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平凡な脇役Aは画面の片隅で躍る【高校編】  作者: 月葉しん


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 とりあえず部活見学行ってみた。

 最初は興味のあるところのみと思っていたが考え直した。


 どうせなら 片っ端から 行ってやれ。


 外へ出てグラウンド周辺をまわる。野球部とかサッカー部なんぞは花形で、絶対入ることはないからいいかとスルー。

 ……と思ったら野球部無かった。その代わりクリケット部があった。

初っ端から目が点。ま、マイナー。しかもよく見たらおっさん教師が何人か混じってねぇ? 頭髪薄いZE、んー?? 

 とりあえず行って見ようと近づいて、マネージャーっぽい先輩に声をかけてみた。


「なんか先生混じってるように見えるんすけど、指導……してるんすか?」

「んーんー、違うのよ。先生も特別枠で部員なの。毎回じゃないけど、時間のある時に一緒に練習してるわ。まあ試合には出られないけどね」


 部員。いいんだ。許可なんだ……。

ついでに言うとテストの採点はいいんだろうか。採点なんてちょちょいのちょーいの神業なんですかそうですか。


「一応外で社会人のチームに入ってるそうだけど、中々練習できないからって話よ」

「……熱心なんすね」

「……そうね」


 一番身体能力の高い時期の男子高校生に混じってよくやるなあ。なんかすんごく楽しそうなんだけど。

 なんとなくそのまま一通りルール聞いて退散。

 なんでクリケット。野球じゃなくて紳士な国のクリケット。謎である。


 次に遠目で見たのはテニス部。

やけにギャラリーがいる。女子が群がってる上に、視線の先が何故かフェンス内側のコートじゃなくて外。

嫌な予感がして目を凝らして見ると、羽柴だ。歪みねぇなあいつ。

 うん。回れ右だ、俺。厄介事、駄目、絶対。テニス部入る気全くないから問題ない問題ない。

やりたければ鷹成誘ってあいつんちのコートで打ち合いすればいいだけだし。

なんかテニスも嗜みの一つらしいぜ? さり気に俺はバトミントンの方が好きだけど。あの空気切り裂くようなスピード感がたまんねぇんだけど。ずびしって決まった瞬間が気持ちよくね?

 というわけで、さらば羽柴。さらばチャラ男。


 興味がある所と言うと自転車部だが、部活としてやるほどの情熱は皆無である。ホビーでいいんだ、週末ホビーで。ド根性やる気はない。

んが、見学はしたいわけで、ついつい練習場に行ってしまった。ちょっと歩くが興味津々。

 自転車部があるってだけでも珍しいが、ロードレースを主体にしているのもまた珍しい。トラックの方が多分多いんじゃないかな。わからんけど。ああ、主体ってだけでトラック・レースの方もやってるってよ。

 最近はロードレースな漫画が流行ったお蔭で説明しなくて済むのがイイ。

記録、表彰は個人だけど実態はチーム競技なんだZEとかね。駆け引きがまた面白くてなー! それからマラソン競技とか見ても「おお!風の抵抗を考えて後ろに張り付いてるんですネ。ワカリマス」とか言いつつ楽しくなったという余談。

 さて練習場に行ってみると流石金持ち学校。色んなメーカーの自転車が並んでるー! うはうはしちゃうぜ。選り取りみどりでガン見。サイクルモード行きてぇ。

 俺も新しい自転車欲しい。このところ身長も伸びてきてサイズが合わなくなってきてさ。イタリア老舗ブランドのもいいし、アメリカの某ブランドも気になる。ロードにするか、シクロ用もいいかもしんないとか思ってんだけどね。カタログ見てうはうはしてんだけど、まずバイトしないとなー……。

 にやにやして見てたらマネージャーに見つかった。


「あ! 君、自転車少年だろ? 入部希望!?」


 ……自転車少年て。まてや、なんでわかるんだ。いや確かに去年日本一周やったときに地方TVとか新聞に載ったけどよ。ちらっと、ちょこっとだったよな?


「顧問の先生が君の入試の時、面接官だったんだよね」


 あああああー……。少しは自己アピールになるかと思って言ったわ。

別に自転車部に入りたいとかいうアピールじゃなく、それを通じて色々社会勉強になったっていうでっち上げの為に言った。ちょーっと話を盛った。

が、自転車部に入りたいとか言ってないぞ、俺は。


「いや、俺は入らないデス、よ」

「ええー!いやいや、入ろうよ。列車も組めるんでしょ? 距離も当然乗れるんだし。入ろう!新人!」

「おおお俺、ホビーで十分なんで! スポ根無理なんでッ。しかも協調性ないんで、すんません!!」


 嘘は言ってない。


 協調性 あると見せかけ 実はない


 嘘やないで! 基本好き勝手だからな。芦沢クオリティ舐めんなし。

 ということで、見学そこそこ逃げました。

隣にゴルフ練習場(街中で見かけるいわゆる打ちっぱなしのあれな)もあったがスルー。

何故なら学生の間にわざわざやらなくても、やる気になったら結構手軽に出来るだろという理由。

むしろゴルフは大人になってからが本番な気がしてならない。主に営業接待的な!

 最近じゃゴルフ接待って減ってきてる気がするけど、モータースポーツの選手とかのブログとか見てるとスポンサーと接待ゴルフ行ったとかよく書いてあるから、それなりの地位になってくるとまだまだ健在なのかね。

 ともかく! ゴルフは必要になってからでいいと思っている俺だった。

 さらに散策。

デカイ温室発見。

覗いてみたらあらやだトロピカル。その園芸部の温室は蘭とか高級な花もあったけど、果樹園があったぜ。

バナナとかマンゴーとかパイナップルとか。なんでやねん。

思わず栽培方法聞いちまった。

いやだって気になるだろ。最終的にはスタッフが美味しく頂くらしいが、日夜品種改良とか研究に余念がないらしい。うまそ。

 さらにその先に厩に馬場。馬術部がある。セレブめ。

 鷹成は乗れる。乗馬習っとった。

この島国のどこに用途あんのか不明だが。貴族か。いやハイソだったネ鷹成君。

 そして何故か馬の隣に牛二頭。なんで牛。豚と羊はどこだ。

よく見たら「理科部」というプレートがあった。理科……。間違ってないが、なんか間違ってる気がする。

 え、これ理科部が世話してんの? っていうか、牛飼ってどーすんの?

 と思っている所に牛の様子を見に来た理科部員が登場したので聞いてみる。


「乳牛だからねー。乳絞って加工したり色々。学園祭でバター作る実演したりもするよ」


 ついでに理科部について色々教えてくれたが。

 生物班、化学班、物理班、天文班、女子班に分かれてるとか。活動内容が、なんかこう、俺の知ってる活動と違う。特に生物班と化学班と女子班!

 生物班なんて農作班の間違いじゃねーの? 畑があるとか言うし。化学班は肥料の研究とかいってるし、女子班は香水とか自然派化粧品ておい。俺の知ってるのと違う!

 収穫祭だの学祭での販売だの言ってるが、基本スタッフが美味しくいただくらしい。ここもか!

 園芸部にしても理科部にしても自分たちが食いたいモノ作ってるらしい。おまいら本当に金持ちの子か。

 入部勧誘は丁重にお断りした。

土いじりはあんまり興味ねぇ。しかし食べるのは別だから、知り合い作っとくかなーと腹黒い事を考えたりなかったり。

 ラグビー部あたりも一応見学しといた。

ちなみに柔道、剣道はやる気なし。護衛軍団のところで少しやったからなー。特に柔道。警察もそうだけど基本中の基本だよな。もっとも俺の根幹は空手だけど。

 それでもここには立派な武道場があるって話だからどんなもんか行ってみることにした。


「なんだこれ……」


 これまたご立派な建物が。

玄関を上がり続くホールから中を覗いてみると、熱気と共に耳にヴァーンと響く音が入ってくる。

竹刀を打ち合う高い音と床を踏みしめる音。柔道の気合の声に畳を擦る又は叩く足音。時折ズバンと小気味よい音もする。

剣道場と柔道場が広いワンフロア内にある。人数はそう多くはないが、皆熱心に稽古をしているようだった。


「こりゃまたすごい」


 俺の他にも見学者がいるが、体格が良いし真剣な眼差しで見ているってことは確実に経験者かつ入部希望者なんだろうなあ。冷やかしするのも気が引ける感じがするからとっとと退散しようと頭を引っ込めた。

 玄関を出ようとしてふと階段があることに気がついた。そういえば二階建てだったな、この建物。ついでに二階も見てみようと上っていった。

 なんかもうスゲェしか出てこないんだが。

 近代的な和モダンな弓道場だった。明るくすっきりとした空間に射手が三名立っている。もう絶対物音なんざ立てちゃいけない雰囲気。静謐でピンと糸を張ったような空気はこういった道場独特のものだと思う。

 三名が順に弓を構え、次々と矢を放った。空気を一直線に割く矢が的に突き刺さる。その軌跡をたどるように見つめていた射手はゆっくりと腕をさげた。


「あ、一年生だね。見学かな」


 その中の一人が俺に気付いて振り向いた。

 おお、いかにもきりっと武道男子って感じだな。実に男臭いが爽やかだ。

矛盾してないかって? どんなに爽やか風であろうが、男って時点で問答無用でむさいと決まっておろうが。反論は認めない。もちろんその中に俺も入ってるんだけどな……。

 ちなみに三人共モブ顔である。うわー、すんげーほっとすんだけど。

 今日は活動日ではないんだけど、見学週間初日ってことで出れる人だけ出てきたとのこと。無駄足にならなくてラッキー。

 基本的に週二回活動で、それプラス外部から師範が来るとき集合だそうだ。入部者は経験者の方が若干多いらしいが、初心者歓迎とのこと。


「ちゃーんと指導するから安心していいぞ」


 ほうほう。

 大会も出たい人だけ出るとか。合宿は遊びに行きたい所優先とか。

昨年の合宿は半分は練習で、もう半分は東京といいつつ都内じゃないねずみ系ランドで野郎だらけで遊び倒したとかって。今年は関西の某遊園地を狙ってるらしい。むさいな! ゆるいな!

 なんか聞いてると体育会系のしかも武道系とは思えんフリーダムっぷりなんだが。いや好きだけどね!? こういうノリは。


「いやー。俺らは家で色々あるだろ? だから部活ってちょっとした息抜きの場なんだよ。特にこの弓道部の連中はそう。他の部活も結構そんな感じだよ。特に文化系はね」


 ……お疲れ様です。はい。息抜き必要ない奴ですんません。ひたすら己の欲望と好奇心のみで駆けずり回っててすんません。

 その後弓を触らせてもらってから退散した。

 どうしよう。心惹かれるぞ。帰宅部のつもりだったけど迷うぞ。道場のああいう空気って好きなんだよな。

 元から文化系には行く気がない。

俺は体を動かす方が好きだ。かといって団体競技は好みじゃないわけで。

いやだって暑苦しいんだよ、ノリが。無理無理無理。俺けっこう冷めてるとこあるから絶対無理。

 かといって陸上も水泳もあまり魅力を感じないから、いい選択肢かもしれないな。

 弓道なんて設備が無けりゃどうにもならない競技で、しかもその設備がある所なんてのは限られてる。そして教えてくれる道場なんてのも他の競技に比べたら少ない。

社会人になってからやろうと思っても、そう簡単に飛び込んでいける気がしないんだよな。ちょろっと遊びで出来る競技でもない。

 ちょうど良い機会だ。矢を射る時の真剣さとは正反対の先輩たちのゆるい感じも気に入った。高校三年間やってみるかな!

   

 しかしさぁ、いくら金持ち学校だっつっても、どんだけ敷地広いんだよ! グラウンドは普通だったけど他の施設がぱねぇ。

 この学校って良家の子供が多いから部活絶対といいつつ、スポーツ特待生であったり、一部の部活以外は活動日は基本最大週三日までで良しってことになってんだって。

なぜってそれぞれ習い事とか仕事(!)とかがあるからだそうだ。さっき弓道部の先輩が言ってた!

 部活には力入れてないのに、この設備への力の入れ様があらやだ怖い。

あれか、一流の家の子供には一流の設備をってアピールか。それともトンデモ乙女ゲー設定のせいなのか、どうなんだ。ひぃ。

 敷地面積コワイ。設備費コワイ。寄付金コワイ。いろんな意味で具体的に数字を考えたくないから放棄した。

 やっぱ俺みたいな庶民がいるとこじゃねぇよ! 転校していいか。ダメだな。知ってる。

 なんてことを思いつつ帰宅した。本日は東雲邸に用はなし。

んな毎日のようになんて行き来しねぇよ。当たり前だろ。 





 部活は心に決めたが、まだ見学週間は残っている。まだまだ見学するぜー! と翌日も校内を歩き回る俺。ついでに校内把握も出来て一石二鳥。

 敷地にしろ校舎にしろ馬鹿大きいのが悪い、馬鹿大きいのが。方向音痴でなくとも軽く遭難出来そうでコワイ。詳細地図よこせコノヤロウ。古典的RPGよろしく脳内で地道にマッピングかっての。

 ヨシ、これからは栄養補助食品な某バーでも持ち歩くか。大豆的な奴も嫌いじゃないぞ。若干ドライフルーツな酸味に苦手意識がわくが嫌いじゃない、嫌いじゃない。


「やあ直也君」


 廊下で顔見知りの三年の先輩に出くわした。

そういえばこの学校だったよ、この人。っていうか、いて当然でしたね、すんません。

鷹成の行く所にこの人ありだったよ、忘れてたよ。うかつだったよ。鷹成の為に先にこの学園の初等部に入学したものの、ご本人俺と一緒に公立行っちゃったからね!

 まあ中学は確実にこの学園に放り込むからそのままって事になったらしいんだけど。


「時雨先輩お久しぶりです」


 とりあえず言っておく。社交辞令ってやつだね!


「直也君に先輩と言われるとなんだか変な感じだな」

「あー、校内で時雨さんというわけにもいかんでしょう」

「俺は構わないけど、まあそうだな。早々に会いに来てくれるかと思ってたんだが」


 顔は笑って暗黒しょってんだけど。あるれぇ~?

 真っ先に先輩に挨拶きやがれコノヤロウの体育会系のノリっすか。え。そんな仲じゃないと思うんだが。え。ただの顔見知りじゃん。どゆこと。

 小学生の頃からの知り合いだ。

 時雨先輩は東雲家分家筆頭の長男という立場にある。将来は分家をまとめ鷹成の部下となるべき人物。

 最初は東雲邸で遊んでた時に鷹成のご機嫌伺い的な感じで現れて敵視されたんだが、そのうち容認されたっていうか。いつの間にか友好的態度になってたな。

 正確には敵視じゃなくて厳しい審査観察……かね。俺が鷹成の害にならないかどうかって感じ?

 鷹成に対しても無条件に好意的反応をしていたわけじゃなかった。どうも見極めの為の観察をしていたように思える。今思えばすんげーよな。

小学生の分際で生意気にも次期当主として仕えるに値するか値踏みしてたってことだぜ! またそれを当然と受け止める鷹成もなー。

 どっちもケツの青すぎる以前の児童の判断基準なんてどんなもんよ?

 人間なんて成長するにつれて変化してくもんだけどなー。

判断基準も経験や知識、周囲の情勢と共に変わっていくはずなわけで。最初良いと思ったのがダメでしたーなんてことも考えられる。その場合はポイで終わるだけだけど、逆はどーなんだろとも思うわけだ。

 最初ダメで、その後挽回してく場合もあるわけだろ。大器晩成的な。そうしたら手のひら返すような形になるのか、それとも有能さに気づかぬままなんてこともあるのかね。

 要するに判断するには小学生同士ではお互い時期尚早なんじゃねーのと思ったわけだが。確かに幼い頃から信頼関係を結ぶことの有用性は否定しないんだけどさ。

幼い時期に接触することで逆に修復不可能な関係になることも考えられるんだけどなー。

おこちゃまって感情のイキモノじゃん、基本的に。

 わからん。ハイソな連中はぶっとんでる。俺前世も庶民だったからよく分からんのだけど、この階級の奴らってこれで普通なの? どーなの? それとも荒唐無稽な乙女ゲーな無茶設定世界だからなの? おいちゃんわからんわ。

 まあ鷹成たちはそんなことにはならなかったわけで。

時雨先輩は鷹成を認め、鷹成も許容して、それなりに信頼出来る主従同士になりつつあるように見える。先輩側が完全にサポート体制に入ってることは確か。

 本来ならその二人で完結する関係なはずで、ただの幼馴染である俺の立ち位置からすると先輩も雲の上な人。

いくら東雲邸でたまーに居合わせたとしても、お互い活動領域が違い接触する筈ないんだが、鷹成の野郎が俺を「表」に無理矢理引っ張り出しやがるから完全に顔見知りになっちまった。

 果てはパーティーの付き添いに引っ張り出される時には周囲からの嫌がらせ(主に口撃だが)からさり気に助けてくれたことまである。最近では先輩と一緒に二人で鷹成の傍に控えているって感じだ。

 ……だからさぁ、俺はただの幼馴染で部下じゃないんだってばよ。待遇改善を要求したいんだが! ん? 待遇改善でいいのか? 待遇放逐……なんて言葉ねぇな。なんて言えばいいんだ?


「ところでこんな所で何してるんだ? 部室に来るつもりだったのなら今日はないぞ」


 What? 部室? なんのこっちゃ。

無駄なこと考えてたら意味不明なこと言われてポッカーン。


「俺はいい機会なんで部活見学し倒してるだけなんすけど、なんですか部室って」


 疑問符を飛ばす俺の様子に軽く目を見開いて驚いた顔をした。

え、マジでなんなの。


「鷹成様から聞いてないのか?」

「何をっすか」

「いや……。その、俺が代表を務めているアズモ会って同好会なんだが、本当に聞いてないか?」


 なぁーんのことだか分からんですが。ナニソレくえるの? 嫌な予感しかしないんだが。


「将来鷹成様の部下になる予定の生徒が勉強会をする場として、昨年から同好会を立ち上げたんだ。分家筋や関連企業の子息とか、こちらが審査した自選・他薦の生徒もいる。直也君も当然聞いているかと思ってたんだが」

「聞いたことありませんね。つか、聞いても俺には関係ない話だと思うんすけど」


 何言ってんだ、この人。頭湧いてんの?

 俺はただの幼馴染じゃあーりませんか。

部下って何それ。まだ将来どういう職業に就くかとか決めてないんだけど、俺。


「部下って何の話なんすかね。俺はただの幼馴染ってだけで、時雨先輩たちとは立場が違うんすけど。別に東雲グループな企業に入るとか決めてないし。それに部活は弓道部入る予定だし」

「ちょっと待て! 鷹成様から本当に、何も聞いてないのか? その、総帥とかにも」

「あー、親父さんすか。別に何も。ああ、今度バイトの相談に乗ってもらおうかとは思ってますけどね」


 天下の財閥総帥に何を相談する気だって? 忘れたか諸君。幅広い業種を見てみたいから、ボランティアとかバイトとかで体験できないかと。

ただの平凡な高校生じゃ手の届く範囲は限られてる。

そこで鷹成の親父さんだ。顔が広いというか、ありとあらゆる業種が傘下にあるじゃん。だから使えるコネは使おうかと。

ただそのコネがとんでもなくビッグなだけだ! 実際にはいく人かいる秘書の誰かに斡旋してもらうことになると思う。

 あ、就職そのものにコネとして使う気は全く無し。

カードが最強すぎて反則技の域だろ。むしろ断る、コワスギル。絶対逆に厄介事がどかどか湧いて出ると確信するぜ。

 ちなみにNew自転車代と世界一周貧乏一人旅の資金も欲しいわけだが。


「本当に、全く、全然、学校卒業した後のこととか話をされたことないのかい!?」

「はぁ。もし就職先なかったら鷹成のとこの護衛軍団に入れてもらおうかなーとか言ったら、隊長に『じゃあ退職まで平だな』って言われた位っすね」


 ちょっと自分の平凡スペックにがっくり来たね、あれは。

今後の伸びしろ無し宣告じゃん事実上。

わかってたけどさあ、やっぱショックだってばよ。

その後一般の警備会社にでも就職すればそこそこイケルって慰められた俺のその時の心情を140字以内で答えろってんだよ。ふ、SPにはなれない男さっ。

 所詮平凡だよモブだよ俺は! そのまんべんなく平均的なスペックに目から汗。

器用貧乏はいらぬ。特技を! 何か突き抜けた特技をぎぶみー!

 と内心雄叫び上げていたのだが、目の前の時雨先輩もまたなんか絶句してんだけど、ナニー?

 沈黙して固まる先輩を前に暇な俺。

そろそろ行っていいっすかー。俺まだ部活見学ツアーの途中なんだけど。

オーケストラ部とか落研部とか残ってんだよね。吹奏楽部が無くてオケ部! すんげー気になるだろ。といいつつクラシック音楽にはあまり興味ないんだが。

いやまあ何事も見てみないとね!

 ちなみに軽音部はあって、その中にV系とフォークにクラシックギター系もあるらしい。さり気に濃いな。


「時雨先輩そこでしたか……。あ、お前ッ」


 なんじゃらほいと近づいてきた人影を見ると同じ一年のようだ。上履きに走るラインの色が一緒。

だが初対面の奴に睨みつけられるいわれはないんだが、誰だこいつ。

 つかつかと俺の前に来た奴は敵意丸出し。


「のこのこと学園に入って来やがって。時雨先輩がなんと言おうとお前なんか認めないからな! 早々に鷹成さまから離れろ」


 おおう、久々の勘違いお馬鹿キター!

 最近じゃパーティの時ですら面と向かって言われた事なかったんだけど。


「おい! 無礼だぞ北園。彼の事を知りもしない奴が何を言っている」

「騙されてるんですよ。こんな地味な平凡顔の庶民なんて相応しくありません!」


 ナンカオレケナサレテルー。がしかし。


「で? お前さんなら相応しいってか?」

「当然だろ!」


 すげー自信。

容姿は可愛い系って感じだけど、ピリピリつんけんしてて顔面がえらいことになってるって気付いてんのかね。

同士平凡男子よりは顔面偏差値がいくらか上な感じってことは、将来的にゲームフレーム内には入ってくる感じなんだろうか。

俺の事を庶民なんていうあたり、それなりの家柄なのかね。

でもこんな価値観持った奴を鷹成が傍に寄せるか疑問だ。

 てかあれだよな。さっき先輩が言ってたアズモ会に入ってる奴なんじゃね? こんな奴らがいる所に入るなんて冗談じゃねーんだけど。そもそも俺が入る意味無くなくね?


「ふーん。まぁ頑張れ。俺はただの幼馴染ってだけだっての。そういう関係に相応しいもなにもあるかい」


 鷹成関係のこういった方面が本気でうぜぇんだよな毎度。

だから俺はただの幼馴染みだって言ってんだけど、いつになったら一発で理解するんですかね!?

 大学は別々になるだろうし高校卒業後まで鷹成と一緒にいるわけないだろ。せいぜい学生の間までだってーの。

なんでそのまま部下になるとか思い込んでんのかね。

 それこそお前らの言い方じゃないけど庶民なの! 一般人なの! 普通にどっか就職してサラリーマンやるに決まってんだろうが。安定性を考えると公務員も捨てがたい。地方公務員あたりよくね? 

 ちなみに司法試験受けたいとは思わんけど。人を裁くってなんか怖くね? 弁護士も最近じゃ商才ないとダメっぽい。

 あとそうだな。人が足りないって問題になってるから医者も魅力だが学費がな! 食いっぱぐれ無さそうだし、潰しききそうだから良いんだけど、ちょーっと考えちまう。

人の命を助けるってことで視野を広く持てば機器の開発とかそういった工学分野でもいいかもしれんけど。

 それに限らず研究職も捨てがたい。

だが一つのところでじっとしていられるかどうかが問題だ。

あちこち歩き回るには世界を跨ぐ商社なんかどうかな!?

 なんて思考がどんどんすっ飛んでいくわけだが。なんてことしてたら、目の前のちまいのは顔を真っ赤にして激怒ぷんぷん丸なんだが。


「なっ、余裕だなお前! 絶対に負かしてやるからねッ」


 なんでそういう解釈になるんだ。

なぜ素直に人の話を聞かないんだよこいつは。将来の側近になりたいってんだろ? 好きに頑張ってやりゃあいいじゃねーの。

俺をまーきーこーむーなー!


「おい! 北園!」


 何を持ってして勝ち負けとするのかよくわからんが、失礼にも人を指差して叫ぶと走っていってしまった。廊下は走っちゃいけません。

てか、時雨先輩に用があったんじゃないんかい。放置か、肝心要の用件放置か。


「イミフ」

「……すまない」

「ともかく東雲財閥な話は俺には関係ない話なんで。失礼しマース」

「え!? いいやいやいや、ちょっとまっ!」


 もう付き合いきれず俺も退場。

閉店がらがらがらっ。さっさと次の部活見学にゴーだぜぇ。




********



「もしもし父さん!? 東雲総帥と連絡取れますか!? 芦沢直也君のことでお伝えしたい事があるんです。は? いや出来るだけ早く連絡取るべきだと思うから電話したんですけどっ。あー、はい。第一秘書の方でも大丈夫だと思います、多分。はい、はい。では連絡待ちます」


 呆然と見送った時雨は周囲に人影が無いことを素早く確認すると、大慌てで父親に電話をかけていた。一旦通話を切ったあとは警戒しながらジリジリしつつ電話がかかるのを待つ。

 携帯が鳴り、びくりとするとすぐさま通話ボタンを押した。


「はい、お忙しいところ申し訳ありません。実は芦沢直也君と先ほど少し話をしたんですが。ええ。アズモ会のことで。彼、まったく入る気がないどころか既に鷹成さまの側近である認識も、意志もなかったんです。どうなってるんですか。てっきり受け入れているものだと思ってたんですが!」


 押し殺してはいたが悲鳴のような声になっている。次にはどういう教育してるんですかと続きそうな勢いでもある。

彼はとっくに直也の存在を受け入れ、最近では同僚と思っていただけにその衝撃は少なくなかったのだ。


(ただの幼馴染って……! あれだけ公の場にまで引っ張り出されてて、なんでそんな認識なんだ)


 主な幹部の間では芦沢直也は東雲鷹成の将来の片腕、腹心であるというのが既定路線といっても良い。優秀かつ絶対に信頼を損ねない人物と認識されている。表立ってそう公表されているわけではないが、気づく者は気づく。

そして幼馴染という繋がりだけしかない直也は、事情を知らぬ者から見れば東雲財閥とは接点のない一般人で、一体何者なのかということになる。

 だからこそ先ほどの北園のように、ぽっと出(に見える)の一般人の直也を直接知らぬ同世代の者は、彼に敵愾心を燃やし蹴り落とそうとするわけだが。

 また最近では直也の評価を聞きつけた他家からも目を付けられ始めていさえするのだが、知らぬは本人ばかりなりである。


(本人があの調子となると、引き抜きにまで注意しなくちゃならないのか!)


 頭痛が痛い。

 思わず間違った日本語を思い浮かべてしまうのだった。


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