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前話から一月経ってたー!
2014/05/30 ホスト教師の生徒会説明な台詞部分を改稿
不貞腐れて突っ伏している間に副委員長争奪戦は終了したらしい。勝者は誰だと前を見れば普通に可愛い女子がいた。
うっすらと頬を紅潮させて目がキラキラ輝いてる。よほど嬉しいようだ。
はてさてどの辺りが嬉しいんだろうか。事によっては事務的な関係に留めてやんよ。
担任ホスト教師との接触や、人気の生徒会と若干近づけるから程度の話なら問題ない。教師は置いておくとして、生徒会に関しては面倒くさい会議に出るくらいで親しくお知り合いになれるとは思えん。
仕事ったって、なあ。存在を印象付けられるほど直接話をする機会なんぞあるとも思えんし。まぁ、頑張れって感じだ。
問題は鷹成だ。クラス分けの掲示板から入学式まで俺が一緒にいたのは周知の事実の上、さっきホスト教師な担任が“普通に話が出来る幼馴染”とバラしたから、あわよくばってパターンの可能性もある。仲を取り持てな厚かましい人種でないことを祈る。
羽柴が目当てなら放っておけばあいつが勝手にどーにかするだろ。将来のチャラ男会計だし。
もっともそれでもなお俺を利用しようとするんなら断固拒絶だが。
正直なところ中学三年間は別の学校で過ごした俺には、鷹成の周囲がどんな事になっているのかイマイチ把握出来ていない。俺が知ってる鷹成への攻勢は小学校止まり。
もちろんその当時でも手紙渡してくれだの色々あったわけだが、所詮小学生でウザくはあったが可愛いもんだった。
あの当時はあいつも女の子に対してどう対処していいのか分からず、戸惑いながら比較的穏やかに接していたし。割と直接好き好きアピールされてたからな。
それでも断り続けていた為に、俺に仲を取り持たせようとする女子もいたわけだ。マセテヤガルゼ。
俺自身がワザと乱暴に振舞ったり、悪ガキぶりを発揮して隙をなるべく作らないようにしていれば、そういった事を頼んでくる女子はひと握りで済んだ。
ギャンギャン煩く噛み付く奴も、公衆の面前で「てめぇ何様。お前なんかの仲介なんぞするわけねーだろ。裏でこそこそしやがって。正面から好きな相手にぶつからない奴サイテー」とぶった斬ったから敬遠された。っつーか女子を敵に回した。
ま、そりゃそうだ。実際真面目な告白なんてありったけの勇気がいるってもんだ。
正直、前世女子な記憶辞書はソレは酷ダロと俺の良心にちくちくキタが、甘い顏をすれば益々増長することは目に見えていたし、また同様の事が起こるとウザイ。
ってか、これが大人しい臆病な引っ込み思案の草食女子ならまだ同情の余地はあったが、俺に噛み付ける肉食生物ならそれこそ本人に直接あたって砕け散ろと思うわけだ。
女子を敵に回して問題はなかったわけではないが、そのへんはまだ小学生。
本格的恋愛にはまだ早い年齢なわけで、本気で敵に回したのは極一部だったから助かった。理解してくれた女子もいたしな!
そんなわけで小学時代はそれである程度撃退し、中学はそもそも学校が違うため鷹成を知り、俺との関係を知る者は激減したため、仲介業者をさせようとする奴の接触は減った。無くなったわけじゃないが、ほっといても問題ない程度になった。
しかし今度は同じ学校に同じクラス。さてどうなるか。
小学校では女子を敵に回してもさほど問題はなかったが、今度は女子高生が相手だ。その言動からくる影響は怖い。
小学生レベルならガンつけて怖がらせれば大概引くが、敵も成長している。
周囲を巻き込み、か弱いふりを代表とする女の武器で来られると難しい。
しかもセレブ様とくるから下手なことすれば本気で悪役にされかねないような気がする。
まあいざとなったら一発かますけどさ。俺はやるとなったらやるぜ?
んや、まてよ。乙女ゲーのヒロインのライバルキャラいるよな!? どんな性格だったか覚えてねーけど、定番からすると高飛車意地悪根性悪横暴権力乱用我侭お嬢なんじゃね?
……え。マジで下手打つとヤバくね? 俺。詰む?
縦ロール! 入学式に縦ロールお嬢いたか!? てか定番なら縦ロールで扇子だよなっ。んな奴いんのか。でも現実にホスト教師いたし、いるしっ。
おおおおお、思い出せッ。君子は危きに近寄らずぅぅぅ~~~! って、鷹成の幼馴染って時点でアウトってわかってんだけどーっ。
オレハ イマ コンラン シテイル……。
「芦沢ー、前に出て進行やれ」
いまだざわつく中、ホスト教師が命令してきた為、混乱状態の思考を停止して仕方なく席を立った。パニック状態の頭脳を正常に戻しながらふらりと歩く。
前に出るとプリントを差し出してきた為、受け取ろうと手を伸ばそうとしたのだが、副な彼女が満面の笑顔でさっと受け取った。
あー、そー。
内心のキャーッ!って黄色い叫びが聞こえてくるようだ。
もう目がハートなんてもんじゃないよな。一歩間違えばギラギラ。可愛く見せといて貴様、肉食女子か? 争奪戦に参加してる時点で大人しいタイプじゃないか。
最近聞くロールキャベツかもしれん。あれって女子にも適用されるんだろうか。どーなんだエライ人!
ところでさ、プリントに何書いてあんのか知りたいんですがね? 今やらなきゃならんことが書かれてんだろ?
紙握りしめてこっちなんか見やしねぇ。俺なんぞ眼中にねーってか。なんかほんと、白けてくんだけどもッ。距離を置くことに決定だな、こいつは。今後とにかく邪魔だけはしてくれるなよ。
冷めた目で眺めると、早々に見切りを付けて手っ取り早く担任に直接聞くことにした。
「で、センセー、何をやればいいんすか」
「他の委員会の役員決めだ。それと教科担当係な。今渡した紙に書いてあるから、それでやってくれ」
「やっぱあるんすね、教科の御用聞き」
「そりゃまあなあ。日直がやってたら大変だろうが。あー、お前ら、苦手な教科を担当して教師に顔売っとくと良いぞー」
「顔見知りになって取り入って内申点ゲットってか。ワカリマス」
「おー、お前も俺を奉り敬えば慈悲をやるぜ」
「ケッコウデス。マニアッテマス」
ほんとロクな事言わねーな。ホスト教師の慈悲なんぞ受けんでも自力で英語単位くらいなんとかするわい。
英語はそれなりになってきたから、そろそろフランス語も習いたい。
国連の職員て母国語の他にフランス語必須なんだよな。てっきり英語だと思ってたから驚いたぜ。
いや別に国連職員を目指してるわけじゃねーけど、そういう選択肢もあるなってだけの話。なんか憧れはするんだけどな。
それはさておいて。
「副委員長、そのプリントいい加減俺も見たいんだけど」
「あっ。ご、ごめんね!!」
顔は笑ってるけど目は笑ってないんだZ。はよ渡せうらァと思ってるがゆえに。
一回絶対零度ってやつやってみたいなぁ。どーなんだろ、俺、似合うかなぁ?
あれって王子様キャラの腹黒とか、とにかく綺麗な奴がやるから様になるってイメージあんだけど。平凡顔な場合ってどうよ?
どうでもいいことを考えながら手を差し出すと、慌てたように紙を差し出してきた。若干涙目になってるあたり、俺の不機嫌を察したようだ。……紙、微妙にシワになってんだけどよ。
ため息をついてプリントを一瞥した。
基本的にどの役も定員一人のようだ。これはクラスの中で何もやらなくて済む者も出るな。俺って本当に貧乏くじ!
委員会と教科係りを一つずつ読み上げる。内部生はもう分かりきっていることだから、既にどれを選ぶか決めているのだろう。そわそわしている。
読み上げて黒板に項目を書いてもらうために副に紙を渡した。
「どれも定員一名。順番に言うんで、希望者は手を挙げてー。複数いる場合はどっか集まって決めてくれ」
それなりに進んで挙手するあたり偉いな。
一部は争奪戦になってんだけど、何がいいんだかよくわからん。なんか特典でもあるのか、幹部の顔面目当てか?
それにしても一名ずつってのは特に委員会の場合、会議の時に病欠とかしてたらどうすんだ? 嫌な予感しかしないんだが。
「センセー。委員会定員一人だけど、招集された時にそいつが欠席してたらどーなんの?」
「委員会の場合はクラス委員か副委員が行け。両方ダメなら日直。教科はいなきゃそれまでな」
「なんだそれー! ほんっと雑用じゃんかっ。んなもん、後から内容を先生が伝達してくれりゃ良くね? それか隣のクラスの奴とか学年代表みたいなのがいるならそういう奴が届けに来るとかさ」
「あー、あのな。この学校は学業は別としてだ、学内の行事だの風紀だの自治は、あくまで生徒が主導で運営管理することになってんだ。その陣頭指揮を取るのが生徒会であり各種委員会でな。教師は後見程度はするが生徒の自主性を重んじて基本ノータッチ」
ああああーっ! 分かってるよっ、乙女ゲー設定だよ!
ホントに俺的常識じゃアリエナイ。大学の自治権を思い出したぞ。
「ある意味大学みてえ……」
「おー。昔学生運動の影響も受けてこうなったらしいぞ」
まじか……。なんつー裏設定ェ。
なんかでも、資産家だの政治家の息子がやったっていうのはピンとこないけどな。まぁいいや。細かいリアルな過去設定なんぞ興味ないし。
「ついでに言っとくが、特に各委員会の委員長に着いてる奴らはそういった責任感つーか、意識が高いから欠席クラスは確実に睨まれるぞ。将来会社を背負っていく事が決まってる奴らの練習台みたいな部分があるからな。奴らの親の期待度も大きいだろうし、ある程度真剣になるのも無理はないんだが。中には後継者の側近候補も、それを狙ってる奴らもいるから切磋琢磨してんだよ」
「うわ、なんか失敗できないクサくて嫌だな。改めて聞くと引くわー。俺、庶民でヨカッタ。超ヨカッタ」
ホント俺、来る学校激しく間違ってんじゃね?
「お前……人ごとな事言ってるが呑気にしてていいのか。東雲の幼馴染だろう」
「は? 幼馴染ってだけで他には何も関係ねーじゃんすか。別にあいつに取り入らなきゃならない程立派な家じゃないし。普通に平凡な高校生活送るだけっすよ」
「…………そうか」
「そうですよ」
何言ってんだかな、この教師は。
と、この時は流していたんだが、ホスト教師の方が俺の現状を正しく理解していたってのに気づいたのは結構先の話だった。
「じゃあ、これで決定でようござんすね? んではっ、クラス委員長拝命した芦沢直也。一年間勤めさせて頂くが、皆の者、約束通り協力は全力でしやがれよ! リコールは今すぐ受け付けるからいつでもどうぞっ」
「おー!」
「まかせてー!」
「リコールなんかさせないぞー!」
ノリ良いクラスはいい感じ。
全部の委員会と教科担当が決まり、担当者名も副が記録し終わった。
ってことで、とっとと教壇から退散!
ああ嫌だった。実は俺、今までクラス委員長なんてやったことなかったんだぜ。高校生にして嬉し恥ずかし初体験なんてしたくなかったぜ……。
再びホスト教師が教壇に登場。
さっき役員決めを待ちながらの雑談では親しみやすい先生だとは思ったが、でもやっぱり攻略対象かと思うと極力疎遠でありたい。なじみやすい人柄くさいのが難点だな。
ヨシ、なるべく用事は副な女子にふってやるぜ。そうしようそうしよう。
「明日は午前中は実力試験で解散になるが、午後は部活動見学が始まるぞ。見学期間は明日から一週間。まだ決まってない奴は行っとけよ。念の為言っておくが全員どこかに所属することになってるからな」
ぐぉあーっ。まじかよ。俺帰宅部のつもりでいたんだけど。まいったな。どっか活動日が少ないとか幽霊OKの所ねーかな。鷹成知ってっかな。……なんとなく怪しいが一応後で聞くか。
「それから芦沢、小林、羽柴、渡辺。四名は明日授業終わった後、職員室に来い。外部生の特別補講について説明する。では今日は解散」
特別補講? なんだそれ。聞いてねー。
担任が去り、周囲と雑談しながら帰りしたくをしていると鷹成がやってきた。
なんつーか、ササーっと人が道を作る。
先程まで俺に話しかけようとソワソワ様子を伺っていた女子もサッと離れていく。なんのバリアだ。
そんなに近寄りがたいわけ? 本気でお前どんな風に思われてんだよ。中等部で何しでかした。
みな視線こそ逸らすが、意識が俺らに集中していることは丸分かり。興味深々だよな。わからんでもないけどウゼェ。かといって睨むわけにもいかんし我慢か。
「直也、今日は来るんだろう」
「は? いや試験勉強一応するつもりだから行かねーよ」
「教えてやるから来い」
なにその命令調、俺様かよ。いや俺様でしたね。嫌でも知ってる。が、断ってやんよ。
なーんか中学の間に徐々に俺様化してたんだよな。素直で人見知りはどこいった。俺を相手に偉そうな俺様な命令は許しまへんで!
大体入学式当日に人様の家に早々行くかよ。簡単とはいえお祝いだっての。弟も中学入学でダブルでお祝いなんだぜ、イェア!
ちなみに親には弟の方に行ってやれと言ってあるから今日は高校には来ていない。だから自転車で登校出来たわけだ。
鷹成の所も両親は来ておらず代理の人が来ており、書類とか云々は俺の家も便乗でお願いしている。財閥総裁夫妻は忙しいのだ。
保護者にとって重要な事柄は入学前説明会で全てされているし、今日は式とPTA加入式だとかなんとかで大したことはない。
うちの親は何かあれば東雲家に聞けばいいやと呑気なものである。
そういえばうちの親もなんつーか、マイペースと言おうか。東雲家を恐れないというか、平気でママ友パパ友やってるよな。母親同士仲が良いんだよ……。価値観合わねーと思うんだけどな。
この学校、家によってはこの入学式で挨拶合戦を繰り広げているが、東雲家ではスルーなようだ。実際のところうかつに来ると有象無象によってこられて迷惑かもしれないから来なくて正解なのかもしれない。
その代わり代理人が一眼レフ構え、ビデオ構えできっちり撮影してたけど。映像とともにご子息様の勇姿をご報告ってやつだな。
そんなわけで、多分今日中には東雲家へうちの親がお礼がてら書類受け取り行くだろうけど、俺は行く気ないぞ。
「……」
「なんだよ」
「……同じ学校になったんだ。また一緒に登校出来ると思ったのに自転車だって言い張りやがるし。そもそも中学だって一緒に受験しようと言ったのに公立行くし、週一位しか遊べなかったし。勝手にバイトして自転車で旅行くし。本格的に授業始まれば忙しくなるんだから今日くらいいいだろう!?」
うわああああ! 根に持ってる! めっちゃ持ってる!
低っくい声でキレないでください。上目遣いで睨まれると怖いっす!
背中の暗黒どっかどけろっ。クラス中凍りついてドン引きになってんだろが。
羽柴が不思議そうな顔してこっち見たけど、ナニお前、平気なわけ? 鷹成のお怒りモード平気なのか!
さすが将来の生徒会仲間ァ。攻略対象スゲェェェ。
「わ、わかった。わかったから! 行くって、行かせていだだきますっ」
「これからも週一の勉強会は続けるから覚悟しとけよ!」
「……うわーい……」
これ、大学生になったら一年休学して世界一周旅行くってこと言わない方が身の為かも……。
背中にぶわっと汗がッ。毛穴開いてヤバイ。
俺、今年もバイトするつもりなんだけど大丈夫かな。社会勉強を兼ねて計画練ってるんだよな。ボランティアとかも含めて。将来どんな職に就きたいとかまだ決まってないから、色々なところを見てみたい。
手っ取り早く資金も調達できるのがバイト。それ以外はNPO法人とか調べてボランティア参加させてもらおうかなとか考えてる。そのあたり、実はそのうちに鷹成の親父さんに会う機会があったらちょっと相談に乗って欲しいなーとか考えてんだけど。
鷹成のいるところでは話をしない方がいいかなと思ったり思わなかったり。
まあいいや。なんとかなるだろ。
とにかく今は目の前の怒れるヤツをなだめて帰るしかないっ。
「帰って飯食ったらすぐ行くから待っとけ」
「昼食くらい用意させる。とっとと来い」
「頼むから弟の出迎えくらいさせてっ。あいつも入学式って知ってんだろが」
「仕方ない。とにかく逃げるなよ」
「一旦約束したんだ。破らねーっての。おら、帰るぞ」
無駄に注目浴びちまった!!
クラス中の痛いほどの視線を浴びたまま、俺は鷹成の背を押して出て行った。
チラリと振り向いて羽柴に手を振ったら、口パクで「おつかれさん」だと。おー、まったくだ。
ちなみに生徒送迎用ロータリーまでエスコート。東雲家の車に乗り込むまでお見送り。
本当に御曹司って面倒くさいな、防犯的に。
過保護とも思わんでもないけど、実際のところ小学生の頃も色々あったんだよ。
元々空手やってたけど、プラスαして東雲家の護衛軍団に弟子入りしたりしてな。だって自分の身がまずヤバイんだぜ。とばっちりで! そりゃあ必死になるって!
お蔭で鷹成の準護衛扱いェ。
鷹成と遊びに出るたびに背後にぴったりゴツイおっさんが張り付くのを回避する為にも仕方なかったけどよ。大人に常に監視されて遊ぶの嫌だろ。悪戯できねーじゃん。
ともあれ今は二人で出かける時とかは少しは離れての護衛になってる。
これから三年間またエセ護衛か。あくまであいつと行動が重なってる時だけだけどな!
そろそろ護衛軍団とこ行って鍛えてもらってくるか。今日は無理だけど。
……ヒロインが登場してあいつらデートとか言ったらどうなるんだ?
いや、恋人同士になった後なら完全にプロ護衛集団にバトンタッチというか、俺が一緒に行くわけ無いしね? じゃなくて、前段階のオトモダチ状態でお出かけとかいうと、俺、もしかして付き合わされて二人共を護衛しろって話になるんじゃねーの!? ピンクのじれじれ空間で護衛ェ。
有り得そうな嫌な想像に、ちょっと黄昏ながら駐輪場へ歩いて行った。
ため息しか出ない俺だった。