表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/12

- 2  -

教師登場~

 入学式はつつがなく終了した。

 難点と言えばあれだ。悲しいことに一クラスにつき三列ごととは言えまさかの自由席だったことだ。普通出席番号順じゃなかろうか。

流石というべきか乙女ゲー世界である。前世オバサンの俺的常識的にアリエナイことやってくれる。

 おまけに俺、幼馴染、チャラ男共に同じクラスってどんな嫌がらせデスか。お蔭で三人で並んで座るハメに。

出席番号順ならバラバラになれたのに、なんてことしてくれた! 俺はお仲間のモブ達に紛れていたかったのに。

ザ・平凡として早々に友好関係を結びお気楽な男子な会話がしたかったのにこの仕打ち。

 学校よ、俺が一体何をした。

 それでも三列真ん中だったのは良かったのか悪かったのか。

通路に面してない分外からの視線はある程度遮られる訳だが、イケメン二人は通路側な訳だからモロ露出。注目浴びやすいわなぁ。

 両手に野郎、イケメンだろうがむさい野郎…。

ないわぁ。ちぇんじで! 可愛い女の子にチェンジで! 女の子に挟まれて嫉妬の嵐ならむしろウェルカム!

 しかし現実は残酷だ。むしろ女子から羨む視線がビシビシと。

 周囲のざわめきは半端ない。内部生だろう男子からも見知らぬ俺へ視線が来るし、ほんと勘弁。アウェー感が辛い。

 体育館の中は前半分に新入生、後ろに在校生。ザクっと周囲を見ると整った容姿の生徒が多い。

但し個性が欠ける為にこの集団の中では「普通」「平凡」といった表現。

ザ・標準という名のモブ集団。俺の仲間ですね、わかります。

 その中で一際目立つのがポツポツといる。

そういうのは教師も含め、攻略対象だったり、ライバルや情報提供者、ゲームスチルに出てくるような準主要人物だろう。

 何が言いたいかというと、この学校全体的に顔面偏差値高ぇってこと。

 標準な一般生徒でも学外という場でちょっと手を加えれば、それなりになるってことだ。恐ろしいぞ乙女ゲー学園。ちょっと可愛い子とか綺麗な子とか普通に沢山いるってスバラシイな。

 くーッ。彼女作るチャンスなんだけどな! なんで鷹成、羽柴と別のクラスにならなかったかな!?

もうこいつらが同じクラスってだけで女子全員持ってかれるだろ。男前系とチャラ男系の別々の個性が二人も揃ってたらどっちかに行くよな……。

 同じ学校に通うと決定した時点でどうせ彼女なんて無理だろうとは思ったけどな!?

 希望を捨てきれない俺を分かってくれ。二年こそは別々のクラスにって、今から念じとくか?

 それはさておき新入生代表挨拶はやっぱり鷹成で、席を立ち壇上に上がるや黄色い声。黄色い声に顔をしかめ、ざっと人睨みすると静かになる。内部生、調教されてんの?

 隣の羽柴はそれを見て愉快そうに小さく口笛を吹いてるし。

いやお前さんもいずれそういう対象になるからな?人ごとって顔してっけど、当事者になるからな?



 そんなこんなで閉式後、各クラスへ移動。

 黒板を見るとでかい字で投げやりに「出席番号順に座れ」とあり、机にもナンバリングした紙が貼ってあった。

 やった! やったよ俺!

 俺の努力でもなんでもないが、心中で喝采を上げる。

 廊下側の前から二番目の席で、一方の目立つ野郎二人はそれぞれ別の列の後ろの方。

別に羨ましくはない。

中央列の後ろの方って目立つじゃん。廊下側の前って教卓から死角になるから中々の好位置だ。後ろは女子だが前も横も同士・平凡男子。

 勝利だ。完全勝利だ! もう一年間席替えしなくても、イイ……。

 じきに担任がお出ましだろうから誰も一回席についたら動かない。よってあいつらがこっちに来ることもない。安全地帯だ。親交を深めるチャーンスッ。

 普通であれば外部生に注目が問答無用で集まるはずだが、そういう意味ではあの二人の存在はグッジョブ。女子の視線が集中している。

どちらかといえば羽柴の方へが多いが、その辺は物珍しい初登場の方を優先するからだろう。

 男子の方も何だかんだで意識してるっぽい。

 ちらっと見た鷹成は腕を組んで目を閉じて外界をシャットアウト。それに声をかける人間はいない。

これが孤高ってやつ? このクラスに知り合いいないんか。

 一方で羽柴の方は席周辺の女子とへらっと話ししてるし。目標に向かって本格的にチャラ男キャラでいくらしい。

そーか。ガンバレヨー。頼むから俺を巻き込んでくれるなよッ。

 内部進学生がほとんどだから、ある程度知り合い同士で外部進学組としてはアウェーだがそんなことに怯む俺じゃない。

隣の奴はさらに奥の生徒と話していたから、ちょいと暇そうにしている前の席の奴の肩を軽くつついて突撃だ。軽く自己紹介したら雑談。


「芦沢は外部生だよな。入学式の時にあっちの派手なのといたけど知り合い?」

「そうそう、学校のことよくわからないからよろしく頼むわ。あっちのチャラ男は同じ中学出身。高校デビューしちゃてなー」

「マジ? じゃあ地味だったわけ?」

「地味ってんじゃないけど、普通に髪黒かったし普通のお調子者中学生って感じだったんだわ。あれでも生徒会長やってたんだぜ?」

「へー! 生徒会長か、すごいな」

「ここの学校と違って別に誰でも立候補して普通に投票だから凄くはないぞ。どっちかっていうと真面目な優等生タイプの奴とか、お調子者のガキ大将みたいな奴が教師連中のパシリになるだけの話。ほんと、言われたことをやる雑用係であんまりやりたい奴っていないんだぜ」

「外の学校ってそんなもん? ここだと家柄とか顏とか成績とか良くないとまずなれないってのと、生徒会って言ったら下手すりゃ教師より権限上で授業出席免除とか色々特権がついてすげーよ」


 あは、鉄板の乙女ゲー生徒会。流石だ!

 そんなこと話していたら隣の奴も参戦してきて、色々生徒会について語ってくれた。

授業については闇雲に欠席OKではなくて、書類申請を顧問に出して認められればというルールはあるそうだ。後でただのサボリとバレて出席日数が足りなくなってピンチ!なんてカッコ悪い役員もあったらしい。

 過去の生徒会の失敗談的なものも面白おかしく混ぜてくるあたり、仲良くなれそうではないかッ。同士平凡!


「ん? 待てよ。なあ、クラス分けはそういう家柄で云々ねーの?」


 まあ、俺と鷹成が同じクラスって時点で無さそうだとは思ったが、俺は学力特待生って枠内な為に、その辺がどう影響してるか分からない。


「昔はそうだったらしいけど、今は違うぜ」

「そうそう。成績上位90名をシャッフルして1~3組に割り振って、残りが4~6組。7組が……あ、先生来た。またな」


 担任教師が入ってきた為に中断して座り直した。


 

 ベタだ。ベタ。ベタすぐる。

 その若い男性教師が入って来た途端にまた女子の目がくわっと。流石にデカイ声出すことは自重したのか、それでも小声でキャーとさざ波のように。

 もう脳内前世辞書検索するまでもねー。あれだよ、攻略対象のホスト教師!

 甘いマスクに無駄色気。天パなのか軽くウェーブした髪にピアスにアクセ。いかにもデザイナーズブランドなハイセンスなスーツを着崩して、合わせたシャツは光沢。

 本当に存在するのかこんな教師と思ったが存在することが証明されてしまった。自由すぎるだろこの学校。

ここは乙女ゲーな世界だからというツッコミは無しの方向で! もう笑うしかないだろ?


「オレが1組担任の須栗すぐりだ。英語を担当している。オレの授業で変な点数取るんじゃねぇぞ?」


 女子の黄色い声は定番の恋人はいますかだの、好みのタイプはだの、おおよそ学業・学校生活には関係ない質問が飛ぶ。

ニヤッと気だるげに笑ってばかりでまともに答えたのは僅かだ。

適度に甘い言葉をたれ流して躱すなんざ本職か! もう聞いてるこっちは痒くて痒くて居たたまれないんですけどッ。


「オレが格好良いから騒ぎたくなるのはわかるが惚れるなよ?」


 怪我するぜってまで付け加えやがった! さりげなく髪を掻き上げて流し目ッ。ひぃッ、女子がすんげー真っ赤!

 もう駄目だ俺。限界ですッ、誰だかわかんないけどいるかも知んない隊長!


「ぶっは! マジホストっ」


 いやはや。指差して腹抱えて大爆笑しちまったよ。

 ヒーヒー笑ってたらチョークが飛んできて反射的に叩き落として投げ返しちまったのはご愛嬌ってことで。

ついでに麗しいらしい額にクリーンヒットは我ながら上出来だと思う。


「芦沢直也だな? 外部生トップの」


 まあ、ホスト教師の声が地を這ってたけどな。

クラス中から驚きの視線が集中したけど、自己紹介の手間省けたって感じ?とりあえず顏と名前は覚えられたろ。結果オーライ。

俺はポジティブな男だ、問題ない。


「ひーはー?」


 漸く笑いを収めてやったら、ホストが凶悪顔で二ヤーっと哂った。

ちなみにおどろ線の幻覚見えたが優男のソレなんぞ屁でもない。


「こっち来い」


 一応先生様の言うことは聞いてといてやろうと教壇へと行ったら、襟首をワッしと掴まれた。

引きずられ教卓の隣にクラスメイトの方を向かされ、今度は頭を押さえつけられた。


「正座しとけ」


 晒しの刑だそうな。

 だがこういうのは、こういうことを恥と思う奴に課さないと罰にならないんだぜぃ。ついでに俺は正座慣れてるから別にどーってことなかったりする。

主に鷹成のせいだが。鷹成のせいだけれどもッ。

 なので。これはいい機会と、これから自己紹介を始めるクラスメイト観察に精を出すことにしたのだった。

ついでに適度のリアクションをしては、こまめにお笑いを取ることも忘れない俺は優秀。クウキヨンデル。

 羽柴は笑い、鷹成は声を出さずに「あほー」と口パクしてきたが気にしない。

 それよりお前はもっと愛想よく自己紹介出来んのか。名前だけって。

他のクラスメイトが趣味だの特技だの面白おかしくやってるのに協調してみようとは思わんのかね!

 ……思わないんですね、鷹成さま……。

なんかクールで素敵って声が聞こえてきたぜ。

ふんぞり返った俺様クール。対極にいるのが必要以上に愛嬌振りまく羽柴なんですね、わかります。足して二で割れぇえええ。

 ちなみに俺は教卓の真横に座っている為、実は教師にとって死角となっていることに気づいていない。笑止!

 俺以外の自己紹介が賑やかなうちに全員終わると席に戻れと声がかかった。

 ニヤニヤされていたが、そうは思惑通りにはいかねーよ。どうせ脚が痺れて立てない、動けない。歩けたとしても無様にぴるぴるのヨチヨチ歩きで、挙句コケる思ってるんだろ?

 へっ。長年財閥御曹司の幼馴染やってると思うなよ?

 逃げ損ねようもんならセレブな格式があろうが無かろうが、どんな席でも付き合わされて長時間正座に対処できる体になってんよー! 一般家庭の俺に付き添いさせんな……。

最低限のマナー以上身につけざるを得ないハメになっちまったじゃねーか。

……俺だって恥をかきたくねーんだよ。必死こいて幼子が涙目で勉強したわ、マジ勘弁しろ。

 立ち上がる前に折り曲げ畳まれた足をそのままに、足首を立て足の親指に力を入れる。これでおっけー。そのままスっと立ち上がる。

少々痺れが残り足の裏の感覚が鈍いが、その感覚と実際の床の位置等を計算に入れバランスを取れば傍目にはノーダメージで歩いているように見えるはずだ。

 席に着席し勝ち誇ったドヤ顏してやったらホスト教師は鼻白んでいた。ざまァ。

  

 その後は委員会だの係りだのそんなのを決めるという。

ああ、そういうもんもあったなと思い、頬ずえついてぼけっとしてたら

、ホスト教師と目が合った。

嫌な予感がする。そう思った次の瞬間、奴は心底嬉しそうにニヤぁーと笑いやがった。


「芦沢。クラス委員やるか」


 貴様! 意趣返しかーッ!

 ってか、どーでもいいがあんたの笑いって基本「ニヤリ」なわけか? 一応バリエーション有りのようだが。

腹黒いとかエロいとか。爽やかはホスト教師の脳内辞書にすら無さそうだ。

 それはともかく。


「いやいやいや。ここは何も知らんわ、ツテもない外部生より内部生の方が適任でしょう!あ、ほら、鷹…じゃなくて!東雲君とかッ。彼、優秀でしょ?」

「あー東雲は駄目だ。多分生徒会に引っ張られるだろうから、後からまた委員長決め直すのめんどい。大体融和性に欠けるこいつにはクラス委員なんて潤滑剤は無理だ」

「は? え? 何言って…って、マジで?」


 周りを見回すとうんうんと頷く者と、気まずげに視線をそらす者。

平然としてるのは鷹成だけで、意味がわからずぽかんとしてるのは俺を含めた外部生四人だけだ、多分。

 鷹成……お前中学でなにやってたの?

 思わず生暖かい目で見てしまうのは仕方なかろう。見返してきたあいつはドヤ顔って……なーんぞそれ。いやいや、威張れる事じゃないから!

 俺の預かり知らぬあいつの中学時代に頭痛を感じながら回避にはしる。


「だからっ、普通内部生がやるもんじゃないの? だってさ人的協力ないと無理でしょ」

「大丈夫だよー。僕らきっちりサポートするし!」

「俺らは全面的に君の味方だ!」

「何故!?」


 なんか男女ともキラキラ期待の目で見てるんだけど。怖いんだけどもっ。


「そう言うわけだ。芦沢、やれ」

「いやいやいや。訳がわかんないから!」

「良いか、芦沢。クラス委員ということはプリントやら集めたり、その他クラス全員と接触する機会が多いということだ。さて問題だ。うちのクラスには東雲という有名人がいる。実に話しかけにくい無駄に威圧感のある奴が」


 オーイー。本人目の前にしてそんなこと言って良いのかー。

大概自由だなこの教師。


「そんななかで普通に話し掛けて普通に会話できる奴はお前しかいない訳だ。さすが幼馴染みってところか?」


 あー…そんなことまで把握済みかよ。めんどくせえ。その他もろもろバレてそうだなこりゃ。探偵でも雇ってんの?


「それならっ、あたし副やっても良いよ!」

「あ! 抜け駆け禁止っ」


 うわ、恩着せかましい。

 にわかに女子が活気づいて盛り上がりだしやがった。

くっそ、幼馴染だから俺をダシに近づこうって腹か。またこのパターンなんですね。純粋に俺とお近づきになりたいとかって理由じゃないんですね。知ってるー!! あ、目から汗が。

 そういえばここって坊ちゃん嬢ちゃん学校の割に言葉使い普通なのな。てっきり「をほほ」とか「して差し上げますわ」とか言う奴出てくるかと思った。偏見か。偏見だな。

 ちょっと助かったと内心思いつつ様子を伺っていると、姦しい女子をホスト教師が手を叩いて黙らせた。


「いいか、同僚だった中等部の生徒会役員連中でさえ対等じゃなかった。東雲を前にして緊張せずにいられる奴は貴重なんだよ。大体こんな奴を委員会に出してみろ。会議室の空気が固まっちまってどうしようもないだろうが」

「俺にそれをどうコメントしろと」


 おーいー、鷹成君よ。お前さん友達わぁ? ドーコー?

 そういえば掲示板ところとか式前に軽い挨拶の応酬はあったけど、会話してた奴いなかったな。まさか下僕ばっかとか言うなよ? ……真剣にそんな気がして怖いんだけど、俺。


「だからお前がやれ」

「いやだからっ」


 堂々巡りって言わね?これ。


「立候補は! 立候補は居ないのか? 他に推薦出来る誰かいるだろ、内部持ち上がりな諸君!! 今なら憧れの生徒会役員と合法的にお近づきになれるチャーンス!」

「無理ー」

「別に俺ら野郎には興味ねーし、生徒会も周りも厄介だし」

「芦沢氏よろしくー」


 だ、男子ズ。ここは定番的に権力に擦り寄っちゃうぜな強者登場じゃないのか!?

 面倒か、面倒が先に立つのか。出まかせで言ったが、どんだけだよ生徒会。


「芦沢君で賛成の人!」

「はーい!!」


 誰だ今採決求めたやつ! 皆声を揃えて手まで挙げやがって。

果ては皆でこっち向いてイイ笑顔で拍手だと!?


「芦沢直人、クラス委員決定だ。ま、頑張れ」

「ノォォーーー!!」


 絶叫したとしても罰は当たらないと思う。くたばれクソホスト。

 撃沈している間に今度は女子の女子による女子のためのクラス副委員争奪戦が始まっていたが、俺にはどーでもいいことだった。

……なんでもいいよ、仕事さえきっちりガッチリやってくれりゃあ、もう。

 どうせダシにされるんだぁああああ!!!


 貧乏くじ引かされた俺を生贄にクラスはあっという間に一致団結まとまった。いいクラスだったよ……ホントニナァ!



脇役A、自業自得であります

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ