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大変遅くなりました。やっと女子登場。登場人物紹介に追加あり
実力テスト第四位。女子トップの女生徒には存外早く遭遇した。
はっきり言って想定外。いや、俺の読み違いというかなんというか、全くもってノーマークだったっていうだけの話。
別にダメージがあった訳でもなんでもないから、どーでもいいと言えばどーでもいい。ようするに美人さんだろうが他人の女に興味ないって奴だ。うん。
実力テスト順位発表の後、初の委員会があった。クラス委員長という面倒な役職を押し付けられた俺は副の女子と共に会議室へ移動である。
この女子、肉食かと警戒していたがそうでもなかった。ほっと一安心である。
だがホスト教師の相手は一任するから頼んだぜ! とイイ笑顔でサムズアップを贈りたいと思う。機会があれば是非やりたい。超やりたいやらせてくださいお願いします。
というか本人的にウェルカムだってのがすぐに知れたが。利害の一致……イイ言葉だ。
ちなみに斎藤さんという。
この日本で一番多いと思ってたけど本当は一番は佐藤であったけどまぁいいやな脇役Sであったとは驚き。
とりあえず笑っとけ。さらに付け加えれば名前も志織という。なんということだ。
イニシャルはS.S。
苗字から表記しても名から表記しても死角無しの完璧な脇役S。なんて恐ろしい子……! 最強の脇役Sに違いない。何が最強なのかは知らんけど、きっとどこかのダレカが決めてくれるに。間違いない。
いやほんと、予想に反してまともな斎藤さんである。普通だよ!
普通な女子万歳。媚びたりもしないし、鷹成や羽柴の事を探ったりもしてこない。普通に可愛いJK。
この感動がお分かり頂けるだろうか。それだけで好感度うなぎ登りである。
だがまだ油断はできない。俺は同じ失敗を二度はしない男だ……。
疑り深い? 慎重と言ってくれ、慎重と。昔色々あったんだよっ。
「でも何で斎藤さんはクラス委員立候補したんだ?」
面倒くさいのにと仄めかしつつ、実は直球で聞くあたり短気な俺である。
まあ相手が正直に答えるとは限らないわけだが。
「須栗先生のファンなの」
あっけらかんとオープンに、こっちも負けず劣らず直球だった件。
「あー」
「教科担当でも良かったんだけど、ちょっとやってみるのも面白いかなと思って」
「もの好きだな」
「今まであまり積極的に学校行事に参加してこなかったし、たまにはね? で、来年は裏方を知った上で思う存分行事を二倍楽しむつもりなの。ふふっ、高みの見物って素敵よね」
にこにこと非常に可愛らしく微笑み、実に楽しげなのだが背後に黒いものが見えた気がするのは目の錯覚に違いない。
そうだ、そうだ、こんな普通にキュートな彼女が黒いなんてあるわけないんだからねッ。
……俺だってせっかく今生は男子に生まれたんだ。初体験な青少年特有の青臭い淡い夢くらい見てみたいんだよ。しょっぱ甘酸っぱいを青春を堪能させてくれ!
そんな俺の内なるシャウトに気づくことなく脇役Sサマの語りは続く。
その楽しそうな笑顔があざとい。うっかり話の内容が霞む勢いだぜ。なんと罪なッ。
「一年生のうちだったら仕事も雑用ばかりだろうし(責任ないし)、先輩たちの指示に従えばいいから役員やるなら今年が狙い目だったんだー。運が良かったみたい」
来年だときっともっと競争率高くなると思ったしねと斎藤さんはふわふわとした実に可愛らしい笑顔である。
見惚れてまうやろ。やっぱこの学園の顔面偏差値パネぇ。外じゃ絶対モテる容姿なのに、ここじゃ普通で目立たんという。もったいない! 右見ても左見ても可愛い子、美人な子だらけなんだぜ。パラダイスはここにあったんや……! なんてな。
いや本当に、正直この学校の生徒なら男女とも普通より上。特に女子なんぞちょっと化粧すれば化けるしな。カレカノ作るなら超オススメだぜっ。
ていうか、俺も欲しい。彼女ッ。
内心悶えていたんだが、そんな彼女から引っかかる不可解な一言が飛び出してきてハテナが浮かぶ俺である。
黒いモノは聞こえないったら聞こえんっ。のはともかく。
「来年は倍率が高くなるってなんでだ?」
そう思った根拠がわからない。
普通の学校では敬遠される筈なのに、この学園の特にクラス委員というのは人気があるという。
何故なら会議では必ず生徒会の誰かしらが出席するし、何かと行事があれば各種担当委員会及び生徒会への協力活動をするからだ。
便利屋パシリは面倒だが、それ以上に役員その他に広くお近づきになれる事は魅力らしい。仕事だからということで周囲からの嫉妬は最小限に済むし、あわよくばって事だろう。
もちろん生徒会は乙女ゲームらしく家柄・容姿・成績と三拍子揃った人気者が常に役員になる。お約束の人気投票の結果を受けて上位者が推薦されて選挙となるあたり、なんだかなーであるが。
なんでそんな妙な制度になってるかっていうと、お坊ちゃま方はプライドが富士山より高く(エベレストとはあえて言わん。さすがにワールドワイドでエバレル家柄のやつはいねぇだろ)、自分より劣ると思うような人物が学園のトップとなることをよしとしない。認められないような人物が生徒会役員になった日には一切従わず(何様!)、果てはリコールなんて事態に発展し学園内が混乱した時期があったらしい。その為に人気投票の結果からとなったそうな。難儀な。
人気投票で上位に入れなかった者は立候補したくても出来ない。
いや出来ない訳ではないが推薦人の数が問題になるらしく、まず独力での必要数の確保が難しく事実上不可能。
さらに立候補の条件をクリア出来たとしても、争うのは学園の人気投票によって推薦された生徒が相手だ。
まず当選は無理だろう。よって立候補者はまずいないという結果になるのだ。
普通は意欲がありゃ十分だが、この学園じゃそんなもん通用しないんだぜぇ。
運営に食い込み何かを変えたいと思ったら生徒会役員に推薦されるような人物と仲良くなって裏でブレーン気取るしか無いだろうな。
もっとも役員になるような生徒は当然そんな操られるような事態をよしとしないだろうことは簡単に想像できる。それこそプライドが許さんだろう。
そんなわけでゲーム開始時だけの話ではなく、この学園の伝統であるからどの代の生徒会であっても憧れの的なのは言うまでもない。
ゆえに少しでも近づけるクラス委員というのは人気な役であるわけだ。雑用係であるにもかかわらず。所詮雑用係であるにも関わらず!
だから来年に限って競争率が高くなるという意味がわからない。
「だって来年は確実に生徒会に東雲君や上條君が入るでしょう? あの二人の人気ってすごいもの。絶対殺到するよ」
そ こ ま で す ご い ん か い !
あ、上條ってあれな。テスト三位の(推定)腹黒王子な。それにしても頭いてぇ。
「じゃあ斎藤さんも来年の方が良かったんじゃねーの? 今年なら鷹成と同じクラスだから近いけど、来年クラス替えで別になったら離れちゃうぜ」
「あ、私同級生興味ないから」
……なん、だと!?
思わず目をひん剥いてしまったではないかっ。
にっこりにっこりする斎藤さんを凝視しても仕方がないと思うんだぜ。確かにホスト教師のファンだとは言っていたが、が、が!
「やっぱり大人よ」
あの鷹成がっ、きっぱりすっぱり切り捨てられた!
副音声でお子様はお呼びじゃないのと聞こえたぜ。なんという……!
「あれよね包容力! それから落ち着きと渋さと滲む色気は大人の男性じゃないと出せないの。須栗先生はちょーっと軽いけど。あと隣のクラスの倉賀野先生はあの冷たそうな感じが素敵で……」
か、語っとる。俺を相手にうっとり語ってるよこの子は!
こりゃもう俺にとっても鷹成にとっても安全牌確定だが。
しかしっ。なんだろう、この敗北感。も、ぜんっぜん相手にされてない戦力外通告のこの状況、なんだかハートブレイクだよっ。
鷹成ですら歯牙にもかけてないって愉快な筈なのに笑えねぇ! もう俺ら男として見られてないんだな……。む、虚しいっ。
メンタルがりがり削られながら、よろりら会議室到着しましたよっと。
クラス委員長は別に男でも女でも良い。それは各種委員会長や生徒会役員にしても同様だ。
だが、この学園ではそうは言っても女子が長となるのは少数派である。他の学校であれば近頃は女子が元気でトップはってることもそう珍しくはないんだが。
パッと見て男子有利と見て取れるのは席順のせいである。
黒板に各クラス長が左、副が右に座るよう指示があったから、順に着席していけば一目瞭然だった。長のほとんどが男子だ。
そして前には対面の位置で二列に生徒会役員席と各種委員会長の席が並んでいる。
圧倒的に男子が多い。これでは女子の委員長はそれなりに気が強くないとその中で自己主張は厳しそうである。
クラスでも思うことだが普通の学校よりも女子の方が一歩引き、より男子を立てようとしているに感じる。これはやはりこの学園の特徴だろうなぁと思う。
男子の場合はこれから企業や官僚、政治家として立っていく事が確定している者が多いし、それに対して女子は良家の子女らしく、そういった上流階級の奥方として家を守り内助の功として盛り立てる立場にあり、そういった教育が各家庭でなされているせいだろう。
実際企業の舵取り等していたとしても、あくまで影だ。表にはやはり夫となる男性が華々しく全面に出る。
もちろん例外もあるがそれは多数派とは言えない。今時古いなと思うけどな!
だが現実なんぞそんなものだろう。古い慣習ってのは一朝一夕には覆せないもんだ。簡単に出来れば苦労しない。
男ってのは難儀なもんで、女の下位に立つってのが我慢ならない場合が多い。
昔から続く慣習だとか教育だとかの影響だけどな。
上流社会の方がより顕著な気がする。男女平等をうたって何十年も経つが根本的な意識改革ってのは難しいもんだ。
それらを考えるとキャリア志向が強く、表舞台に立ってブイブイ言わせたい系女子にとっては一般家庭に生まれたほうがよほど自由な気がする。実態は知らんが。
さて。今回は最初の顔合わせだけあって正面に座る二列の長達が挨拶と抱負を述べ、議長、副議長の承認、年間の予定をざっと確認って程度で終了だったわけだが。
そこには予想外な伏兵との交戦が待っていた! すなわち睡魔との戦いである。
コイツの前には貴賎も美醜も関係ない。それこそ老若男女の区別なく平等に襲いかかってくるのだ! こんな強敵相手に楽勝出来る奴があるだろうか。いやない(反語)。
1組である己がニクイッ。一番前なんだぜ……。
いくら心臓に鋼の毛が生えているとご近所の面白愉快な悪友たちからの評判の俺といえど、上級生の目の前で寢れんッ。ましてや生徒会長がモロ真ん前とくりゃぁ。どう見ても観察されとる。一瞬目が合ったから即逸らしてやったがなっ。
穏やかそうな御仁だがにんまり目が笑っとる。温和そうに見えるが癖のあるこの学園の長でいる以上は大物の筈だ。外見通りの訳がない。
あれか、鷹成関連か。ほんとに面倒くさいな。対鷹成で使えるかどうか考えてるんじゃなかろうか。
間違いとは言わんが、そうそう俺は利用されねぇよ?
誤解されがちだが俺らは案外ドライな関係だ。
お互いに自分の関与する事項じゃないと判断すれば何かあっても大惨事だろうと放置だし。
なんかな、鷹成のコントロール要員とかフォロー要因とかそんなもんに勘違いされるのは業腹だ。
実際のところ生徒会長がどういった思惑で俺の事観察してんのかわからんが、俺は勝手に(被害)大妄想してフツフツと勝手に絶賛お怒り中だ。
だがしかし、全然見当違いだったらハズカシーナァ。新たな黒歴史がまた一ページ……うれしくねえっ! だからこっち見んな。他の生徒会役員まで興味持ちやがったじゃねぇか。
うわぁ、小声で話しながら意味ありげに……。そっちの美人なお姉さま役員に見つめられるならともかく、野郎はいらねえ! つか、バラしただろう。お前鷹成の幼馴染みらしいぜって言っただろう!?
こんな注目嫌だ。潰れろ奴らの目ん玉よ。庶民なしがない脇役平凡のことなど即刻記憶消去するがいい。お前らの人生に欠片も関わんねーから! フレームアウトな脇役平凡の言うことは信じろ。絶対だ。
意地でも会長らの方は見てやるものかと淡々と議事進行していく中央の議長の頭上に視線を投げた。そこに百円ハゲでもあれば愉快爽快で目も覚めるってもんだがそんなもんは無かった。
それどころかこっちも武道系男前だよ。三年生だけあって俺ら一年のようないかにもガキと表現するような幼さは無く、完全に青年の枠内だ。裏山。キリッと涼しげ男前裏山ッ。
……後で知ったがこの議長、フェンシング部だってさ。
絶対日本武道系だと思ったから意外であった。まさか洋物であったとは見かけによらんもんである。
そして部内最弱の乙メン。見掛け倒しって、えー…。予想外すぎんだろ。
まぁ、乙メンとか言っても趣味があみぐるみってだけの話で、家庭科得意だぜ!という訳ではないらしいが。むしろ編み物以外壊滅的とかなんとか。それって乙メンいうのか?
とはいえ、学園の上層部に興味は無いので観察は程々が良かろう。下手に探ってうっかり距離が近づいてた日には目も当てられん。厄介事は鷹成だけで胸いっぱい腹いっぱい。
最近羽柴までうっかり攻略対象だったせいでえらい迷惑である。
なんであいつまでセレブ属性持ってたんだよ! よくよく聞いたら母親は元有名モデルだってじゃねぇか。
しかも近日羽柴自身、親の会社のファッションブランドでモデルデビューする予定とかって、お前……。
高校デビューはモテ対策じゃなかったのかよ、ああん!? 大体鷹成に「羽柴」ってのを黙ってろって言ったのに真逆の行動だろうが、矛盾してんだよォッ、うらぁ! と、胸ぐら掴んでシェイクしたらギブギブ言いながら高校デビューの結果そーなったんだ。親には逆らえぬ不可抗力だと曰った。
それは今までお前の両親は息子の顔面偏差値を実は知らんかったとかいうオチなのか? どーなのそのへん。ねぇ、どうなの。どういうことなのと突っ込みたくなったが、なんか図星だと哀れな気がして言えんかった。かっこ笑い。うむ、かっこ笑いなんだけども。
なんでこう俺はいつも思考が逸れていってしまうのか。元に戻すのはチャンネルを切り替えるがごとくあっさりバッサリなのだが、思考の迷走だけは修正できん。
それでもちゃんと人の話は聞いてるけどな。聞いてるからこそ次々と思考があっちこっちするんだが。
で、各学年で代表選べと。そんでもって委員への連絡は基本メーリングリストでするから後でアドレス登録しとけとな。
今時の高校って……。携帯持ってない奴はどーすんだと思ったが、金持ち学校に通う生徒は皆そのくらい持ってるわな。入学案内に携帯必須と書いてあったような記憶があった、そういえば。
ちなみに三年代表は議長の男前である。三年代表が自動的にクラス委員会の長となる。
各委員会の長と副というのは、あらかじめ決まっているんだそうな。クラス委員に関しても同じ扱いらしい。そんでもってクラス委員会の長は他の委員会のように単に「委員長」というのではなく、クラス代表委員長と。長いよ!!
根回し大事な~と思った俺は悪くない。ついでに学年代表も同じようにやっとけよ、どうせならと思った俺も悪くない、悪くない。ついでに根回し関係なく勝手な思いつきで俺をクラス委員にしやがったホスト教師を呪っても悪くない。
一年は一年で固まって誰が代表になるかお話し合いなわけだが、斎藤さんしか知らん外部の俺にはさっぱりだ。ゆえに俺は空気になる……!
しかし「委員長」多すぎ。クラス委員長はクラス代表、クラス代表委員長をクラス委員長と言い換えた方がいいと思うね!
なんて事を考えつつ、良きに計らえとボケっとしてたら代表は決まっていた。三年代表な議長の所に報告に行っているその後ろ姿が見えた。
「なんと見事なロングヘアーって、女子?」
枝毛も無さそうなキューティクルヘアー。
男子でなく女子が代表になるとは思わなんだ。女子としては若干高めの身長にすらりと綺麗な立ち姿だ。
「あの人がテスト四位の柏木さんだよ。才色兼備で女子の憧れの的で元副会長の婚約者なんだよー」
元って例の(推定)腹黒王子様のことか。それも合わせて男子にとっては高嶺の花って奴だな、きっと。
この学園にしては意外な人選だと思ったが、男女共に人気がある上、そういった背景であればなるほど納得である。ようは一年男子委員の中に総合的に彼女を凌ぐ者がいなかったということか。
ところで脇役S嬢よ、君はサポートキャラか。どうなんだ。俺のボソリに即座に反応してくれるのはありがたいが、ちょっとこえーよ。内部生としては常識的な内容なんだろうが、ヒロインサポートの為の練習台かと密かに疑うぞ。
いやまて。この娘のはずはねぇか。ヒロインとは学年違うもんな!
普通サポートキャラって人外な謎生物とか、ハッキングでもかましてんのかストーカーか的な情報端末装置とか、情報屋かお前は的同級生と相場が決まっている。
他学年ってパターンは少なくとも聞いたことねぇ。
第一それじゃあ不便だもんな。ってことで親切な斎藤さんということにしておこう! ああ、寮部屋が一緒でーとか近所の幼馴染でーとかいうパターンもかもしれないが、本日のところはその設定は却下で。いや本日じゃなくても却下ってことで!
各代表が席に戻り全体に挨拶したあと解散になったわけだが、一年だけは待ったがかかった。
「宿泊研修についてお話がありますので残ってください」
帰れないそうです。なんでじゃ。
しかし文句を言っても始まらない。指示に従い机をガタガタと九十度回転させて、隣の机とご対面になってコンニチワ。っていったって斎藤嬢だが。
むしろ先程まで俺の後ろに座り、現在隣になった二組の委員長とハジメマシテのコンタクトを取るべきかもしれぬ。
人脈は大事だろう、何事も。
さて。来週一泊二日で一年は宿泊研修があるのは流石の俺も知っている。今月のスケジュール表の中に書いてあったしな。
目的は新入生同士の親睦を深め、高校生としての規律と自覚を持つために云々って鉄板的なアレだよ。よくある行事だ。内進生がほとんどで学校中顔見知り状態で今更親睦か? とも思わんでもないが、俺たち外部生の為の企画なんだ! ……ってな可能性はかなり低いと推測する。
どっちかというと高校生としての云々の意味合いの方が比重が多いのではなかろうか。とか言いつつ、ただの惰性の可能性も高そうだが。
ちなみに二、三年生はそれぞれ別の場所に社会科見学である。東証とか最高裁判所や国会の傍聴とかJAXAとか。滅多に入れないエリアも見学させてもらえるらしいぜ……! その年によって行く場所は違うらしいが。JAXAの年に当たりてぇ。
それはさておき何故クラス委員がそれで残らねばならぬのか意味不明。授業の一環というスタンスである以上教師の管轄だと思うんだが。
「では研修のしおりを順に回しますので一人一部ずつとってください」
あざーっす。ってな感じでうっすら微笑む楚々とした美人さんからプリントの束を渡される。やっぱ顔に幼さは残るが美人であることに変わりはない。
うむ、素晴らしい。
少しうつむいた拍子にサラサラの髪が前に流れ、それを耳にかける仕草も萌え。
思わず見惚れてしまうやろ。そうだろそうだろと、同じくひっそり見ていた隣の男子委員長と思わずアイコンタクトとして頷いてしまったではないか。同士よ! これでちょっとした雑談くらい出来るお知り合いになれるならいいな。
それにしても流石(推定)腹黒王子の婚約者! どう考えてもヒロインに対するライバルキャラ。
他の女子と比べちゃいけないレベルで麗しすぎるぜっ。なんかもー次元がちげー。あ、元々二次元だったっけ。かっこわらい。
このお嬢さん、本当にヒロインに意地悪とかしたりすんの? いや、シナリオ全然わからんから、そういう事しないのかもしれんけど。
だからといって素直に婚約解消したいです、はいそうですかとはいかないと思うわけで、何かしらの障害イベントを起こすのだろうと推測されるわけだが。
なるべく麗しいままでいて欲しいねぇ。……美人の般若顔とか醜悪顔とか見たくねーし。絶望した姿なんてのも見たくないしな。
み ん な で し あ わ せ に な ろ う ぜ ?
もっともお嬢さんが悲しい状態になるのは、ヒロインが(推定)腹黒王子様と恋愛状態になった場合限定だけどな。
確率何分の一なんだろ。攻略対象って何人いるのか俺知らねー。脳内前世辞書検索する気にもならんな。めんどい。
俺ぇ~、画面に映らん存在すら出てこない脇役だしぃ~。鷹成が絡まなきゃ関係ないですしおすし。
羽柴?いや……あれも俺関係ないぞ、多分。鷹成以上にどうなろうと俺に影響は無いと思われる。
ところでさ、俺っちが今生きてる世界って二次元なの? 三次元なの? デジタル世界なの? どーなの?
考えたところで答えなんぞ出るわけねーけど、どうなってんだろうな。
当事者にわかるわけがない。
神様教えて! くれるわけねぇな。んなファンタジーな非常識なこと。神様とコンタクト取れたらもうそれって脇役じゃねーもんな。
俺は俺が脇役であることに誇りを持ってるぜ! 埃も持ってるけど。ほら、部屋の隅とかロッカーの片隅に。
なんて。いつまでも代表お嬢様を見ながらアホな事に思考を飛ばしてるわけにもいかんので、まずは資料に目を通した。
ごく普通、だと思う。内容は。二日間における日程内容は確かに普通のガッコ研修だ。場所の名前も研修センターだ、学園所有の。
ここまでならまあ、持ってんだね、へーで済ます。俺も。フジヤマの麓なんだー、湖の近くなんだ、へーってな。
だけどな? さりげにリゾートな雰囲気なんだけども。この一緒に回ってきたオールカラーな施設パンフレット見ると、どこのリゾートホテルだよこれ!って感じなんだけども!
テニスコートとかグラウンド、体育館、武道場はまあいいよ。屋内プールもまあ一応いいさ。運動部が合宿とかで使うのに必要なんだろうさ!
だけどな。無駄に高級そうなレストランとかバンケットルーム、なにやら重厚な感じのするインテリアの会議室とかっ。天然温泉の大浴場にフィットネスルームはあるし、サウナまでありまっせ。なにやら上品な感じのフロントだのウェイターだのも写りこんでるけど。マジで高級リゾートホテルっぽいパンフなんだけど、おかしくね!? これのどこが「研修センター」だよ。
ないわー。いくら初等部から大学部、教職員が使うっていったって、これはないわー。
これ見てる生徒も平然としてるし当たり前って顔してるし。いやまあ初等部から使ったことあるっぽいから当然といえばそうなんだろうが、全然疑問に思ってない。
金持ちこえー。こえー。こえー……。
普通研修センターって名前ついてたらもっとこう……。もっと違うもの想像するよな!? 会社のちょっとくたびれた保養所みたいなさ。俺は間違ってねぇよな!?
だけどこの面子の中じゃ俺に共感してくれるやついねぇよなー……。
思わず遠い目をした俺は悪くないと思う。庶民の世界(学校)に帰りてぇよ、俺。
半ば呆れ、半ば放心しながらも結局クラス委員って何やんのよとぼんやり考える。プリント見ても特に役割なんぞ書いてないから疑問に思う。部屋割なら別にわざわざ委員を残してまで話すようなことじゃねーもんな。
一日目は団体行動。昼はバーベキュー(+飯盒炊爨)で、午後は長縄と班ごとでのディスカッション。レストランで夕食後、希望者は天体観測。
二日目は弁当持って班行動でアスレチックやって帰校。
何気にハードな感じがしなくもないが、わざわざ残す理由がわからん。
「私たちの仕事ですが、男女混合で五~六名の班を作って名簿提出してもらいます。同時に部屋割もお願いします。天体観測の希望者とその中で代表を男女一名ずつ決めてこちらも名簿を。一日目は主にクラス単位での行動になりますが、ディスカッションに関しては班行動です。二日目のアスレチックは班行動です。ここまでで何か質問はありますか?」
代表が落ち着いた声でスラスラと言った。俺的に別に疑問は無いが、一人挙手する奴がいた。
「バーベキューの後のカッコ内はなんですか?」
はんごうすいさんであるな。てか、読めないのか。
いや俺もぱっと見たら読める自信は無いが、研修+バーベキューとくれば「はんごうすいさん」だと見当つけて読むわけだが。
「はんごうすいさんです。お米を炊くものだそうです。バーベキューもそうですが、一日目の昼食は野外で自分たちで作ることになります」
途端にざわざわしだした。なんだそれは的な感じか。
あー、おぼっちゃま達はキャンプとかやんねーのか?
ひょっとしてアレか、シェフがバーベキューグリルで焼いた高級食材を供されて食すってパターンか。自分で火起こしして焼いて食べたことないから見当つかんとか。
……ひょっとしてすんげー厄介な事になってね? 嫌だけど、確認しとくべきか。しとくべきだよな嫌だけど。ってことで挙手。
「ちょっといいデスか。全体に質問させて欲しいんですけど」
「必要なことですか?」
「無事に昼食食べたいなら必要だと思いますね」
真顔で言ってみると頷かれた。よし。
「この中で自分で焼くバーベキューやったことある人、挙手」
三人……。ふ。
「続いて、火起こししたことある人。……。飯盒炊爨やったことある人……」
ふははははは! ゼロだよゼロ! ダメだろこれ。どーすんだこれ。
「代表、これ、先生というか、三年代表は何か言ってましたか?」
「……いえ、特に何も。ただ皆さんに配ったしおりとメモを渡されただけです」
「昼食に問題ありなのわかりましたか?」
「今わかった気がします」
「メモ見せてもらっていいですか」
戸惑った顔で渡してもらったが、最初に代表が言った名簿その他の事とアスレチックについての注意事項が書いてあるだけで、昼食についてはただ食材と道具・食器類は研修センターに用意されているとしか書いていなかった。
「えーと、毎年この内容って同じなんですかね」
「同じと聞いていますが……」
すると他の委員からも同意の声が上がる。
「そういえば大変だったとかいう話は聞くけど、具体的な話って聞いたことない」
「言われてみればそうだ。団体行動は言ってたしアスレチックの事もちらっと聞いたけど、昼食の話って聞いたことない」
俺も、私もと次々と言い出しざわめきが大きくなる。
結局のところ詳細に話した先輩はいないということか。三年の代表も故意に言わなかったと見るべきじゃなかろうか。そうであれば当然、教師からの口止めだろう。てか、口止めってなにそれ。
そもそも、こういう学校行事って教師が主導するんじゃないのかね。
どーも理解できねーよ。なんで生徒である三年代表から研修のしおりだの指示だの降りてくるんだよ。学園祭とかならまだわかるけど、おかしいだろ。
「もひとつ質問していいですかね。なんでコレ教師から指示くるんじゃなくて、三年の代表からくるんですか」
「ああ、芦沢君……は、外部生でしたね。この学校では基本的に行事と名の付くものは生徒会をトップに運営します。宿泊研修は授業の一環で基本内容はもちろん先生方が決定するんですけど、その後のしおり作成とか指示だとかは生徒が担当することになっているんです。今回新一年生の宿泊研修しおりに関しては生徒会で作成して三年代表を経由して私たちに降りてきてますけど、二年、三年社会科見学研修の場合は昨年度中にクラス委員で作成するんです。なんというか、そういった仕事は私たちの訓練の場……のような感じで、できる限り生徒で出来るものは生徒でが基本になります」
う。そういえばそういう設定だったな、この乙女ゲー学園は! つい忘れがちだけどな。
「今回は昼食の扱いについても私たちの課題みたいですね」
周囲から簡単にいかなかったかー! という声が聞こえる。同時に芦沢GJって声も上がってんだけど、なにゆえ。
「いや、俺より飯盒炊爨って何って聞いた奴がある意味一番GJだろ」
あれが無かったら俺だってヤバイって気付かなかったぞ。
これ、代々新一年生宿泊研修の課題って奴なんじゃねーの? いつの段階で気づくのかって。
今回はクラス委員会の中で気づいたけど、クラスに持って行って気付いてってパターンもあれば、最悪現地に行って困るってパターンもありそうだ。これ失敗すると昼飯食いっぱぐれるよな。
いつ気づくのか、対策は? どう対処する? そんな事も課題のひとつなんじゃないか。だ・か・ら。先輩達も警告も何もしない。多分箝口令でもしかれてんだろ。
「代表、炊事場がどうなってるとか、バーベキューコンロがどういう風になってるとかの情報も無いんすよね?」
大事だぞ、すんごく。
ガスバーナータイプと炭タイプじゃ全然違うし。火起こし的に。
オートキャンプ場みたいな感じなのか、それとも何かもっと高級便利設備が整ってるのかどうか確かめた方がいい。
具体的に想像していくと他にもいくつか確かめたい事が出てくる。
「ありません。……そんな種類あるんですか?」
「あー。俺が思いつく限り箇条書きして聞いてもらう……より、俺が直接担当の先生に聞きに行ったほうが早いか。ついでに飯盒炊爨のやり方とかその辺調べて資料作ろうか? 詳しい奴いなさそうだし」
おっと丁寧語が剥がれてきたぜ。
そもそも相手同学年だし、俺のキャラでもねーもんな。なんて思ってたら注目を全員の浴びてしまった。
「お願いしてもいいのかしら」
「炭だったらマニュアル無いとまともに昼食べれる班が少なそうだし。この位なら問題無いしからやるよ。ついでに野菜の切り方とか書いといた方がいいか?」
野菜は冗談なんだが、皆ぱぁーっと嬉しそうな顔してブンブン頷いてんだけど。オイ。調理実習やったことあんだろが。
これじゃあ、俺が思いつく事項から足りない部分を指摘してもらうとかいうのは難しいか。漏れなく出来りゃいいけど。
「……わかった。超初心者向けに書くわ。しおりはいつ配る予定なのかな」
「もう明日には配ります。名簿提出はその二日後締切です」
「しおりと一緒に配るのは無理か。三日後の名簿提出までに原稿は用意するから、人数分の印刷とかしおり綴じるのはその時でもOK? てか、ここにいる委員全員集合して一気に作って、翌日それぞれのクラスで配ってバーベキューと飯盒炊爨の説明した方がいいと思うんだけど。どうよ?」
「皆さん、どうでしょうか」
全員承諾の返事がくる。
ここへきて現実を突きつけられたせいか、真面目にこちらへ視線を向けてくる。拝んでるやつまでいるんだけど。
お互いにさりげに仕事増えたよなぁ。クラス委員は自分らやったことない事に対してクラスメイトにレクチャーまでしなきゃいけないというミッション。
だがまともな昼食をゲットするためには必要だ!
ちなみにご飯が失敗したら、おじやにしてみるとかどーだろう。粉末だしとか、おじやの素とかあるのかね。それも聞いておくか。
「じゃあなるべく早く仮原稿作って代表に一回持ってくようにするわ。で、足りない部分とか確認してください」
「よろしくお願いします。では一日目の昼食についてはこれでいいですね? 次に二日目のアスレチックについての話になります」
アスレチック。ただのお遊びだと思うだろ? これがな、中々ハードな物もあるんだそうだ。
失敗してもそれを糧とし、むしろそれを楽しむ雰囲気を作ること。どうすればクリア出来るかディスカッションし、全員が協力して乗り越え仲間意識を持つこと。諦めないこと。
このディスカッションの中にも幾つかの意味がある。
自分の考えを的確に伝えるということ。逆に班のメンバーの考えを聞き理解すること。
個々の長所や短所を発見し、それをカバーし合い適材適所な役割分担を考え配置すること。
そんな説明がされた。
いやー深いよ。たかがアスレチック。されどアスレチック。
他愛もないアトラクションでもただ闇雲のにクリアするのではなく、意味を持たせる事で随分と変わる。恐れ入った。
でもさこれ、クラス戻って説明すんの? それまた難しくね? え。誘導するって、ナニそれ無理ゲー!! いやいやいや、狙いくらいは説明しようよ。
あ? 一日目の午後の班ごとのディスカッションでアスレチックのコースとか説明書かれた地図配るから、それ見て作戦練るから大丈夫? はぁ、まぁ。そうか、そうかもな。でもクラス委員は一応全部の班の様子見て、場合によっては助言しろ?
ちょ、仕事多いだろっ。
だってどう考えても一日目の昼食だって各班見回んないとダメじゃん。その上アスレチックもかよ。
俺ら自身だって班での活動ってやつあるわけだよ。両立してくださいって。
ちょ、教師の役割じゃね!? ダメ!? 生徒の自主性!?
なんだかなぁ、もう。俺、今回全力では楽しめなさそうなんですけど!?
とりあえず、とっとと担当教師のところに行くか。質問攻めにしてやんよ! どうにか教師も使い倒せねーかな。無理か。
ともかく初の全班まともな飯食えた年にしてやるぜっ。
委員会で終わってしまった




