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Deer! and Bear?  作者: ムルモーマ
1.良く晴れた秋の日
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足が折れるよ

 石畳の上を駆け抜け、人々が周りを避けていく。

 パン屋の前に居た婦人が、倒れている老人を抱きかかえながら、「あっちよ!」と指で方角を指し示して、泥棒が行った方角を教えてくれた。

 丁度、走って逃げている泥棒らしき男が、詰所から遠い方、右に曲がったのが見えた。近くに居る人が誰も捕まえようとしない事から、武器を持っているのは確かだった。

 この辺りで隠れられるような場所は、とリドムは頭の中で地図を張り巡らせる。

「とりあえず、追ってくれ」

 銀鹿に言い、リドムは思考に耽る。

 確か、この辺りの店と店の間は雑多な物が多くて入れるような所は無い筈だ。

 右に曲がると、何人かが転んでいた。

「何があった?」

 肩を抑えつつも苦々しく言った。

「あいつ、俺達を踏み台にして屋根に駆け上りやがった」

「何だって!?」

 屋根を見回しても、既に泥棒と思われる男は居なかった。屋根に上るなんて、完璧に予想外だった。

「……くそっ。ああ、顔は見えたか?」

「いいや、フードを被っていたから良く見えなかった」

「そうか……」

 見失った。投げやりに、銀鹿に聞いてみる。

「お前、臭いで追えるか?」

 銀鹿はすぐに走り出した。どうやら出来るようだった。


 パン屋の前で、銀鹿は足を止め、くい、と首を店の中の方へ動かした。

 この店はガラスを使った大きな窓を使用してあり、外からでも中の商品が美味しそうに見えていた。

「この中に泥棒が居るのか?」

 銀鹿は頷いた。

「分かった。もし、俺が逃がした時は、殺さないように投げ飛ばしてくれ」

 そう言うと、銀鹿はリドムの足を踏みつけた。加減しているのだろうが、その体重の性でかなり痛い。

「……そんなヘマするな、ってか?」

 答えてはくれなかったが、理由は同じようなものだろう。

「まあ、行ってくる。ここで待っててくれ」

 リドムはドアを開けて、パン屋の中へ入った。

「いらっしゃいませ~」

 にこやかな笑顔で女性従業員が挨拶をするが、リドムはそれを無視するように言った。

「済まないが、ここの従業員を全員呼んでくれないか?」

「はい?」

「この店の中に泥棒が居る」

「……へ?」

「早くしろ」

「……分かりました」

 意味が分からない、と言った顔をしつつも、女性は奥の方へ歩いて行った。

 そこでリドムは、銀鹿が自分の足を踏んだ理由が分かった。

 ……俺には誰が犯人かを確実に見分ける方法が無いじゃないか。

 自分が楽したいから、下手な事はするなとか、そういう理由では無く、単に馬鹿にされただけだった。

 少しした後に、このパン屋の主人らしき人と、男女合計4人が出て来た。

 要らぬ質問をされると面倒なので、間髪入れずに本題に入った。

「この少しの時間に、1人で居た奴はいるか?」

 会計をやっていた女性と、男2人がおずおずと手を挙げた。

 リドムは男2人に何をしていたか尋ねた。

「下痢で、トイレに籠ってました」

「休んでました」

「泥棒がさっきあった。それを知っているかどうかは、今は関係ない。

 さて、俺が魔獣を雇った事は知っていると思う。この午前中、俺は警備の為ではなく、それを知らせる為に町を回ったようなものだからな。

 で、このガラスごしに居るその銀鹿だが、どうやら犬並の嗅覚も持ち合わせているようで、犯人の臭いもしっかりと記憶している。そして、ここに泥棒が居ると言ったんだ。

 さて、どうする? ここで素直に自首するか? それとも逃げようとして痛い目に遭うか?」

 脅しを掛けてみたが、3人とも、同じようにおどおどするだけだった。

 銀鹿が間違っているという事はあまり信じられない。雇い主が不利になるような事はしない筈だからだ。

 必ず、この3人の中に泥棒は居る。

 ただ、ここから逃げる事に対してかなり自信があるのだろう。それに、強く刺激も出来ない。

 武器を隠し持っているならば、人質を取る事も有り得る。どうしたものか。

「……本当にいいんだな?」

 そう言って、リドムは3人との距離を詰めた。3人の反応は変わらなかった。

「分かった」

 そう言って、リドムは突如動いた。

 真中に居た男に膝蹴りを食らわせつつ、左に居た男の首を片手で締めた。ただ、左の男はすぐに白だと分かった。

 真中の男が、膝蹴りと同時にバックステップをして、右手を後ろにやっていたからだ。

 武器を取り出されては困る。リドムはすぐに男を抑えようとした。

 銀色の刃が見えた。リドムがその右手を掴む。脛に蹴りを食らうも、どうにか堪え、そのまま右腕を捩じ上げた。

 掴んでいた細身のナイフが手から落ちて、木の床に刺さった。

「待て待て待て待て! 良いのかお前! 俺の左手に握られているものを見ろ!」

 いつの間にかその男の左手に握られている物は、ガラスの小瓶だった。中は一目見ただけで害悪な物だと分かる色の何かが入っている。

「こいつには毒が入ってる。俺はすぐに解毒出来るが、お前等はっ」

 素直に聞いているのも馬鹿らしかったので、リドムは後頭部を殴り、男を気絶させた。ついでに左手から零れ落ちた小瓶を掴んでおく。

「後で色々聞きに来るので。こいつは連れて行く」

 そう言って、床に刺さったナイフも取りつつ即座に去ろうとするリドムに対し、後ろから声を掛けられた。

「ちょっと待って下さい。どうして、俺まで襲おうとしたんですか?」

「全員気絶させるつもりだったんだよ。それが俺がすぐに考えられる、最善の手だった。案の定、こんな武器も持っていたしな」

 茫然とする従業員達を後にして、リドムは気絶した泥棒を引きずってパン屋を出た。

 この後始末で昼飯が十分に食えないだろう事を思うと、もう一度この泥棒をぶん殴りたかった。だが、既に外に何人か騎士がやってきていたので、止めておいた。

 銀鹿は同じ場所で、立っていた。

「どうだ。俺だけでも捕まえられたぞ」

 そう自慢すると、また踏まれた。泥棒の脛蹴りよりも痛かった。

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