書とか言っちゃうあたり十分ケナサレテルッ。第十なんてあんの!?
庶民な俺には判断つかないんだけど。でも秘書室所属とか言ったらありなのか?ローテーション・シフト的な。美人女性秘書しか思い浮かばないんだけど。挙句パシリ認定としか思えないんだけど。さっぱりわかんねー!
じゃなくて。俺ってば完璧装甲薄い使い捨ての人間の盾扱いと違うか。
「便利屋認定じゃないすか! うっわ、ひでー。鬼っ、悪魔っ、人非人! 傷ついた俺は先輩を罵倒して泣きながら駆け去ってやるんだからね!」
「おー。罵倒を浴びて傷ついた俺は後輩に復讐の念を抱きながら訓練来たとき扱いてやると決意したからなー」
「若ハゲろ!」
あ、やべ。マジで歯ぁむいて般若顔になった。やっぱ気にしてたか。親父さん髪薄くて、かなり前から植毛してたからなー。
ばははーいと言いながら、とっとと二階に退散した。
ここでポインツ。決してデカイ音を立てて駆け上がってはいけません。弓道場にいる先輩らに叱られるからな。
そんなこんなで無事に弓道部に入部。
見当違いなアズモ会関連はとにかく断固拒否で逃げるとして、後は社会勉強という名のバイト及びボランティア探しだな。
それが終われば暫く安定したサイクルで日常が送れるだろう。三学年時に一個下に転入生としてヒロインがログインしてくるまで。
……そのはずだ。そのはず……。なんか背筋が寒くなったのはどういうことか。考えちゃダメだということでスルーした。
蛇足的なその夜。
鷹成の家でゲームをしていた。普段は奴の無駄に広い私室なのだが、今晩はその母上に誘われて居間で三人でお茶したわけで。その流れで母上さま観戦の下、そのままチェス対決。なんでやねん。
何故チェスなんてお貴族様なゲームやってんのかというと、母上様が素敵アンティークのチェス盤と駒を衝動買いしたからだ。
お値段なんか考えちゃいけねぇぜ。この豪邸でんなもん気にしてたら息できん。それを使用してプレイしてるのが見たいと。
自分やらんのに買わんでくださいよ! 飾って眺め愛でるとか、旦那に教えて貰いながらいちゃついてリア充爆発すればいいんじゃないですかね!! 今だにラブラブカップルって知ってんだけど。時々鷹成が毒吐いてんだけど。
幼少のみぎりから鷹成と付き合いがあるわけだが、ゲーム=チェスという図式が成り立っているわけではない。囲碁将棋にポーカー等カードゲーム、ビリヤードも強制的に教えられ相手してきたが、普通にコンシューマーゲームもやる。
少年らしく携帯用ゲーム機で狩りに行ったり、俺より強い奴に会いに行ったり、未知の領域に冒険しに行ったり、モンスターゲットだぜしたりもするんだぜ。
アナログなゲームでは鷹成に負けるが、デジタルでは負けぬ!というか互角。いや単に、鷹成があまりコンシューマーゲームに興味が無く、俺はやり込んでるってだけの話で、そのお陰で互角っていう。とにかく今時の少年らしくゲームやるべしと引っ張り込んだんだよ。
傘下にゲームソフト製作会社もあるんだから、そこのヒットゲームくらいやれっての。サンプル送られてきたりするんだし、それもまた勉強だろーとかなんとか適当に納得させたりなんかして。
それに特に小学の時はみんなで遊ぶっていうと、集まってゲームすんのが定番だし。浮きがちな鷹成には溶け込ますのに必要なことでもあったからな。
……本当になんで俺んなこと一々考えてたんだろうな。なんなの俺、保護者かよ!
ちょっと黄昏てたらチェックメイトされてやがるよ、俺。ちなみに俺の勝率二割。ゼロじゃないだけマシってか。やっぱ慣れねぇよなあ、チェスってなぁ。別に出来なくても全然全く困らねーけど。なんでもいいけど狩り行きてぇ。
ドヤ顔の鷹成にため息ついて、ソファーにどっかり身を預けると、居間の扉が開いた。
ご当主様のご帰宅である。
本当に親子そっくりで、間違っても他人ですなんて言えない男前な顔。鷹成の未来予測なんぞするまでもなく目の前にどうぞ!という感じ。
おかえりなさいの挨拶に、ご当主様は応えながらさっさと奥様の隣に座ると頬にちゅーである。息子とその友人が目の前にいてもちゅーである。鷹成と共に生暖かい目で見てしまっても仕方ないと思うんだな、俺は。
何故かそのままソファーに座り、ご家族ご歓談な中に入れられてしまう俺。いやいや俺は異分子でしょう、帰ってイイデスカ。と申したい。それが無理なら、扉付付近に控えている秘書さんの所に行ってもいいですかね。
あ、ダメなんすか。団欒に強制参加なんですか。思わず助けを求めて秘書さん見たらにっこり拒否られた。なんでやねんて言っていいか。
高校はどうだという話から部活見学の話になり、日本文化研究部が(部員の)趣味に走ってて面白かったなんて話をした。
いやもう金持ちってすげーなと思ったよ。年に何度か歌舞伎座まで行って一等席で観劇だわ、その他能に狂言、浄瑠璃だの頻繁に見に行くし、雅楽一日体験だの色々……。衣装について云々とか、舞台装置とかの勉強も以外と真面目にやっててさ。色々すげーよ。ついていけねーけど。
俺自身は弓道部に入った話をした。運動部に入ってるってのは結構進学・就職に有利な面がある。体育会系の縦社会が身に付いてると思われんのかね? それとも根性ありそうだぜとか。しらんけど。
「直也君は進学はどうするんだい?」
「今はまだ決めかねてます。将来の目標が定まってないんで」
本当に悩むところだ。単純なところでは一部上場企業の営業ってのは花形だと思う。性格的に営業問題ないと思うし。
ただ思うのは前世の記憶。様々な災害や事件事故、経済危機に外交上の問題などがあった。災害で言えば東日本大震災に原発事故。経済であればリーマンショックに工場などの海外移転に技術流出だろうか。
この世界でもチェルノブイリ原発事故があり、阪神淡路大震災はあった。
何故なら前世でこのゲームが発売されたのがそれ以降であったから。正確な発売年度は覚えていないが、それ以降だってことは確かで開発年度以前の歴史はほぼ同じ。しかしそれ以後は違っている。
その上、災害も事件事故も日本も海外も被害は記憶より小さいようなのだ。また地球温暖化とか化石資源についても、前世に比べて非常に緩やか。難病に対しても新薬開発が遥かに進んでいるようなのだ。
実に優しく希望が持てる世界だと思う。
そうなると別の事がしたくなってくる。
例えば地震予知もより正確なものが頑張れば出来るようになるのではないか。
原発の使用済み燃料は半永久的に冷やさなくてはならないが、必死になって研究すれば無力化出来るようになるのではないか。より良い再生可能エネルギー開発が出来るのではないか。
現在は西暦ではない。世歴2013年。東日本大震災は無かった。だからといって、この先絶対に起きないという保証はどこにも無い。
だから考えてしまう。俺は何が出来るだろうと。ほんの少しでも日本の為に何か出来ないかと。
だから必死に勉強してきた。どの分野を選んでも、選ばなくてもいいように。
なんて、真面目な事を考えることもあるのだが、果たして俺がじっと研究なんぞ出来るのか!?という問題と、そもそもんな研究が出来るほどのドタマを持ってんのか?ってね。
ほらほら、忘れちゃいけねぇ。俺は基本平凡平均値スペック。さっき言ったような事が出来りゃノーベル賞もんだろ? ハッ、そんな斬新革新的なキラメキ頭脳なんぞ有る訳ねーッ! それにじっと研究なんてこと、向いてるとはイマイチ思えないしな。
じゃあ日本社会、経済の為に俺が出来ることはないだろうか。
今から頑張って外交官になって、ほんの僅かでも諸外国を相手に日本に有利な駆け引きをする一助になれないだろうかとか。
ま、正直鷹成の側にいる以上にハイリスクな場所だけどな。
一方で国内経済や政治、雇用を考えると鷹成に近いほうがいいのかとも思う。
ほれ、実質資本主義国家において国を動かしてんのは企業の意志じゃん。だからさ。
工場の海外移転とかグローバルに利益を追求するのは仕方ないんだが、根本は日本なわけで。足元を、土台をないがしろにしたら全てが崩れちまうってこと忘れてないか。日本の国力が高く安定しなければ成り立たないってこと忘れてないか。
なんてこと言ったって、具体的にどうすればなんて上手いこといくのかなんて、思い浮かばないのが情けない。俺が出来ることといえば、将来日本経済を左右する鷹成にそういうことをそれとなく忠告することだけだ。
力のない俺ごときの影響力なんぞゴミのようだとか思うけど、何もしないで後悔するより絶対いい。やらない後悔をするよりは、やって落胆する方がマシってもんだ。
側近なんてポジションは不相応だ。身に余る。だから友人同士の雑談としてそれとなく紛れ込ませるのが精一杯じゃなかろうか。
ちなみに鷹成の親父さんにも無邪気なフリでそんなことをいったこともある。面白がってたな。
ついでだし、丁度いいから例のバイトの事頼んでみようかと思い至った。
年がら年中忙しいこの親父さんに日を改めて話をするなんてのは時間の無駄。主に親父さんにとって。
「それでですね、色々職業体験してみたくて。NPO関連は調べてて福祉スポーツ関係はそっちのボランティアとかやってみるつもりでいるんですけど、それだけだと偏るんで。東雲系列なら業種も多岐にわたると思うので幾つかバイトとか紹介してもらえませんか。もちろんご迷惑でないならですけど」
当然といえば当然だが、NPO法人は福祉関連多かったな。国際ボランティアのNPOがちょっと気になったが、本当に色々あった。ネット万歳。
「なるほど考えたね。直也君らしい。……そうだな、それなら一つ条件をつけよう」
俺のお願いにちょっと考えてからチラリと秘書さんの方を見ると面白そうに笑った。
「なんですか?」
「学校からバイト許可申請するのは当然として、職場体験のレポートを提出すること」
学校へはこちらからも許可してもらえるように話を通しておこうと言われて助かった。レポートはちょっと面倒だが仕方ないか。
感想文程度のものだろうなんて呑気に考えたのだが、そうは簡単な話じゃなかった。
「君から見ての美点とか特徴と、逆に問題点、改善点を必ず書く事」
「え!」
捻りがあったー!!
「些細な事でも構わない」
素人の高校生にナニ言ってくれるかな!? ……いやいやいや、早まっちゃいけねぇぜ俺。自意識過剰ダメ絶対。
俺っち高校生だから子供らしいちょっとした感想をってことだよな。マジで業務改善とか高度な事求めてるわけないじゃーん。あっはっは。脅かさないで欲しいぜっと!
「漫然と業務をこなすより、そういった課題があった方がより学べるだろう? 実際に働いてみれば色々見えてくる所もあるだろうし社員になったつもりでレポートしてみてくれ」
はーどるぅぅぅぅ!?
ちょっと待てや。本気で毎回気が抜けねぇよ。な、なんという課題を出してくださるのかッ。
「父さん、俺の方は今後何をすればいい」
内心ムンクの叫びをやっていたら、黙って聞いていた鷹成が口を開いた。
ん? どういう意味だその質問。
鷹成は現在まで後継者たるべく様々な教育を受けてきている。それは継続中で変わらないわけで、俺のバイトの話に割り込む話じゃないと思うんだが如何に。
「お前は暫くしたらそれぞれの会社を順にまわってもらうことになるな。実務を学べ。第三秘書を付ける」
「……直也と一緒じゃないのか」
おいおいおい、鷹成にしては随分阿呆な事を言う。
根本的に立場が違うだろうが。経営者としての実地訓練の場と、俺のような下っ端バイトの場を一緒にするな。同じ職場ってのは有り得ない。
「そもそも土俵が違う。言われなくても分かっているだろう」
鷹成は肩をすくめて横を向き、何も言わなかった。さらに言い募ることも無くあっさり引き下がったあたり、理解しててもつい言ってしまったという事か。
そんな様子にクスリと笑うと再び親父さんは俺の方を向いた。
「直也君についても具体的な指示は第三を窓口にしよう。レポートもそちらに渡しなさい」
「わかりました。ありがとうございますっ」
顔で笑って思わぬ課題に心で涙してー!!
親父さんの指示で第一秘書さんに携帯のメアドと番号を渡したとも。第三の人の手にワタルのねっ。
本当、どうしてこうなった!!
頭を抱えつつ宿題をやりに鷹成の部屋へ退散したわけで。それも早々に片付けて家庭用携帯ゲーム機で狩りを始めたわけだが。
いや本当言うとこっちが本命だったんだけどな。思わぬところで時間食っちまった。
ソファーに対面で座り、ローテーブル挟んで頭突き合わせて前のめりで共闘。まったり肉を焼くのも好きだぜ。イェア。
ちょっとばかりゲーム内で休憩してる時、アズモ会のことを鷹成に言ってみた。
「時雨先輩が入れって言ってきて困んだけど」
「ああ、あれか。参加する気無いんだな?」
「ねーよ。俺に何のメリットあるんだよ」
なぁーんにもありません。この間遭遇した奴には敵視されてるし、どう考えても面倒事しか感じない。
「無いことも無いと思うが、その気が無いなら放っておいていい」
「いやそうじゃなくて、お前から断ってくれっての! 俺が言ったんじゃ聞いてくれないんだよ、あの人」
「一応言っておくが、どうだろうな。案外石頭だから諦めるまで頑張れ」
「頑張れじゃねぇよ! マジでどうにかしろよっ。お前の管轄だろうが!」
てめぇのキャラクター攻撃したろか出来ねぇけど(システム的に)。剣を振ってやる。練習ついでに片っ端から武器アクションしてやんよ。鷹成のキャラは呑気に肉焼いてるけどな。
リアルじゃテーブルが間にあるから足の脛を蹴っ飛ばすことことも出来ねぇし。残念無念。
周囲でぐるぐる武器をぶん回してたら、流石に鬱陶しくなったらしい。鷹成キャラまでアクション始めた。主にガードだのステップだの防御系。なんでだ。苦手か、苦手なのか。
「仕方ない。俺がきちんと話をしておこう。貸一つだな」
「うぉい! なんでだ。オカシイだろ。お前んちの事情に俺は関係ないのに巻き込まれてんだから貸しはねーだろ!」
「じゃあ放置だな」
「ぐおおおおっ、卑怯者! わかったよっ。とっとと返すか、逆に貸し付け一つ押し付けてやるっ」
「ふん、返すのはゆっくりでいい。効果的なタイミングで返してもらうからな」
「!!」
ニヤリと笑った鷹成にぞぞぞと背筋が凍りついた。
え、マジかよ。もろ本気顔してんだけど。ど、お、俺、何要求されんだ!? ウェェェェェ。怖ぇ。うわもう直ぐさま返品したい。鬱陶しくても自力で時雨先輩を説得したほうが良くね?
「な、なあ鷹成、やっぱ俺……」
「安心しろ。責任もって納得させてやる」
……返品不可だそうです。
失敗した失敗した失敗した! デスフラグを掴んだ気がしてならない。
俺の明日はどっちだ!?
墓穴を掘った脇役A。バイト紹介をお願いし了承された時点で時雨先輩勧誘問題は解決されている。だから何もしなくても、鷹成父から先輩へその情報が降りてきたら勧誘は終了だった。わざわざアズモ会に引き入れなくても側近候補教育のど真ん中な懐に飛び込んじゃった状態なので。それに気づかず鷹成に借りを作ってしまった脇役A。残念!!
本作はびーえるではありません。念のため!!




